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ストロブ・ラザー

 

 透き通る銀色の頭髪。

 慈愛を浮かばせる碧眼。


 かの母親は、日光を差し置いて可憐に存在していた。

 その名もカーネ・スノウスト。

 病弱だが誰よりも元気だった、活発な女王だった。


「母様ぁっ!」


 二人の兄弟は、またもカーネの膝に飛び付いた。

 その様からは、拭い様の無い無垢さが感じ取られた。


「やめやめ。お花踏んじゃうでしょ」


 カーネはそれを、慣れた手付きで優しく払った。

 花壇の上のユリの花を気遣い、兄弟達の頬を撫でて笑った。


 ───その『日常』を、兄弟達はいつも思い出す。

 まるで昨日の事の様に、鮮明に。……残酷に。


「母様は、ユリの花が大好きでした。勿論、ヒイラギの花も。だから僕に『ユリ』と名付けたと……そう母様は言っていました」


 ユリ第一王子は、静かに呟いた。

 月光を受けて囁く兄の横顔は、やはり悲しく見えた。


「……良い親を持ったね」

「本当に、そう思います。───今はもう、見る影もありませんが」


 地雷。

 僕はそれを踏み抜いてしまったと思い、口を閉じた。

 けれどその静寂は、直ぐに止んだ。


「脱線しましたね。話を戻します」


 ユリは淡々と告げ、息を一回吐いてから。

 一度精神を安定させてから、進めた。


『──────光射す温い温室。その中で母様は、ある一つの童話を読み上げてくれました』


 ストロブ・ラザー物語。

 それはヒイラギ王国出自の所以であり、始まり。

 兄弟が兄弟では無くなった悲劇が、そこには刻まれていた。


 ───内容は、こうだった。

 語りは、当然母様だった。


 ……昔昔、ある所に一人の男が居ました。

 その男の人は一人の弟を持ち、兄弟仲睦まじく暮らしていました。


 けれど突然、兄弟が住んでいた所に、それはもう大きな犬が現れました。

 その犬は兄弟達が住んでいた村を食い尽くし、その他の村を沢山食べ尽くしました。

 気付けばもう、辺りの村は殆ど食べられ、残るのは一つだけ。


 兄弟達が住む所は雪国でした。

 けれど食べ物などは殆ど犬が食べてしまい、一つ残った村の人々ですら食べ物を摂れず死んでしまいそうでした。

 そこで兄弟達は立ち上がりました。

 あの犬を倒そう、と。


 そうして一致団結した村の人々は犬を頑張って倒しました。

 でもその時、兄弟の内弟君が兄を庇って犬に食べられてしまいました。

 兄は嘆きます。

 自分の所為で死なせてしまった、と。


 でも兄は負けず、ある国を村の代わりに作りました。

 それがこの『ヒイラギ王国』

 その国は著しい発展を遂げ、名実共に幸せな国となりました……。


「ヒイラギ王国。その名前は、死んじゃった弟君の名が起源だと言われているわ」


 それを聞いた兄弟は目を伏せる。


「悲しいね」


 だがカーネは言った。

 優しく。慈愛を持って。


「でもこれは悲しくも良い物語。弟君は、兄の為に食べられたの」


 母は車椅子を動かし、静かにヒイラギの花々を憂いた。

 その時に浮かべた神妙な表情を、兄弟は覚えていた。


「悲しいけど、こう言う事もあるのが物語なのよね」

「そう……なんだ。この物語の名前ってなんて言うの?」


 二人の兄弟は聞く。

 心の何処かで、悟った様に。


「『ストロブ・ラザー』この国の言葉で『儚い愛』や『兄弟』を意味するわ」


 ユリとリボリオは、首を一緒に傾げ言う。


「兄弟?」


 その仕草にカーネは笑い。


「……本当、仲良いんだから!こちょこちょこちょ〜」

「あはは!母さんやめて〜」


 カーネは笑う。

 自身が生んだ兄弟に、栄光の死を送らせないために。


「何やってるんだ〜?」


 そこに仕事を終えた父も混ざったりなど、本当に仲睦まじい家族であった。

 母が病弱でも。

 愛しの母様と出会えるのが温室だけだったとしても。

 ……それに至った理由を、兄弟は全く知らなかった。

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