人間味を失った魔族達
そして僕らが繁華街に響き渡るほどの歓声を上げた少し後、ラット君の足が止まった。
どんな事象操作で出られるかを考え中だったので、少し驚きはしたけど、そんな驚愕は直ぐに吹っ飛んだ。
「これが、俺達が生きていられている理由だ」
そして彼は、横に退いてその姿を見せた。
これは……。
「巨大な、配膳機械なのかい?これは」
「まあ、そんなとこだ」
そこに有ったものは、横に長く広がった長い壁の様な機械だった。
本当に壁。見渡す限りの壁。
見えるのは、金属光沢のある綺麗な、謎の金属で出来た壁。
それがずっと横に伸びている。その行く先には障害物など無い様だった。
恐らく、この機械は空間の端から端まで伸びている。
それは、上にも同じ。上を見上げれば、天を衝く勢いで伸びている壁があるのがわかる。
……で、なんでこれが機械だと言えるかと言うと、配膳エレベーターの様に降りて出てきた食料を、魔族達が取って去って行くのを見たから。
あれは人力では無かった。正真正銘、機械だ。
そして「配膳エレベーター」と称した通り、この壁には四角形の穴が空いていた。
大小問わずあるその穴は、トレイが入るくらいの大きさとかから、かなり大きいガレージ位の大きさのものがあった。
その四角形状の穴からは物資が出て来るみたい。食べ物や、建材など種類問わず。
見た限り、物資の種類を案内する看板などは無かった。
……だからどうやってその物資の種類を設定しているかは分からない、けど、調べてみれば面白そう。
これで分かったね。
ラット君達は、これで食料問題を解決していた、と。
でもそれだと、これまでこの機械を独占しようとする者達がいる筈。
だってあれは、ラット君達にとって生命線。あれが無ければ死ぬ。
それを権力者が独占して、欲しいと思う人物だけに、あれで渡された食料を分け与えればいい。
それが破滅的な行動だとしても、そんな事をする馬鹿は生まれてくる。
……知能と傲慢さを持つ人間と同じ魔族が、それをしない筈が無いんだ。
でも、この機械の使用は……至ってフリーだ。
今からだって僕らはあれを使って食料を出すことが出来る。無料で、幾らでも。
でもまあ昔にそんな事を企んだ人物が出て来て、それが凄惨な事件として認識されたから、今こうしてこの機械の使用がフリーになっている可能性もあるからね。
でも、それだと納得行かない所はもっと増えてくる。
だから僕は聞いてみた。
「あの機械って、誰かの制御下とかにあったりする?……若しくは、以前そうだったとか」
するとラット君は笑い、
「……あれは神様が作ったもんだ。そうで無いとしても、あれを独り占めしようとする奴なんて居ないし、居なかったぞ」
そう当たり前の様に言い切ったラット君。
でも、その言葉を聞いた僕の心の中は『有り得ない』で埋まっていた。
……やっぱりこの空間の人々は何かおかしいのかも。そう感じていた。
だって、ラット君の言い方を聞くに、あの機械を支配しようとした人物は『五億年の中』過去誰一人として居なかったと感じられるから。
……でも、それだとおかしいんだ。
魔族という知能を持つ生き物が、五億年もの間支配欲を目覚めさせない筈が無いんだよ。
……ラット君の先祖達はそんな支配欲を、野心を、ちっとも見せなかったとでも言うの?
もしかしたらこの子達は……そんな感情をかき消されているのか?
……いや、だとしたら説明がつく。
始め、ラット君は言った。
「沢山の魔族達が住み、助け合っている」と。
その本当の意思を汲み取るとするならば、この子達は戦いという言葉すら知らないと言うことにも捉えられる。
……つまり、支配欲と闘争心がない。
他者を貶め、自分だけが上に立とうと言う醜い性質が。
他者と戦い、その中に価値を見出そうとする性質が。
フレンドリー過ぎると言うことだ。この空間で過ごす魔族達は。
ずっと助け合い、決裂もしない。
戦いに無頓着で、見向きもしない。ある意味で、機械的。
ラット君達は、闘争心という人間味を失った、機械的な魔族。そう言えるのだろう。
ーーでも、花の魔人という暴力の塊みたいな存在が生まれた以上、昔はもっと人間味に溢れた魔族達だったのだろう。
では何故、この子達は人間味を失った?




