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───神童

 

 今度こそ執事は、殺人を認めた。

 虚偽なしで。真実だとしか言えない表情で、淡々と。


「──────そうか」


 その言葉に、兄弟は揃って声音を変えた。

 瞬間。


 イドルは右手で事象操作を展開し。

 ユリは魔法を瞬時に展開した。

 けれど。


「───!?なぜ止める?」


 それらの攻撃は、その意図ごと消し去られた。

 僕達“中立”の手によって。


 手でかばう様に攻撃を止められた兄弟は、静かに僕らを睨んだ。

 今にも暴走しそうな勢い。けれど僕は告げる。


「戦前の静寂だ。少しくらいは僕らに探らせておくれ」

「───分かった。だが終わったら……」


 イドルの言葉に、僕は頷いた。

 その承諾は僕だけのモノでは無い。


 僕達だって、あの執事を殺めたいのは山々だ。

 けれど、今は聴取を行うべきだ。


「───なら、一応聞いておくが……」


 ♦︎


 皮下霊脈。

 王国直下に存在する犬の頭部の成れの果て。


 それを調べて見た所、古代兵器と同じ様に認識阻害を掛けられた。

 けれど、辛うじて見えた事は……。


 執事スーゴの魔力。

 簡潔に述べると、自爆すらできそうな程に霊脈に張り巡らされて居た。

 ヴァレンチノ呪字だ。かなり薄められていて、発見出来たのが不思議な程だ。


 けれど、確かに其処には呪いが在った。

 ならば、聞くべき事は一つ。


「───君は、この王国をどうするつもりだい?」


 僕がそう聞くと、執事は国王の玉座に寄りかかり。

 上から僕達を見下す様に、淡々と告げた。


「……破壊ですよ。古代兵器を以って、あの方の為に尽くす。それが私に許された命です」


 執事は、玉座に固定された国王を一瞥した。

 その残酷に過ぎる口から出てきた言葉は……。


 あの方、か。

 ここで出てくるのはあり得るが、流石に今は歓迎できない。


 まだまだ上が居るのかぁ。……と、僕は少し億劫になる。

 だが、その執事の言葉に対し……兄弟の怒りの線が、切れた。


「───そろそろ、黙ってくれるか?」


 事象操作で漆黒の刃を形創り。

 魔法で剣を作成する。


 そして今、敵へと……仇へと穿たれる。

 それを僕達が止める事は出来ない。けれど。


「……ほぅ───蝿としか思えませんね」


 防がれた。総て。

 執事が手を振り抜いただけで。


 全ての攻撃は、一瞬の内にかき消えた。

 紫の光が瞬いたら……一瞥と共に、塵となって無くなった。


「な───」


 呆然。

 兄弟は、その光景に呆気に取られるしかなかった。


 確かに、あの呪字の力は……以前のモノより強力だ。

 下手に受けたら、人であれば即座に死ぬだろう。


 古代兵器の力を受けているのか?

