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どんな攻撃も、感情が籠っていなければ、弱い

 

 モイラは一人で花の魔人と戦いに行った。


 花の魔人の方も、向かってきたモイラを一番最初に敵対視している様だ。


 まあ、その背後で動く気すらない僕達の姿を見て、今のところは敵では無いと推測したのかな。


 いや、それ以前に、自分の前に立ちはだかったモイラの覇気に当てられて、僕達の事なんか二の次で対処しようとしたのか……。


 うーん。良いや。理由を解析するより、目の前の戦闘を観戦する方が楽しそうだ。


 そうして僕は機械的に、残虐な戦闘をする魔人と、それらの攻撃を悠々と避けるモイラの戦闘を観戦した。


 既に何回か攻撃が繰り返されている。


 時々とモイラは花の魔人の攻撃を受けた……けど。


 それら全ては簡単に、身一つで受け止められ、攻撃の花はモイラの体を彩る様に散り続ける。


 ……やっぱり、実力の差は歴然。見るまでも無い。



 けど……。



「ねえ、魔人ちゃんって、いつからこの空間にいたの?」


 突然、モイラがそんな事を口走った。勿論、聞いての通り魔人に向けて。


 大方、強者の余裕から出る相手への戦う意義の問いかな。


 彼女の性格上、相手が戦いに対してどんな感情を抱いているかを聞きたい趣味してるからね。


 相手が機械みたいな性格しているから、この戦いにどんな感情を抱いているかを聞きたい様だ。


 そもそも、感情が無ければ話にならないけど、モイラがおしゃべりしたい性格だからね。


 そして、相手は答えた。


「五億年程前から。ずっと私はこの空間を守っている」


 そう、魔人は軽く答えた。


 横でガレーシャが驚いている様な気がするけど……まあ五億年だしね。


 そもそも、その五億年と言う計測も合っているか分からないけど、まあそれに近い年数って事でしょうね。


 ……五億年ね。ふーん。


 まあ、人が機械の様になるのには、充分すぎる年数か。


 しかも、こんな広い様で狭い空間の中にいれば。


 ……寿命という概念を無視している様だけど、恐らく、古代兵器か何か……魔人をこの空間に縛り付けた主が、不老の呪いをかけたと思う。


 不死では無い様だから、自決でもすれば良かったのに。


 ……いや、そう言う感情すらも浮き上がらないほど、昔の花の魔人は呪いの主に忠実だった……という事か。


 そして、感情を失った今でも、過去の自分が抱いた筈の忠誠心を、機械の様に辿っている、と。


 心を無くしてしまった守人……それは、以前の自分が抱いた忠誠心と、課せられた空間の守護という任に従いつつける、無心の怪物。


 で、そんな怪物と相対する創造神。



 ……さて、モイラ。



 君は、そんな怪物とどう戦うんだい?




 ♦︎




 モイラは、分かっていた。


 花の魔人という怪物の、変えようの無い忠誠心を。


 その上で、モイラは語りかける。


「魔人ちゃんって、この空間をどう思うの?」


 そうして、モイラは魔人だけに聞こえるように耳元で囁いた。


 モイラは瞬間移動する様に横に行って囁いたのだが、動揺すら見せずに花の攻撃でモイラを振り払った。


 そして、律儀に魔人は答える。


「……何も思っていません。以前の私なら、何か思っていたかもしれませんが」


 その言葉と共に、魔人は攻撃を飛ばす。


 だが、飛んでくるのはいつもと同じ、花を飛ばす攻撃のみ。


 油断させるためか……それとも戦いの基本すら忘れてしまったのか。


 だがモイラはそんな事も気にせず、もう一度質問する。


「じゃあ『君をここに縛り付けた子』について、魔人ちゃんはどう思ってるの?」


「……何も。只私は、かつての私がその主人に抱いた忠誠心に、与えられた任に、無機質に従い続けるだけです」


 そして、モイラは飛ばされた花々を剣で振り払い、魔人と見詰め合った。


 見えるのは花の魔人の心の無い、死んだ目。人生をこの空間で終わらせる為だけに生きている、機械の様な目。


 モイラはそれを見て、言った。


「ただ、過去の自分に与えられた任を、なんの感情も抱かず守り続ける……。哀しいよ。それは……」


 そのモイラの言葉を魔人は否定する様に、


「同情されても、私の行動基準は変わりません。……ただ、貴方を殺めるのみです」


 魔人は、モイラの返答も聞かず、技の詠唱に入った。


 つまり、今まで隠していた刃を、モイラに向けて放つ訳だ。


 魔人はこれまで以上に魔力を滾らせ、詠唱を告げる。


「花蓮式、空間断裂事象……花舞一閃。記録(レコード)


 その詠唱と共に、魔人の周りから散る、無数の花の刃。


 それらは二つに分かれ、一つは魔人本人の守護用の花々になり、二つは舞い散る桜の花々の様に、花弁だけが紅く空に舞う。


 ……恐らく、この事象操作は無機質な花の魔人独自のモノ。


 だが、今までの攻撃とは違うものが、一つだけあった。


 それは、感情だ。


 意思を持って動くその花々は、いつもの魔人の無機質で、規則的な攻撃の動きをしているかと言うと、そうでは無い。


 つまり、ムラがある。中途半端なのだ。


 だが、それを加味したとしても……この攻撃は強い。


 今までのどの攻撃にも、圧倒的な差をつけて、最強の手だろう。


 ……何故なら。


 舞うその花弁からは、明らかに感情を込めた様に、意思があったから。


 一つの集団から離れて舞うその花には、無邪気さが。


 主人を守るその花々には、守護欲と忠誠心が。


 流動的に動く花々には、活気さが。


 それだけじゃ無い、それらの特徴以外にも、色々な感情が入り混じっているのが分かる。


 攻撃は、意思が籠っている方が、強い。


 どれだけ攻撃的な武力だとしても。


 どれだけ基本がしっかりした型でも。


 どれだけ無機質でも。



 ーーー感情が籠っていなければ、弱いのだ。そう、今の花の魔人の様に。



 そして、それらはことごとく、感情を持った、意思を抱いた、ただの取るに足らない攻撃に負ける。


 だが、花の魔人は、それらの意思や感情を持った攻撃を有していたのだ。


 ……恐らく、あの事象操作は『彼女が彼女で無くなる』前に記録(レコード)された事象……と言う事なのだろうが、それでも、今までの攻撃の数十倍は強い。


 感情を失い、意思の力も理解できない花の魔人が何故その攻撃を選んだかは分からない……が、モイラは知った。



 ……あれは、花の魔人の殺意の集合体だと言う事を。



 その殺意が、今の花の魔人の無機質な忠誠心から捻り出したものだと分かっても。


 ーーこの世の創造神である、モイラは。


 強大な慈悲を持って。


 その圧倒的な力を持って。



 その攻撃を真っ向から受けようと思ったた。



(受けるよ、その攻撃。その過去の魔人ちゃんの意思を……真っ向から、受け止めてあげるよ)


 そして創造神はその攻撃を……見届ける。


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