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邪竜の日記

 

 僕は、その日記を音読した。


_________________________________________________



 この日記始めて一日目。


 以前と同じく何も書くことはないが、新しい日記だ。


 一つ前の日記はボロボロになるまで使い込んでしまったから、今回は出来るだけ劣化させずに保存させることにしよう。


 日記など、やはり私には合わないと思うのだが……まあ仕方ない。


 必要な時だけ記すことにすれば、大丈夫だろう。


 五十八年目。


「……一気に飛んだね」


 僕は驚く様に呟き、その後の記述を呼んだ。



 私の相棒から「この空間を見下ろし、魔族共を支配する為のビルを立ててみるか?」と提案された。


 ……確かに、あの下賎な魔族達を飼い慣らし、その上で高みの見物が出来ると言うのであれば、それは言い提案だ。


 私はそれを許可した。



 六十年目。


 あのビルが建ち終わり、名前が決まった。


 市民投票で決める事になってしまったのが残念だったが、愚民共に私達の存在を悟らせてはならない。


 仕方ないが、投票で決まった『イエロウズ・タワー』と言う名前に決めさせて貰った。


 六十一年目。


 ……()()()が、イエロウズ・タワーの視察にやって来た。


 何回目の視察……いや、()()()か。


 あの方が一瞬このビルを外目から見て、眉を潜ませたのが怖かったが、その後の内装視察で「良い監視施設じゃないか」と最終的にはお褒めの言葉を頂いた。


 そのまま、あの方はいつもの如く私達に「任を全うしろ」と伝えて去っていった。


 最初は肝を冷やす勢いで恐怖を感じた視察だったが、今終わってから思うとやっぱり相棒の意見を聞き入れて良かったのかも知れない。


 だが、今後こんな風にチャレンジして、人目につく建物を建てるのはやめておきたい。



 ……そもそも、いつか壊れるのだから、意味は無いだろう。



 九十年目。


 この空間に侵入者が入った様だ。


 しかも、かなりの手練れらしい。入り口の花の魔人を葬ったのだ。


 私も、あれだけの実力を持つ花の魔人を葬ったのは驚いたが……まあ、元々彼奴(あやつ)にはガタがきていたからな。


 簡単にやられた所を見ると、相当に今の彼奴は雑魚だったのだな。


 だがまあ、ここに来られてしまったのなら仕方がない。この空間にて、処分して見せよう。


 加え、この空間は彼奴らが入ってきた時に我等が封鎖している。


 ここからはもう誰も出られない。あの下賎な魔族共もな。



 ……だから恐らく、あの侵入者共はこのビルへ来るだろう。



 私の相棒は既に、ここの私達の仲間を全て避難させている。


 ここに居るのは私一人。だがそれで充分だ。


 死ぬつもりなど毛頭ないが。


 このビルは監視施設なだけじゃなく、迷宮でもあるからな。



 ……逃しはしない。私達の任の為だ。絶対に殺す。



 九十年目。侵入者空間侵入二日目。


 やはり、彼奴らはビルへ侵入して来た。


 その原動力は、この空間の情報だと言うことも、私は知っている。


 だから既に書斎にある、役に立つ情報は全て焼き払った。


 あるのは下の魔族共が書き連ねた、どうでも良い書物のみ。


 ……既に侵入者は六十階にまで到達している様だ。


 ならば、少し時間を稼がせて貰おうか。



 九十年目。侵入者空間侵入三日目。


 私は、彼奴らが寝ている隙に六十階の構造を丸々変えておいた。


 六十一階の構造を少し借りさせて貰い、足止めとなる仕掛けも用意した。


 うまく絡めば、彼奴らはあそこから出てこれないだろう……。


 まあ慢心はやめておこう。



 いずれこちらへ来たとしても……私は本気で、油断せず彼奴らを殺すのだ。



 ーー魔族共の命は我等の手中に……我等はあの方の任とともに。



_________________________________________________



 日記は、そこで終わっていた。


「……ほー。あの方と相棒。しかも魔族達を下賤とね……」


 これを見るに、この著者は人型邪竜で間違いないね。寿命的に。


 その上で『あの方』と呼ばれる人物。


 誰なのか分からないけど、それほど生きた人型邪竜が屈する存在となると、かなり強大な力を持っていることが推測できる。


 だけど、それは後回しになりそうだ。


 彼等の仲間も避難し、情報も焼き払われた所も考えると、今僕達が倒すべきは人型邪竜だ。


 出てこれないだろう、という記述も気になるけど……やはり脅威の人型邪龍を倒さねば。



 ……日記を見て分かったけど、五十階以降から人がいなくなったのは、そこにいた人型邪竜君の仲間達が避難した所為だったんだね。


 でも、あの広さの階層に居た人物全員となると、その数は想像もつかない。


 それに……その子達は多分、下の魔族達と違い、戦う力を身につけていそうだ。


 それは人型邪龍も例外では無いだろう。



 ーーそして最後のあの言葉……何か裏がありそうだね。



 僕はその日記を机の上に戻し、モイラ達を呼ぶ。


「皆!そこで情報を探しても意味無いよ!」


 僕の声は書斎中にこだまする。


 即刻、地響きの如く地面が揺れ……。


「それどう言う事!?」


 と言いながら、ガレーシャとモイラが飛び出して来た。


 両方の手には分厚い本が握られている。


 フンすかと鼻息を立てる彼女達に、僕は呆れ笑いを浮かべる。


「この日記を見てーーー」


 そして、僕は事のあらましを説明した。


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