 ───いや。


 ……掌に乗る犬の像。

 見た事がある。あれとほぼ同じモノを。

 恐らく、あれはスーゴに純粋な力を提供している。


「それは……」

「───古代兵器、ですよ。お目当なんですよね?」


 その言葉に、なんらかの意図は無い。

 ずっと隠しておけば良いのに。……いや。


「───ここで終わらせるつもりなのかい?」

「……逃してはくれないのでしょう?ならば応戦するまでですよ」


 熱いね。若しくは悟りが速いのか。

 僕はそれと一緒に、息を吐く。


 そしてモイラ達を軽く一瞥し。

 対して覚悟が返って来た事を確認し、僕は次に兄弟を見た。


「はぁっ……」


 殺意を滾らせている。

 手を出すのを抑えてくれるだけ有難いが。


「怒る気持ちも分かる。僕も同じだ」


 僕は兄弟達の肩を叩いた。

 慈悲を持たず、彼らと同じ殺意をもって。


「なら───」

「……ああ。分かっている。───君達の助けが必要だ」


 障害を潰す。救済を為す。

 その為なら。


「───中立は君達を援護する。仇を討って来い」


 それに兄弟は同時に振り返り、僕らの顔を見た。

 目に映ったのは、凛然とした顔付き。


 ───『君達に託す』という意思を思い知らされた。

 あの母様と同じだ。


 ならば、背中を託さねばなるまい。

 自身の過去を一身に受け止めてくれた人間に、応えるしかあるまい。


「置いていかれないで下さいね!」

「置いていかれるんじゃねぇぞ!」


 兄弟は、一緒に語った。

 目の前の仇を倒す為の意気を、其処で告げた。

 そして。


「───雑言は終わりですか。そろそろ退屈して来ましたよ」


 執事は息を吐く。

 言葉通り、退屈そうに。


「じゃあ、もっと楽しく踊らせてやるよ。クソ爺がァ!!!」


 イドルの怒号。

 それと共に、兄弟は仲良く猛進した。

 目の前の仇を討つ為に。


 ♦︎


 紫の呪いは攻撃を塵と化し、悉くを破壊する。

 けれど、呪いも目標には届かない。


 全て能力に防がれるから。

 殺意は慈悲には敵わない。


 その事を、理解させられるような気がした。

 反撃を行える筈が、敵わなかった。


 これが友情か。

 私が切り捨てた───油断か。


 あの顔が、必死な兄弟の顔が目に浮かぶ。

 どれだけ呪いで壊そうとも。

 どれだけ拳を突こうとも。


「……くっ───」


 敵わない。

 自身にも攻撃は届かない。

 気迫の時点で負けている。


「うぉおぉぉぉぉぉ!!!!」


 ……こうだ。

 兄弟は理解できない力を携え、叫びを散らし、勢いを増す。

 背後の彼らも、うざったらしい。


 全く感情というものは。こうも───。


「我が主の命為、死ぬのです」

「はっ!これはこっちの台詞ですっ!!」


 ユリは剣を突き、叫ぶ。

 それを執事は拳で受け、少年達の元へと蹴飛ばした。


「ぐあっ!!?」


 その他、弟も同じだ。

 他に追撃も無い。ならば。


「───死に絶えなさい」


 呪いを放つ。

 本気で、死力を掛けて。


 鉄の処女(アイアン・メイデン)を形作り、抵抗者を潰した。

 少年。メイド服の亜人。他数名の塵芥共。


 かの口は彼らを飲み込み、その中へ招き入れた……筈だったのだが。

 空間ごと、宮殿を外壁ごと抉るその攻撃は───。


「……ち」


 防がれていた。かの十字架に。

 伸びる槍で勢いを殺されたりして。


 いや。何でも良い。

 ───時間が稼げれば、それで良いのだ。


 私は、この宮殿ごと。この王国ごと自壊する。

 この第十一兵器【犬】の力によって。


 元々、霊脈は第十二兵器の権化なのだ。

 皮下に蜘蛛糸の如く張り巡らされた力ならば。


 ───破壊できぬ道理はない。

 我が身の安寧は、どうでも良い。


「うぉぉぉぉ!!!」


 目の前の兄弟がまた、突進してくる。

 馬鹿の一つ覚えかのように。

 少年達の援護を経て、また私へ攻撃してくる。


 嗚呼……本当に君達は───誤算だ。


「何故お前達は───そこまで感情を高ぶらせる?」

「決まってる───」


 出てきたのは。

 兄弟に問うて帰ってきたのは。


「──────お前を殺す為だよ」


 心臓が、強く脈を打つ。

 冷や汗が垂れ流され、拳が震える。


「……っ!!!」


 執事は、逃れる様に兄弟を振り払った。

 気付けば、目の邪眼も発動していた。


 兄弟の動きが止まる。

 けれど、それに対する追撃はなかった。


「……?」


 少年は、その様子に目を細めた。

 分かりやすい機がある筈なのに、その場で立ち竦む執事に。


 悪い夢を思い出す様に、執事は顔を歪めた。

 トラウマが蘇る。


 脈打つ鼓動と共に、痛みを思い出す。

 身の毛がよだつ、あの地獄。


 私だけが知る、その痛み。

 私だけが知る、その非情。


 何故。

 何故、私が、あのような、事に───。


 ♦︎


 ───私は、リアン郊外にある呪術貴族の生まれだった。

 だが、その生まれは賞賛すらされなかった。


 寧ろされたのは、迫害。

 私は、魔力も体も。事象操作にも。


 全ての適性が、高かった。

 けれど、唯一……ある一つの要因により、人生が変わった。


 先天的な凝視の邪眼。

 これがまずかったらしい。


 元々、邪眼と言うものは呪術に生まれる者には忌み嫌われるべきモノらしい。

 魔眼ならば良い。けれど汚れているのならば、それは別。


 ……そういう事なのだろう。

 それに『凝視』という不快をもたらすモノだったのも含めて。


 ──────私は、周り全ての人間から迫害された。

 人間とも思われぬ様な扱いを受けてきた。


 メイドにも。執事にも。……肉親でさえも。

