僕達は世界を救いに来た
「……ここは?」
僕は以前視た、この世界に来るキッカケとなったあの未来視を体験型として見せた。
そこは、文字通りの地獄だった。
地は焼け焦げ、自然は消え失せ、空は黒く濁っていた。
そして、そんな空を悠々と飛ぶ古代兵器。
僕達は大きく削られたクレーターの下で、その物体を見上げ、地獄絵図に驚愕していた。
ふと横を見ると、灰となって消えて行くリアン王国があった。
その元には、凄まじい速さで地面を駆ける、黒く大きな物体が居た。
あれも古代兵器だろう。
だけど、今古代兵器の破壊を試みても意味は無い。
そもそも、この未来視空間は『視れる』だけで、ああいう古代兵器とかには触れないよ。危険だからね。
触れる様に出来る設定はできなくも無いけど、今は駄目。
そして僕はナレーションの様に、僕の未来視に困惑している皆に言い放つ。
「これが、古代兵器を破壊せずに解き放って仕舞った、リアン王国と世界の哀しい運命だよ」
「こんな……こんな世界が、古代兵器を起動した私達の運命なんですか……?」
アーリは小さく震えながら、僕に聞いてきた。
「そうだよ。だから僕は古代兵器を破壊するんだ」
「話が壮大過ぎて訳が分からねぇよ……」
ディルッドは今までの気丈な感じとはうって変わり、目の前の残酷な光景に圧倒されている様だ。
無理もないよね。いきなり未来視ができるという僕が現れ、創造神が現れ……この光景を見せられては。
「だけど、これが未来。君達が辿る筈の光景」
「……だから私達はこの世界を救いにきたって訳だよ」
僕とモイラは、二人で語りかける様に言った。
そしてさらっと自分達は他世界から来ました、と暗喩したが、案外気付かれてない様だ。
「リアン王国も消え、全ての生命が古代兵器によって死に絶える……最悪の運命ですね」
アーリは黙々と呟き、事の重大性に気付き始めている。
「嘘……こんな未来が、いつか来るんですか?」
ガレーシャは顔を青ざめ、僕の顔を見てきた。
僕はガレーシャの言葉を否定する様に、
「いや。これは『来るかもしれない未来』で、古代兵器を破壊し切れば、こんな未来は訪れない。僕はこれを回避させる為に、こんなに手の内を見せてるんだよ」
「そうなんですね……安心しました」
ガレーシャ含むアーリ達は安堵した様な顔で胸を撫で下ろしている。
そして、僕はモイラにもこの未来視について思うことを聞いてみた。テレパシーで。
(モイラ、君の感想も聞きたい)
(うーん。まあ、凄惨な光景であんま分からないけど……)
(ーーーー私の世界を壊すのは、ダメだと思う)
(うん。僕もそのつもりだ)
ふとモイラの顔色を伺うと、彼女は今までの表情とは裏腹に、強張った顔で空の古代兵器を見つめていた。
そのまま、あの古代兵器を壊したりしないでね。
そう僕はモイラの行動を横目で気にしつつ、僕はディルッドの視線を感じる。
そして震え上がる様にディルッドが、焦る様に僕に言い放った。
「なあ。これが本当だとしたら、マジで古代兵器を目覚めさせちまったらまずいって事じゃねえのか?」
やっと、気づいたか……ずっと言ってたのに遠回しにした所為だよ、ホント。
そして僕は決められた台詞を吐く様に言った。
「そう、だから僕は止めに来たんだよ」
今度は暗喩ではなく、直接に、分かりやすく。
そのまま僕は客観的に言った。まるで、僕が他世界から来たみたいに。
「止めに来たって……なんかよそよそしいですね」
そして、ガレーシャが反応した。
よし来た。これで行ける。
僕は心で笑みを浮かべながら、
「フィルフィナーズの務めを果たす為。身に課せられた任務を遂行する為。僕は……僕達は他世界から世界を救う為にやって来たのさ」
そう言いながら僕は、モイラと横に並んだ。
身長差が気にはなるけど、それでも良い。壮大感を感じて貰えば良いんだ。
僕は満目蕭条ノ眼を輝かせ、モイラは因果の神光と透き通る眼を向ける。全員に強大な人物と認識されればそれで良いから。
そして、彼らは予想通りの反応をした。
「フィルフィナーズ……だと?」
目を見開き、壮大過ぎる話に打たれ、彼らは驚愕する。
♦︎
驚愕しているアーリ達。
僕は体験型の未来視を解き、困惑に胸打たれているガレーシャを疾風の如く攫い、空間の地面あった隠し落し戸に身を通しながら、捨て台詞の様に吐き残した。
「後で……分かると思うよ」
そうして、僕達はアーリ達の視界から消えた。
僕はこうして先延ばしにする事で、あの子達にこの出来事を深く覚えさせるという手法を取ってみた。
ほら、街とかに飾られてる広告って、妙に好奇心を駆り立ててこない?
これがこうなって、最後の戦いが始まる……とか、漫画とかにある、そこにあった物は……とか佳境で事実を先延ばしする事で先を期待させたり、忘れられなくさせる手法とかって、あるでしょ?
それを今行った。
あの子達は純粋だから、僕の手法に引っかかってくれると思う。
僕は笑った。
(ーーー未来が、楽しみかもね)