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シリアスにシリアス

 

「……最近どうだった?」


 本当にたわいも無い会話だ。付き合ってくれなくても良い。


 だけど……本当に久しぶりの会話だ。少しくらい無駄な話をしてもバチは当たらないでしょ。


「……本当に、最近はずっと休んでたかなー」

 そして、モイラは机の上に頭を乗っけてくつろいでいる。


 気楽に答えてくれるのは有難い。変に悪態を示されたら僕へこんじゃうからね。


「あれ、モイラも休暇中だったの?」


「そうだよー。最近仕事が増えて疲れたから、ハワイでバカンス楽しんでたよ」

 モイラは楽しい思い出を振り返る様に言った。楽しかったみたいだね。


 でも、僕はそれで引っかかることがあった。


「それなら、僕が来てくれって言う連絡送った時に、直ぐに返信してくれても良かったのに」


 僕は以前、古代遺跡に入る前にモイラ宛に救援依頼を送っていた。この世界に来るようにね。


 でも、直ぐに返信は来なかった。


 その時僕は忙しいのかなぁ、とか思って見過ごしてたけど、休暇中なら直ぐに返信来てもおかしくない。


 そして、それに対しての返答は、


「多分その時お昼寝してた!」


 と、何か文句有るんですか、とか言わんばかりの天然の笑顔でモイラは言った。


(……砂浜に埋めたい)

 なので僕はさり気無くドストレートの殺害予告を心の中で送った。本当に殺意湧いたからね。


 そんな時にモイラが聞いてきた。


「……じゃあ、ユトはどうしてたの?……この世界に居るという事から大体想像つくけど……」


 その質問に僕は溜息を吐きながら、


「御察しの通り未来視だ。僕は休暇中に視ちゃって、仕事に逆戻り。最悪だよ」


「……ユトって休暇を大事にするからね……。この世界に当たったりとかしてない?」


「そんな事は無いよ。流石に仕事だし、使命だからね……それは全うしなくちゃならない」


 僕は表面上では否定した……けど、モイラの言う通り、そう言う節があるのは否定できない。


 だって、僕が鉄ランクになる為に倒した冒険者君には、少し休暇を潰された事に対する鬱憤ばらしの意味も篭ってたからね。


「……良かった。じゃあユトって、この世界に来てどんな道を辿ってきたの?私を呼ぶくらいだからさ」


「ああ。それはねーーーー」




 僕はモイラの問いのまま、僕がどうやって進んできたかを言った。


 モイラは、ガレーシャとのくだりで「惚れられてるんじゃない?」とか言って来たけど「興味ない」といつも通りの返しをしておいた。


 そして、僕が色々話し終えた時には。


「へぇ〜。そのパン私も食べてみたいなぁ〜」


「本当に美味しいから、帰ったら食べさせてあげるよ」


「やった!」


 と、パンの話で落ち着いていた。


 ♦︎


 そしてその後また話に戻り、今度はシリアスな雰囲気になってから、モイラは言った。


「……ユトは、人を殺してないの?」


(さっきのパンのくだりから随分な気分転換だね)


 と、僕は思ったけど、モイラの真剣な目を見てしまったので、そのシリアスムードに乗ることにした。


「そうだね」


「……良かった。ユトはまだ、こっち側に居てくれるんだね」

 モイラは安堵したように椅子の背もたれに背を置いた。


 過剰過ぎるようなその反応に、僕は少し笑い混じりに言った。


「心配しなくても、僕は意味のない殺人は犯さないよ。……今も昔も、これからも。……それは変わらない」


 だけど僕は最終的に、決意の篭った様な顔でモイラを見ていた。


 ……おかしいな。こんなはずじゃなかったんだけど。



 僕は自分の中に、何かの感情が溢れるのを感じた……けど、僕はその時に知るのはやめておいた。



 その言葉にモイラはくすぶった様に、


「……ありがとう」


 と、感謝して来た。


 真正面からのくすぐったい言葉に、僕は優しく笑った。


 僕はそんなシリアスに包まれたムードを解消する為に椅子を立ちながら言った。


「……そろそろ眠りなよ。今日は僕が見張っておくから」


 そんな風に僕がモイラの顔を覗き込んだ時には、泣いていた。



 ……僕が泣かせた?これ。



 そんな風に僕が多少困惑している時に、モイラは涙を拭き取り、隠す様な笑顔で言った。


「ユトが休みなよ!疲れてるんでしょ?」


「いやでもーーー」


 僕は断ろうとした……けど、モイラは聞かず、全力で僕の肩を押して部屋に入れようとしてくる。


「ねえちょっと……」


 僕はズリズリと押され、遂には部屋の前へと連れて行かれた。


「はい!ここでユトはお休みね!」


 モイラは素早く扉を開け、その中に僕を押し込んだ。


「だからちょっとーーー」


 僕の抗議も意に介さず。


 バタン。ガチャリ。


 勢いよく扉を閉められ、開ける暇も無しに鍵をかけられた。


「……はあ」


 扉の前で溜息を吐く僕。


 でも、その奥で。


「勘で連れ回しちゃって、ごめんね」


 微かに声が聞こえた気がした。


 ……けど。


「……え?何?」


 残念ながら僕は全く聞こえなかった。



 ♦︎



 ……部屋の中。モイラに入れられた、部屋の中。


 僕は仕方ないので、休もうか、と思った。


「……意外と広いんだね」


 僕はその部屋の広さに驚いた。……東京の一級ホテルルームくらいはあるんじゃなかろうか。


 かなり豪華な作りだね。本当に人がいない事が目につくけど。


 ……しかも「いつでも泊まってください」みたいに家具が埃なく整えられてるところを見ると、人の手がかかっていたみたいだね。結構最近まで。


 でも、それは今気にすることではないのかな。


 僕はそのままベットに座った。


「……ふかふかだね」


 手触りを確認して、そのふかふか具合を確認した。


 ……柔らかい。手が埋もれるほどだ。


 それと同時に僕は思い出す様に、モイラに告げる様に呟いた。


「僕たちは寝なくて良いのにね。本当にモイラは……お節介なんだから」



 ーーそして、僕は流れる様に眠った……。



 ♦︎



 翌朝。


 僕はそのまま起き、さっぱりとした気分で、ガレーシャでも起こしに行こうか……とか思いながら廊下に出た。


 鍵はまだ掛かっていたので、鍵開錠魔法で開けた。


 そして、ふと僕はモイラの様子を見る。


 モイラは机に顔を埋めていた。


 だが更に……。


「すぴー……すぴー……」


 寝ていた。ヨダレを垂らして。


 ……は?


 見張りは自分がやると豪語していたモイラ自身が「寝る」というあり得ない行動に僕は、


「ーーShit(糞が!)!」


 と、気付けば謎に英語でつっこんでいた。


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