 彼らは等しく私を───『化物』として扱った。


 拷問。監禁。

 毎日毎日、私は体のいずれかを刺された。


 それも浅く、失血死すらできない様に。

 感染症も起こせない。死ねない。

 私は「悪神」だと。そう常日頃から言い聞かされた。


 全く、耳が痛い。

 私がそうでない事は、自分が一番知っている筈なのに。

 それを否定する事が、出来なかった。


 怖かったから。

「殺してやる」という言葉を、本気で成されるのではないかと。


 そんな悪寒が、毎回思う度に走った。

 だから私は、死ななない様に。

 無いはずの希望に、虫の様に這いつくばった。


 土を舐め、痛みに耐え。

 かの親の恍惚とした表情に、カラクリの様な笑顔を浮かべる。


 だから私は十歳になっても尚、生きていたのだろう。

 罰は習慣へとなった。


 気付けば、元々在ったヴァレンチノ呪字は変化を遂げていた。

 今までよりも邪悪に、全てを恨む呪いへと成り上がっていた。


 その呪いの内には殺意が在った。

 恨めしい親達を殺してやろうと。


 私の暗い世界に光を見出してやろうと。

 そんな希望を、呪いの内で滾らせていた。


 だが、決行は出来なかった。

 全ての反抗は、許されもしなかった。


 悉くの反抗は、行動へ移す前に勘付かれた。

 それ程までに、私の両親は私を化物と見なしていた。



 ──────そんな日の事だった。



 目を開ける。

 鼻には『血液』の匂いが流れ込んでくる。


 自分のモノでは無い。痛みも無い。

 拷問の時間では無い。


 ならばと。

 私は目を開けた。


「───!!?」


 ……落ちていた。

 母の首が。父の足が。

 メイドの手が。


 ───いずれ、私の主人になる人の手によって。

 成されるはずのなかった迫害者の死は、あの方の手によって成されていた。

 そして、あの方は……。


「私の所に来い。小僧───」


 手を差し伸べ、そう笑った。

 顔の見えぬ漆黒の中だったが、その笑いは感じ取れた。

 それを聞いた私は───泣いていた。


 気付けば、だ。

 私のトラウマをなぎ払ってくれたあの方に、私は感謝していた。


 だから。


『ヒイラギ王国の尖兵となってこい』受け入れた。

『感情を失え』従った。

『自身の心を亡くし、国王を傀儡と扱え』二つ返事で承諾した。

『母カーネを抹殺しろ』了承した。


 全ては、あの方の為に。


『──────私は、死んでもあの方に尽くしたかった』


 借りを返したかった。

 自身を救ってくれたあの方に、尽くしたかった。

 なのに。


「私を殺す……?───貴方達に、私の忠義を否定されてたまりますかぁっ!!!!」


 ♦︎


 怒号。

 今まで感情の一端すら見せなかった執事は、そう叫んだ。

 まるで人間だ。少し狂ってはいるが。


 だが、その眼光は光を増した。

 邪眼だ。凝視の邪眼。見られれば圧倒的に弱体化する。

 一瞬だけ動きを止めた執事は、呪いと共に猛進する。


「!!?」


 動けなくなった兄弟を、拳で叩きのめす。

 感情的にはなっていない。

 やはり、さっきのは油断にも近い焦燥だったのだろう。


 だが、もう執事はそれを振り払った。

 怒りを力に変え、淡々と残虐を尽くした。


「ぐぁっ!!?」


 兄弟共々、執事の猛攻を受ける。

 地面に中身をぶち撒けられた土嚢の様に。


 吐血を繰り返し、抵抗も出来ずに叩きのめされる。

 援護は……出来なかった。


「見てられない───」

「……やめろ!!これは俺たちの戦いだ!!」


 助けようと行動を起こそうとする度、兄弟に止められるから。

 血が滲みながらも強い眼光で、それを止められるから。


 介入は元から、出来ないのか。

 けれど───。


 血を吐き、腹を叩かれる。

 肋骨が折れる時に鳴る鈍い音は、兄弟達の死を予見していた。

 それにフェルナは声を上げた。


「そのままでは死んでしまいますわ!」


 けれど、返ってきたのは変わらぬ眼光だった。


「───これは、俺たち兄弟の戦いだ!気持ちだけは受け取っておくがなァ!」


 仇を討ちたい。

 目の前の執事を殺したい。心から。


 そんな意思が、彼ら兄弟の瞳には写っている。

 かの執事に未だ反抗を示す様は、正に。


「───行くぜユリ!這いつくばってないで立てよ!」

「分かってますよ!全く人使いが荒い弟だ……けれど」


「───それが愛嬌でもあるってなァ!!」


 兄弟だった。

 先程まで狂っていた面影は無い。

 兄に手を差し伸べ、それに笑顔で感謝する様は。

 ……母が愛し、望んだ兄弟の姿だった。


 やはりか、それを止めることは出来ない。

 兄弟の燃やす闘志は、この場の誰よりも強い。

 故に。


「援護しよう。───フェルナ!!」


 僕達はそれに、約束通り援護する事を選んだ。

 援護だけを。精一杯の助力。


 僕達は、それを尽くそうとした。

 フェルナへ視線を送り、十字架の助力を請うた。


「了解!」


 笑顔と共に、十字架は兄弟を包み混む。

 それに、放たれた呪いは傷をつける事なく霧散した。

 それどころか。


「傷が───癒えていく」


 体に出来た裂傷も。

 折れた肋骨も……全て。


 十字架の聖光が煌めく時、兄弟は一切合切を凌駕する刃と成る。

 目の前の執事を、殺す足掛かりに成る。

 だが、スーゴにも……意思がある。忠義がある。


「小癪。こんな所で、私は───」


 呪い。

 拳に煮えたぎった怨念は、今ここに放たれる。


「打ち倒される訳には、行かないのです」


 紫が空間を壊死させる様に。

 呪いが、兄弟の死を望む。

 だが。


「───それは、こちらも一緒です」


 執事の集大成は。

 執事の築き上げた忠義は。

