作戦、開始!
輝く満月。遠くに消え行く宮殿。
それを背にして、僕は静かに通信を重ねる。
お相手はガレーシャなどの、救済者一行。
つまりイドルを蚊帳の外にして行われる。
酷いだろうが、これも仕方ない。
僕はそう踏み切って、薄暗い街中を歩いている。
「───」
僕が何を話しているかは、例え横に居ても分からないだろう。
音波途絶魔法。
それを用いるだけ、この会話の内容は重要なモノなのだ。
裏路地を抜け、人目を避けて暗がりを歩く。
右耳を抑えて歩くのは……雰囲気だ。
けれど、その通信もじきに終わりを告げる。
着くべき場所にそろそろ着くから。物事を伝え終えたから。
ガレーシャ達はそれを受け、イドルの元へ向かった。
そこにフェルナは同伴していない。
フェルナ自身にも『やるべき事』が出来たからだ。
自分から輪を外れるような行為だった。
だが……彼女の身の内を知るガレーシャ達は気にも止めなかった。
それが彼女の意思だと。
そう笑顔で返されたフェルナは、一人武器屋を訪れた。
いや、正確にはあの鍛治師も居たが……。
兎に角フェルナは、静かに目で語りかけた。
すると、武器屋の店主はもはや悪態も付かず『行け』と指差した。
親指で。なんの表情も浮かべず。
それにフェルナは頷き、そのまま奥の『作業室』に入った。
そして……腰のある薬品を机の上の鋳造台に置いて、呟いた。
「───これは私しかやれない仕事……救うのよ」
そうしてフェルナは机の上に、ある二つの本を置いた。
覚悟を決めた様なその眼は、狂い無く。
「似た者同士……だものね」
一瞬神妙な笑みを浮かべ、フェルナは迅速に作業へ移った。
……一方、その頃。
「───フ」
僕は笑っていた。
月光すら刺さない路地裏で、怪しく。
一つの扉を見詰めるその目は、一瞬にして尖った。
「……曖昧にだが存在は確認した。───内戦は終わる。……狼煙を上げよう」
少年は踏み入らずに踵を返し、更に瞳を尖らせた。
鷹の様に。
戦いに核心持った───神童の如く。
♦︎
明日。
それは、眩いばかりの魔力光で始まる。
「───これで終わりだ。これなら」
僕は彼に視線を送った。
そう。白馬に乗った……『彼』だけにだ。
「……ああ。この戦争を終わらせられる」
イドル・スノウスト。
兄と同じく狂った……叛逆軍の頭目だ。
そして、彼は告げる。
「じゃあ……『作戦』通りに」
背後の数千にも登る、壮観な軍勢を背にして、“中立”と名乗る僕達に向かって微笑んだ。
全軍だ。叛逆軍全軍の命の行く先が、これから決まる。
「ああ」
「ええ」
「はい!」
「うん!!」
それに救済者一同は、意気込みを返して覚悟を示した。
ある意味この軍達の命は僕達が握っているに近い。
けれど僕達は、作戦を前にして引きすらしないのだ。
そもそも、これは逃れられぬ道……なのだから。
「……利用されてくれよ。お前ら?」
イドルは再確認する。その意思を。
僕達の顔を睨み、ほんの少しだけ彼は目を笑わせた。
「───どうだか」
冗談かも知れないが、僕は同じく睨みで返した。
そして、フェルナ達共々答えを聞かず……空へ飛び立った。
本来は頷くべきなのだろうが、もう分からない。
そもそも、イドル達には僕達を止める権利など……ないのだから。