勿論
前が見えない。
後ろは……かろうじて見える。
数千の兵達が、一人一人意思を持って……進軍しているのが分かる。
おまけにこの吹雪。
普段なら忌み嫌うべきだが……。
「───お」
垣間見える城壁。少な過ぎる近衛兵。
城門へ続く一本道は、イドルの目にしかと写された。
「───何ぃッ!?」
つまり、近衛兵達にも見えている。
吹雪の中から……数千の大群が『突然』出現したのを。
故に、笑う。
兵達は、雄叫びを上げる。
或る一声によって。
「──────進めめェェェェェエェエエエ!!!!!」
濁流の如く流れる叛逆軍。
それに焦る近衛兵を排除するのは、実に簡単だった。
けれど……そのまま首都侵入……とは行かなく。
「───やっぱ、来るよな」
目の前には王国兵が居た。
それも、精鋭の中の精鋭だけを連ねた軍隊。
そして、指揮官は……。
「……ユリ・スノウスト。糞指揮官にして糞兄か」
「───説明はアレだが……まぁイドル。僕は今度こそ君を……殺す」
ユリは声を張り上げた。
言葉に見合う、圧倒的な殺意を身に纏って。
「───行けぇ!!!」
告げる。我が軍の進撃を。目の前の軍の返り討ちを。
同時に、轟音立てて突進する王国兵。
その腕には、魔力過重剣が満遍なく握られている。
その上でイドルは笑う。
(囮は定まった。後はお前らがあいつらの武器を奪い取るだけだ)
作戦が成功する事だけを願って。
イドルは敵指揮官のカリスマに……。
「進め我が軍よ!駆逐せよ仇を!敵は目の前に在りィィ!!!!」
『うっォォォォォォォォォおおおおお!!!!!!』
カリスマで応えて、イドルは一世一代の攻防に身を任せた。
全ては、母様の為に。
♦︎
轟く咆哮。
地面すら揺らしかねん方向は、僕達にも伝わった。
「……始まったね」
「そうですね。───しかもここまで聞こえて来たと言う事は……」
救済者一行。
“中立”を名乗る僕達は、皮下へと続く通路を物陰から覗いた。
「───おい!なんだ今の声は!?」
「分からない!攻撃じゃないか!城門から聞こえたぞ!?」
「なら加勢に行くか!?」
「……そうだな!警備は他の奴に任せれば良い!」
二人の警備兵が慌てている。
隠すべき『皮下霊脈』への通路から慌ただしく出てきた所を見ると、かなり焦っているらしい。
まぁ、あの奇襲は誰だって驚くでしょうからね。
「行った……わね。どうする?」
フェルナは呟く。
物陰から、兵が剣を抜いて走っていくのを見届けて……問う。
けれど僕は、二つ返事で頷いた。
「───勿論。行くに決まってる」
♦︎
準備は出来ていた。
霊脈が奪われ、後が無くなった叛逆軍が……こう言う策に出ると。
そう察し、兄は待っていたのだ。
今度こそ、弟の出鼻を挫く為に。
自身の預かり知らぬ霊脈から出た魔力過重剣を携えれば……成せると。
───だが。
「ウワァァァァァァァアアッッ!!?」
まず聞こえたのは、自軍の悲鳴だった。
舞ったのは、自軍の兵の死体だった。
「……何ぃッ!?」
有り得ない。
何故叛逆軍があのような力を───。
「……或る神童のお陰でなぁ。軍全員に強化魔法が掛かってるんだよォ。だからこうして戦力差を埋められてる。今の俺の軍は……王国すら滅ぼせるぜぇっ!」
弟の言葉が、刺さる。不覚だ。屈辱的ですらある。
「ユリ殿下、このままでは……」
伝令が焦って状況を伝えてくる。
そもそも、そんな事は元から知っている。
「くぅっ……」
それでもユリは落胆し、自身の気休めが無い故か……と悟る。
けれど、次に出たのは───殺意だった。
「───致し方無し。僕が出る」
「良いのですか!?」
驚く伝令。
けれどユリは剣を抜き、白馬に乗って殺意を昂らせていた。
「良い。元々から、あれは僕の獲物だからな」
そして、ユリは白馬で戦場を翔けた。
♦︎
某刻。某所。
いや王国下の皮下霊脈の内部で、上では戦争が起きてるんだけども。
まぁ、そんな事は良いとして。
───僕達は、ある光景を目の当たりにしていた。
「あれは……」
血が飛び散った地面。
割れた岩壁の中から見えた最深部の様子は……。
「───人体実験、か」
地獄だった。
広くもあったその空間には、満遍なくカプセルが並べられていた。
その中には案の定、変わり果てた……人間らしきモノが居る。
そのカプセルにはコードが付けられ、霊脈の青い筋に刺されている。
その途中にかなり大きい魔導機械を通してはいたが、アレが合法では無い事は確かだ。
……そして、極め付けは。
「グァァァアアアアア!!?」
生きたまま、人間を霊脈のお膨大な魔力量に晒す。
はい非道。
全員が拳を握り締めるのと同時に、ガレーシャは呟いた。
「……あれが『計画』ですかね?」
「どうだろうか。そもそも計画は中止になったと聞いたし……」
「───魔力過重剣の依り代を『剣』じゃ無く『人間』に置き換えて霊脈の力の上に晒す……適応でもしなければ、確実に……死ぬわよ」
僕の首の捻りに、フェルナは今にもここを飛び出しそうな勢いで呟いた。
「でも、それで力に適応してそうなのが……一体、居るよね」
モイラは言った。
目の端に写ってしまった物体に、少し嫌悪を示しながらも。
それでも『ソレ』に指を指し、そのまま息を呑み込んだ。
「緑色の肌に、身に刻まれた青い筋……それに巨体。そうだね───」
解析。その結論。
「───手に負えないね。壊すにしても未知すぎる」
「でっすよねー」
笑いながら返すモイラ。
他の子達の表情を見る限り……僕達と同じ考えらしく。
でも一応作戦の為と言う事もあるのでと、逃げるかを決めかねている時。
そんな時に───。
「───ぅ。ぅぅぅぅぅぅぅううぅぅぅぅうぅぅ!!!!」
僕達は、その実験体に捕捉された。
その隻眼を向けられたので、確実に僕達は見つかったと言う事になる。
実際、それはマズイ。