 ただ一人の……兄の剣によって打ち砕かれた。


「人間、ごときが。───調子に乗らないでくれますかね」


 だが執事は引かない。

 その呪いで持って、今も尚を破滅を願う。

 殺意を再び滾らせ、兵器を横に邪眼を開放した。

 ここからが本気と。そう訴える様に。


「───!!?」


『凝視』

 是を受けた者は、直ちに不快感に陥る。

 だが、今の兄弟には矜持がある。救いが在る。

 だから。


「お前の眼……確かに強いが───意思がねぇな」

「───でしょうね。私はそれを切り捨てたお陰で……」


 イドルの言葉。

 それに否定する事も無く、執事は淡々と告げる。

 だが。


「──────お陰で?意思を捨てた化物に、俺らが負けるとでも?」

「……戯言ですか?」


 執事の問い。

 それに、ユリは弟の意思を代弁するかの様に答えた。


「いいえ。これは戯言でも雑言でも無い。───母様の意思だ」

「……フ。これだから感情と言うモノは」


 凝視の拘束を解く兄弟達。

 偏に執事のみを睨むその眼に、スーゴは笑った。


「お前には理解できないだろうさ。……一生ね」

「……こればかりは兄の言う通りだ。───どうだクソ爺。これがお前が殺めた母様の子だ」


 イドルとユリは笑う。

 不敵な笑みで。あの母の様に。


 ───忌々しい。

 そもそもお前達が居なければ、もっと計画は簡単に……。

 ───いや。


「どうでも良い。殺めた人の名など。意思など。───私の心には届かない」

「……そうかよ。───そう言うと思ってたぜ。虐殺者」


 兄弟と執事が交わすその言葉には、もう温情など無かった。

 昔から自分達に付き添ってくれた執事スーゴは居ない。


 母の死に嘆く兄弟に、手を指しべてくれた執事は居ない。

 或るのはただ……人を人とすら思わぬ外道。


 ──────本当に、変わっちまったんだな。

 俺達が言うのも何だが……お前はもっとひどい。


 同情はしない。出来ない。

 だからさ。


「───ならここで(退職)んでくれ。スーゴ」


 ♦︎


 両方、狂っていた。

 温情を寄せる様な過去を、両方とも抱いていた。


 だが、踏み入ってしまった。

 殺してしまった。盲目を貫いてしまった。


 だから、争うしか無いのだ。

 だって。


 ──────自分の意思が、相手にそのまま伝わる事は無いのだから……。


「はァッ!!」

「ぐぅっ!!」


 だから血は舞う。

 そこに慈悲なんて無い。


 ただ在るのは、相手を殺さんとする殺意のみ。

 その食い違いを、思想の違いを。

 もう正すことは出来ない。


 道はもう、一本しかない。

 救済を行うしか、無いのだ。


(相手は自爆を行うとしている……なら)


 それ以外の手段を、取れるはずが無い。

 彼が悪と定まってしまったからには、戦うしか無いのだ。


 僕はモイラを一瞥した。

 そう。僕達は僕達でやるべき事を為すだけだ。


 赤い稲妻が駆ける。

 左眼が淡く咬合する。


 元々僕達の能力は、前線で戦うべきモノでは無い。

 援護を以って、初めて真価を発揮する『援護型』だから。


 だが一つでも噛み合って仕舞えば───。


「───!!兵器が、動か───」


 破壊を望む事は、出来なかった。

 だが『止める』事くらいは出来る。


 気付けば、執事の紫光は残火の様に静まっていた。


(力の供給さえも止められたのか!!これでは自壊が───ッ!!?)


 それに対し、困惑を示している余裕は無い。


 また、気付けば。

 執事の目の前には、あの忌々しい子達が居た。


「……っち!!」


 軽い舌打ちと共に、執事はかろうじて呪いを放つ。

 当たれば即死の距離、威力。

 これで決められるはずだと、そう思っていた……のに。


「───ぐ!!」


 白金の槍は床へ刺され、聖龍を以って呪いを阻む。

 壁の様に。けれど受け流す様に。


 小癪、小癪!!

 こんなもの、私の腕で───!!


 だが。またしても。

 拳が兄弟に当たる前に、その腕は射抜かれた。


 ……中立のモノでも、兄弟のモノでも無い。

 では腕に刺さった鋼鉄の矢は、どこから───。


「───軍!?」


 兄弟の背中から垣間見えた、数十の軍。

 叛逆と王国が入り混じったその人々は、等しく矢を射ていた。


「宮殿が崩れてるからなんだと思えば───」

「こんな惨状になってるとは!殿下!今だけは、勝手な援護にお許しを!」


 叛逆軍の語りに、王国軍の意気。

 それは等しく、執事だけを敵とみなしていた。

 統制の取れていない軍であったが、その射撃は執事を死へと誘った。


「───不味いッ!!!!」


 体の数ヶ所には、矢が刺さり。

 苦し紛れに出した攻撃は、防がれた。

 頼みの綱の古代兵器も役に立たない。

 そして、目の前には───。


「スーゴ・ターライト!!……成敗!!!!」

「うぉぉぉぉぉぉおおッ!!!!」


 喚き散らして自身に刃を向ける、兄弟が。

 ───悟った。その光景を見て。


 走馬灯の様に、あの女狐の顔を思い出した。


『私達の王国に、何をするつもりですか!!』

『───ただ清算を行うだけですよ。貴方達の王国は、大きくなり過ぎた』

『だからと言ってこの様な計画を!?狂ってます!』

『知っていますよ。でも私は───』

『いえ。その様な忠義があり得るのならば……』


 あの母カーネは息を吸い込んだ。

 顔を上げ、意気揚々と妄言を垂れた。


『───私は必死に抵抗致します!!貴方の計画を!いずれ止めてみせます!』


 例え、我が身が朽ちようとも───か。

 ……全く。妄言にも程がある。


 私に言っても、もう無駄だというのに。

 感情を失った私に何を言っても無駄。お判りですね?

