もう一度の地獄絵図
因果操作の神剣。
それから放たれる稲妻にも似た光は、凡ゆる因果を覆す。
紅い神光は、グングニルの必中の因果すらを破壊する。
神にのみ出来る御技という事だね。
白と赤の刀身から成るその紅い光は、既に放たれた。
常人の目では先ず追えない速度で猛進するその魔槍・グングニル。
ガレーシャやアーリ達という実力者でさえ、動きの一端しか見えないだろう。
激しい風切り音を放って低く宙を駆けるその魔槍。
普通ならば、あれ程の魔力、速度を発揮している魔槍・グングニルを止められる術なんて無いように見える。
だけど。
その光は、悠々と正面から猛進する魔槍を受け止めた。包み、覆う様に相殺してみせた。
目に見える減速。それは、魔槍・グングニルではあり得ない事だ。
必中、非減速の性質を有するグングニルには、減速など許されない。
それが、自分に課せられた因果なのだから、グングニルは止まらない……筈なのに。
グングニルは、止まった。空中で、モイラの目の前で。
込められた膨大な魔力は嘘の様に全て潰え、グングニルの必中の因果も、モイラの因果操作に屈していた。
「必中のグングニルが、空中で静止した……?」
そのガレーシャの言葉と共に、モイラは臆す事無く静止したグングニルを手に取った。
「その上に、グングニルに攻撃されない……?本当に、因果の操作を体得しているんですか」
アーリは、その超常の光景を受け、やっとモイラがあの創造神だと信じた様だ。
他の兵やディルッド達も、もう疑う余地が無くなって信じた様だ。
そして、モイラは軽く僕に魔槍を返し、本当に因果を覆した事を表した。
僕はグングニルを消し、今一度聞き返す。
「……もう一度聞くけど、君達は古代兵器を見つけて、何をするつもりなんだい?」
……これは、選別だよ。
♦︎
僕は、この世界に破滅をもたらす古代兵器を破壊する為に世界に訪問している。
それを遮る者が居れば、僕はどんな人物だろうと取り除く。
そして僕はこの子達に、古代兵器をどうするかを聞く。それは、あの子達が僕の障害になる人物になるかどうかを見定める為に。
僕はアーリ達にそれらの意思を聞いたのだ。古代兵器をどうするかをね。
「古代兵器の保管。若しくは利用です」
はあ、やっぱりね。
そして、僕はさらに聞く。
「それに至った理由はなんだい?」
「記録に、使いこなせれば世界に安寧が訪れるでしょう、と書かれているからです」
僕は咄嗟にモイラに聞いた。
「そのデメリットも、君は書かなかったのかい?」
その僕の問いかけに、モイラは考えたが……。
「確かに!書いてなかったかも!」
裏表なしに、モイラは感心する様に言った。
「……はあ」
それと同時に、僕は溜息交じりに、
「言っておくけど、君達ではそれを使いこなせはしないよ。人には、身に余る力だ」
「身に余る力……?」
僕の言葉に考え始めたアーリ達。僕はその合間に、再度モイラに聞いた。
今度は、通信魔法で。誰にも悟られない様に。
(そうだよね、モイラ。そう作られてたんでしょ?)
(うーん。確かに、人には使いこなせない物だった気がするけど、そこら辺の記憶無いんだよねー)
(忘れちゃったの?)
(うん!忘れちゃった!)
モイラは白けるほどに開き直って見せた。
僕はそれに、モイラに聞こえない様に。
(……殴りたい)
愚痴を飛ばした。
……本当に、モイラのこう言う所は気に食わないけど、慣れちゃったね。
ーーその前に、忘れた……ね。
そして僕は騒いでいるアーリ達に聞いた。
「それを踏まえて聞くけど、君達はその身に余る力を……使いこなせると思うかい?」
数秒間アーリ達は考え込み、苦悩する様に言った。
「……それが本当なら、封じておくのが最善ですね……」
……そうしてアーリは、そう判断を下した。
だけどね。それは甘過ぎる。
「いいや。破壊だ」
僕のその言葉に、ディルッドは顔を強張らせながら言った。
「古代兵器だぞ!?あるだけでも歴史的価値があると言うのが分からねぇのか!?」
考古学者でないのに焦り始めたディルッド。それをモイラが止めた。
「ダメだよ、ディルッド君。私の記憶に関すると、あれは滅するべき兵器だよ」
モイラは腰に手を当てながら、お姉さんの様な口振りで正す様に言った。
それにガレーシャは反論するする様に、
「ですけど、聞く限り使いこなせれば良いーーーー」
と言いかけたけど、僕が遮った。
「ダメだ」
「……!?」
かなり強めの言葉で遮った僕に、一瞬怯えるガレーシャ。
怯えさせてごめんだけど、これだけは譲れない。
「……何故貴方は古代兵器の破壊を優先するんですか?」
そして怯えるガレーシャを横目に、アーリは聞く。
古代兵器の恐ろしさを知らない所以か。
「じゃあ、見せてあげるよ……僕が見た地獄絵図を」
そして、僕は未来視を発動させた。
見せるのは、僕がこの世界に来る理由となったあの未来視。
しかも、それをよりリアルに。分かりやすくする為、VRMMOの様に体験型にした。
つまり、あの地獄絵図を実際に体験してもらうと言う事だ。
ーーーあの残酷で、生命が死に絶えたバットエンドを。