 でも、でも───。


「うぉぉぉおおおお!!!」


 ──────勢いだけでそれが成せるとは、驚きですよ……。

 紫は空間を空回りし、そして……。


 バタン。

 崩れ落ちた。


 ♦︎


「やったか……?」

「それ、一番言っちゃいけない台詞ね、イドル君」


 僕達は駆け寄った。

 悪を打ち倒した、かの兄弟の元へと。


頭目(ボス)!!」

「殿下!!」


 兄弟が率いていた軍と一緒に。

 指揮官達は、自身の軍の兵とハグを交わした。

 ねっとりとしたもので無くて良かったが。


「お前ら!なんでここに?」

「そうですよ!一応貴方達は敵同士だった筈……」


 ユリとイドルは、その口振りからフェルナの能力の事を知らないみたい。

 けれど流石に教えるわけには行かないので、気絶した執事の様子でも見ておいた。

 その間、二人の指揮官と両陣営の軍達は、仲良くはせずとも一緒に説明した。


 その内容が。


 一瞬時が飛んだかと思ったら、去っていく指揮官達の姿が見えて。

 そのまま、流れで敵軍と一緒にその背中を追ってみた所。

 なんか宮殿がえらい崩れてたので様子を見に行ったら。

 なんか戦ってたから、弓持って援護しました!

 ───だとさ。


 かなりふわっとした説明だったが、一応は理解できた様で。

 兄弟は、その説明に頷いた。


「そうなのか……」

頭目(ボス)もそうっすけど、なんかそっちもタイヘンでしたね」

「まぁ、糞兄と共同戦線組むくらいだからな……今考えれば良く───」


 イドルの呟きに被せる様に。


「ぐ……はぁっ……」


 執事は、喉に絡まった血液を吐き出した。

 その様子から、どうやらまだ意識がある様だ。

 ───もうそろそろ、死ぬだろうけどね。


「まだ生きてたのか!?しぶとい奴だなぁ!!」


 イドルが、怒りと共に剣を構える。

 その剣は、先程きた叛逆軍の兵から奪ったモノだ。

 だが、それを前にして執事は。


「……ははは。完敗ですよ」


 ケラケラと笑い、仰向けのまま手を上げ、ヴァレンチノ呪字の刻印がされた手袋を遠くへ投げ捨てた。

 降参の様だ。言わずとも分かるが。


「君ならこんな死地でも闘志を燃やすと思ったんだけど」

「……私はそこまで馬鹿ではありませんよ、ユト様。───古代兵器は無力化され、体の数十カ所には矢が刺さり、兄弟の攻撃で内臓器官も損傷した。……私はそう長くは持たない。貴方もお判りでしょう?」


 その光を失いかけた執事の眼は、もうほぼ死人に近かった。

 元々老けているのも相まっては居るが、何故それで生きている、とは思う。


 その悟った様な顔に、その場に居る一同は……手を出そうともしなかった。

 その上で、兄弟は最後の慈悲を掲げた。


「───死ぬんですね」

「……殿下。先程までそのつもりでしたでしょう?」


 その言葉に、ユリは目を伏せながら。


「そう……ですね」


 王子らしくもないその顔で、彼は答えた。

 死を惜しんでいるのか。……執事には、それは必要ないのに。

 だからなのか、執事は嘲った。


「───そんな顔をなさらないで下さい。貴方は仮にも王子なんですよ?弱さを見せてはなりません」


 だが、口から出たのは温情だった。

 執事としての、圧倒的なまでの矜持だった。

 それにイドルは、少し目を細めた。


「死に際だってのに他人の心配か?」

「いえ。少しばかりの負け惜しみですよ。───私はこんな小僧に負けたのか、と思いましてね」

「たしかに、戦場執事には悔しい負けだろうな」

「分かっているのなら良いんです。だから───」


 執事は、イドルの顔色を伺った。

 そして、それについて……スーゴは笑った。


「───泣かないで下さい。私は仮にも敵……なんですよ?」


 イドルは泣いていた。

 また、昔馴染みの人間が死ぬという苦痛に、嘆いていた。

 無駄だと、分かっていながらも。

 それは、ユリも一緒だった。


「殿下まで───はぁ。全く世話の焼ける……ほら」


 それに呆れかけるスーゴ。

 けれど、彼は慣れた手つきで胸ポケットから……ハンカチを取り出した。


 そのハンカチには、一切の血が付着していなかった。

 いや……そうならない様───護ったのか。


「いや……済まないな」


 何という執事っぷり。

 何故、君という人物は───。


「───ふぅ。……私も、そろそろ逝く様です。最後に一つ、遺言をば」


 執事はそう言うと、辺りを見渡した。

 そして阻む者が居ないことを確認し、兄弟へ言い放った。


「王子殿。王子殿達は……弱すぎます。あれだけの援護が無ければ私を倒せぬとは、正直呆れますよ」

「ぬっ……」


 声を漏らす兄弟達。

 だが、それに否定する事は……何故か出来なかった。


「けれど、その感情は目を見張るモノが在った……そればっかりは、誤算でしたよ」


 執事は、最後にはそう敵を認めた。

 だから私は負けたんだと。そう負け惜しみをしていた。


「そして……中立達」


 そして、執事の眼はこちらへ向いた。

 中立の僕達に、だ。


「───全く貴方達は強い。流石フィルフィナーズですね」

「……何故僕達が、フィルフィナーズだと?」

「それは機密事項ですよ。……けれど、そうですねぇ───私を倒した褒美に、これだけは教えましょうかね」


 執事はケラケラと笑い。

 口の端から血を流しつつも、その事を伝えた。


「───これはまだ序ノ口。私が知る中で一番強い守護者は、最近入った……」


 だが、細部を伝えきる前に。


「……おい」

「何でしょう?私も早く死にたいんですが───」


 イドルはそれを遮り、高圧的な声音で問うた。

 それは、横に居る兄も同じ事。


「何故お前は、狂った?」

「何故貴方は、狂ったんです?」


 同時に。

 されど同じ内容で、意思で。兄弟は執事に問う。

 それはある種の慈悲でもあり、同情でもある。

 それに執事はただ、笑った。


「───任の為、ですよ。貴方達に阻まれた計画には、心の消失が大前提でしたから」

「でも、スーゴ……貴方は───」

「……同情はしないで下さい。悲しまないで下さい。もう一度言いますが、私は敵なんですよ?」

「……でもなジジィ、俺は、俺たちは……お前と居て楽しかったぜ?敵であってもな」


 イドルの熱い瞳。

 泣きそうであっても凛々しいその顔……。

 執事は、思い出す様に目を閉じ。

 数秒の合間を持って、呟いた。


「そうですね。……まぁ、私も、あの日々が楽しく無かったと言えば、嘘に、なり、ますが……」


 スーゴの声が掠れ、消えていく。

 彼の声が伝わり切った頃には、もう彼は───。


「死ん、だ……」


 死んでいた。

 悪らしく、矢に体を貫かれて。

 されどその顔は。


「笑って───」


 過去を思い出したからか。

 新しくできた、新しい人生に愉悦を感じたのか。

 その真意は分からない。


 けれど。

 その死に様には……安堵が在った。

 兄弟の安寧を願う、立派な執事の矜持が在った。


「──────終わった、な」


 その死を持って、最初に出たのはイドルの声だった。

 彼は立ち上がり、悲しみを拭い切れない顔で空を見上げた。


 満月は見えない。

 けれど彼は、土産として国王の解放を残していった。


「───これ、は───?」


 玉座に座っていた、暗黒が搔き消える。

 今この瞬間から、国王は傀儡では無くなった。

 これで良かったんだ。これで。


 ───僕は、あの兄弟が父に抱かれるのを見て、少し笑みを零した。


 ♦︎


 砕かれた玉座。

 その横で死ぬ、一人の執事。

 それを見下ろすは───。


「あの救済者達は……去った様だな」


 漆黒。

 世界を侵食せん化物。

 人間ですらあるか分からぬその漆黒は、執事を睨んでいた。


 反応が返ってこない事を、分かっていながら。

 漆黒は屈み、執事の死体を見詰めた。


「いやはや、全く。───古代兵器も破壊され、計画は頓挫か」


 漆黒は破壊された十二兵器を傍目に、淡々と呟いた。

 その声音は、残酷で……しかも形容難い不気味さが在った。


「───真っこと使えぬ奴よ。人間と言うモノは。古参と言えど目が曇ってはこうもなるか」


 漆黒は、執事へ向けて手をかざした。

 爪を尖らせ、偏に執事の心臓のみを捉えた。


「……だが、その『加護』は返してもらうぞ。死人には必要の無い物だからな」


 そして、抉った。

 漆黒の手が、動かぬ心臓を徐々に取り出して行く。


 その様にも慣れが見えた。

 執事の胸が血で更に滲んで行く。


 ぐちょぐちょ、と死体からは生々しい音が鳴る。

 そして、それが止んだ時には。


「───フン。確かに受け取ったぞ」


 漆黒の掌には、執事の心臓が揺れていた。

 その所々には光る文字が浮かんでは居たが……それも消えた。


 漆黒が心臓を潰し、その文字を体内に取り込んだからだ。

 飛び散る血飛沫。

 成り果てた執事の姿。


 それを背に、漆黒は笑った。


「───スーゴ・ターライト。お前にもっと才があればなぁ」


 言葉と共に漆黒は搔き消える。

 何の痕跡も残さずに。ただ死体を荒らして。


 その後に、物音を感じて駆け寄ってきたユトにすらも、視認されず。

 漆黒は、謎だけを残して消失した。


 ♦︎


 狂いから醒めた父と、狂いを断ち切った兄弟の会話。

 確かにそこには『愛』が見えた。


 そうだね。

 どれだけ変わっても、歳をとっても。

 変わらないのが愛情、友情だよね。

 でもまぁ、その『友情』が少し綻びかけているのが気になるけども。


「兄弟同士で、殺し合ってた!?何故だ!」

「色々事情がありましてですね……父上」


 怒号にも似た父の声に、ユリは目を伏せた。

 そんな兄の対応に、イドルは何故か苛立ち始めた。


「聞いてくれよ父上!こいつ俺の軍を半壊させるんだぜ!?おまけにさ───」

「それについてはさっき誤っただろ!?そもそも叛逆する事事態が……」


 ガミガミ。愚痴の交わし合い。

 売り言葉に買い言葉な兄弟の口喧嘩に、父はかなり驚いていた。


 ……まぁ、起きたら兄弟が殺し合ってたんだよね〜。

 とか言われたら、そりゃ困惑もするわ。

 それに対し、観客の叛逆軍たちや王国軍達も騒ぎ立て。


 舞台はもう、火の車。

 怒号、叫び。

 再び仲違いしそうな兄弟の言い争いに、フェルナは一人、動いた。


「……はぁ」


 溜息を吐きながら。

 混乱の最中に、ある一つの本を持って兄弟へ歩み寄った。

 そして。


「争わないの!───これでも見て落ち着きなさい!」


 その本で軽く兄弟の頭を叩き、お母さんの様に諌めた。

 その直後、フェルナはその本を驚く兄弟に渡した。

 それは───。


「ストロブ・ラザー物語……」

「母様が読んでくれた本……表紙も戻されてる!?どうしてですか!」


 ユリは驚いた。

 フェルナがその本を持っていた事にも、だが……。

 ───以前と遜色無い程に修復されたその物語の姿に。


 兄弟は口を揃え、亡くなった筈の本の存在に困惑した。

 それにフェルナはただ、笑って。


「まぁ……少しタイヘンだったけれど……貴方達の過去を聞いたら、居てもたっても居られなくてね……修復してみたんだけど───嫌だった?」


 兄弟は、揃って勢いよく首を振った。

 そしてイドル筆頭に本を開き、中身を読み始めた。


 熱心に。声も上げず。

 あの時の様に、無邪気に目を光らせて読み始めた。

 それを背に、一番の被害者……国王アザミは誠意一杯の感謝を述べた。


「感謝する。フェルナ殿……そして中立の皆様。私が居ない間に変わってしまった息子達を、諌めてくれて。───カーネも浮かばれると思います」

「自分の安否は気にしないのかい?」


 その国王の口振りに引っかかるモノがあったので、僕は聞いてみた。

 すると、国王は目を伏せた。


「私は弱い。カーネの死を、そこで悼むしか無かった。息子の機微に気付けず、傀儡とされてしまった。私が王である資格など、無いんですよ」


 自虐に入りそうになる国王。

 正論に近いが、それをフェルナは良く思わなかった。


「───そんな事、言わないで。ユリやイドル達にとっては、貴方だけが肉親なの。だから……支えてあげて下さい。変えようの無い慈悲を、与えてやって下さい」

「モイラさんも、そう思うよ!!」

「なんだか影が薄いですが……私ガレーシャも、そう思います!!」


 フェルナに次ぐ、モイラとガレーシャの気遣い。

 それは苦しみを与えるものでは無く、父に救いを与えるモノだった。


「皆さん……そうですね。私も、変わらねばですね」


 父は、小さく笑顔を浮かべた。

 何かを思い出す様に、顔を俯かせて呟いた。

 と、その時。


「……は。やっぱり変わらないね」

「そうだな。───なんだか、思い出しちまうな」


 物語を読み終わった兄弟は、感慨深く呟いた。

 潤み掛けたその眼は、少し過去を思い出していた。


「───やっぱり、仲直りしねぇか?ユリ」

「突然……だね」

「いやさ。───母様なら、そうするだろう?」

「そう……だね。イドル」


 兄弟は見詰め合った。

 焦燥を捨て去って。過去と向き合って。


「殺しは何も生まない」と。

 兄弟はあの戦場を思い出し、握手し合った。

 恥ずかしながらに。


 叛逆軍も。王国軍も。

 兄弟である指揮官の仲直りとあっては───。



 ♦︎


 その後の事。

 ヒイラギ王国は、再び栄え始めた。


 あの圧政に過ぎる政策は、無くなった。

 人々が武器を取って、王国に反旗を翻す事は、無くなった。


 叛逆の王と、その兄たる王子の和解。

 どうやっても成せないとされたその業は、今ここに成された。


 反乱の分子と和解し。

 王国を破壊せしめん分子は、死んだ。


 妬みは、消えない。

 親を殺された恨みは、消えない。


 けれど、それはいつか無くなるものだ。

 無くなってしまうものだ。


 だが兄弟はそれを解消する為に、手を組むのだ。

 母の意思を継ぐのだ。


 その上で───やり残した事がある。

 母様の告げた『遺言』の真意について。

 少し、思い当たる節があるから。


「本当に、いいのかい?霊脈は利用出来る物資だろう?」


 兄弟は、霊脈を破壊しようと少年に声を掛けた。

 それに少年は、理論的に述べた。


「良いんだよ。これが母様の言う『バットエンドを防ぐ』って事だと思ってな」


 イドルの呟きに、少年は問う。


「でも、霊脈はかなり有益なモノじゃない?」

「……いえ。霊脈は結果的に戦いをもたらす。そう思いましてね」


 ユリはそれに答える。

 答えを得た様な顔で。凛然と。


 それに少年は、笑った。

 宮殿の頂点に位置する場所に出で立ち、ただ一人銃を構えて。


 冠位(グランド)の銃。

 装填するは『霊脈破壊弾』


 かの要望を持って作成された、霊脈だけを安全に破壊する弾。

 狙うは国全体。

 一応最後に、聞いておこう。


「───分かった。……本当に、良いんだね?」

「……ああ」


 返ってきたのは、覚悟だった。

 流石にそれを裏切れはしない。


 だから僕は、静かにその銃を構えた。

 危機が去った王国へ、裁定の光を滾らせた。

 そして。


 ──────王国からは、霊脈が無くなった。

 争いの種は、兄弟の意思によって無くなった。


 これからは、兄弟が国を導いていくのだ。

 だから、不純物は必要ないのだろう。


『これで、良かったのですよね』と。

 兄弟は、狂い無きその眼でその空を見上げた。


 それが間違っているのかは、分からない。

 けれど、兄弟にとっては……それが母様の意思に映るのだ。


 ───良いではないか。健気ではないか。


 ♦︎


 叛逆の旗を下ろした弟。

 それが突然宮殿入りするなど、民にとっては困惑モノだろう。


 けれど、彼には兄がいる。

 父がいる。


 過去を分かちあってくれる、仲間が居る。

 ひび割れた宮殿に歓声が響く。


 嗚呼……いつ振りだろう。

 この王国が熱狂に満ちるのは……。


 ───あの背中には届かないのだろう。

 けれど、自分達は民を導かねばならないのだ。


 王国の汚い部分を払拭し。

 民に希望を指し示せねばならないのだ。


「……怖いか?」


 兄は問う。

 民の期待の声が高ぶるのを前に、弟の顔色を伺った。

 だが、弟は首を振った。


「───良いや。だが少し武者震いしちまってな」

「そうだろうね。僕だってそうだ」

「……父上も、いずれは玉座を降りる。その時は俺たちが王国を作っていくんだよな」


 イドルは感慨深く呟いた。

 その姿に、ユリも深く頷いた。


「……だね。───あの物語の様に、善い国を作れるかな」

「弱音か?……らしくもない」


 イドルはユリの肩を叩いた。

 それにユリは、小さく笑みを浮かべた。


「はは。分かってるさ。……僕だけじゃこれは成せない。だから───」

「───俺の手を、か?……はは!」


 笑うイドル。

 だがそれもいつしか止まり、次は覚悟を持ってユリを見つめていた。


「こちらこそ、だ。───兄弟」


 そう言って手を差し伸べるイドル。

 それに一瞬戸惑いながらも、ユリは。


「───ああ。一緒に国を作っていこう。弟よ」


 手を取り、熱く握手を交わした。

 そして、歓声に歩み───。


 ♦︎


 ストロブ・ラザー物語。

 それには、続きがあった。


 それもまぁ、後に作られた───外伝の様なモノだったが。

 だが、その外伝は大きい反響を呼んだ。


 最近の事だったからか。

 若しくは、最後の終わり方に見惚れでもしたのか。


 だが、最終的には……物語はハッピーエンドを迎えた。

 戦争もあったが、兄弟は手を取り合って進んでいったと。

 そんな物語の最後は……こうだった。


「──────帰りますか」


 兄弟によって終わりを告げた戦争だが、その裏には彼の姿が在った。

 戦争に閃光をもたらし、中立を掲げる彼らの姿が。


 彼等は、その慈悲と力によって全てを助けた。

 弟も。兄も。敵でさえも。


 その姿を真に見た者は数少ない。

 けれど、その姿を見た者達は……口を揃えてこう言った。


 “中立”を率いる『彼』は救済者だと。

 何者にも力を貸す、裁定者であると。

 そして───。




 ─────────常世を救う【神童】で在ったと。


長かった……。

というのも、打ち切りに近かったですが。

取り敢えずまぁ、リメイクは自分の脳内で決定しているので。

というか、謎残しすぎましたし。

最後の漆黒の正体とか。ユトの本当の過去とか。

フィルフィナーズの語源ってなんなのか、とか。


まぁ……それはリメイクで色々直すとして。

所々走り書きの様な箇所もあったので───随分拙い文章であったと思います。

けれど最後まで見てくださった皆様に……感謝を。


次回作は多分数ヶ月後とかになりそうです。はい。

そもそもこのアカウントで作るかどうかも判然としません。

ですがまぁ……これりゅうかだろ!

と思う作品があれば……それは多分私なんでしょう(無責任


ですが次回作はかなり設定を盛り込むつもりなので……お覚悟を。

というわけなので。この作品はこれで完結です。


絶対リメイクは作ります!!!!

私もモヤモヤするので!!


……以上、作者の最後の戯言でした。

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