執事と少年の!楽しい殺し合い!
舞い、粉砕される雪の塊。
片手間になぎ倒されて行く木々。
抉られる道路。跡形もなくなった叛逆軍アジト。
その被害を大きくしているのは、二人の戦士。
一つは少年。一人は執事。
その様は、実に───。
「っははは!実に化物だね、君は!」
「どうでしょうかっ!化物はユト様ではッ!」
楽しそうであった。
そこに血が舞わないというのもあるだろうが、実に愉悦を感じさせる戦闘だった。
……表面上では、だが。
(あのヴァレンチノ呪字は改良されたモノ……下手に触れたら───いや!なら!)
(少年の様な体躯にその膂力。実にやり難いです、が……ッ!)
裏では一刻にして膨大に思考を巡らせ、同じく武勇を積んだ身として殺し合う。
結果として互角に見えるだけ。
少しでも鍔迫り合いに負けたら互いに首が飛ぶのだ。
「はぁっ!!!」
気合いと共に二人は拳を突く。
舞う雪の中で、ユトは忠節無心で籠手を創り。
執事スーゴは目一杯の呪力を帯び、そのまま。
「ぐっ……!」
二人は拳を合わせた。けれど届かない。
瞬時に二人は飛び退り、息を吐く。
次に先手を打ってきたのはスーゴだった。
「ならばこれはどうです!」
「呪字の力を併せて……」
執事は雪の地面を抉る。
そうして出てきた土塊を媒介に、呪字の力を流して武器を形創った。
形成されたのは鎌。或いはナイフ。或いはハンマー。
時として破城槌。門を壊す時に使う奴だ。
そして、それらは僕へ例外無く穿たれる。
同時に、では無かったのが幸いだった。
───これなら。
僕の眼光が光る。
相手の使う呪術は触れたら失格。
だが、能力で受ければ───。
一撃。
成人男性サイズの鎌状の凶器が五個飛ばされる。
二撃。
小さいナイフが、数十個穿たれる。
三撃。
小振りのハンマーが、三個発射される。
四撃。
破城槌による物理攻撃。
それら全てを、僕は見切る。
そして……。
「……あれを、受け切りますか」
鎌を籠手の突きで受け流し、破壊。
ナイフを忠節無心の盾で弾き、受ける。
ハンマーを地面からの棘で突き刺し、当たる前に止める。
破城槌は、僕の体を覆う程の大盾で衝撃を緩和して、強引に受け止める。
───これまで、たった数秒の事。その手際に執事は笑みを零した。
強く指を鳴らすのと同時に、執事は僕を睨んだ。
「───まだまだ土くれはありますよ───記録!!」
「……はぁ───ッ!?」
指鳴りと同時に出て来たのは、足枷。
一瞬溜息を吐きかけた僕は、それで足をすくわれた。
当然、その足枷は呪字によって創られたモノ。
能力で保護していない箇所を掴まれた訳だから───。
「……ッ!?」
結界が徐々に割れていくのを感じる。
不快だ。とってもね。
だがしかし、まだ執事のターンは終わってない。
……気付けば、執事が創り出した事象操作が眼前に迫っていた。
抉り上がる雪の平原。
僕と執事の一直線には、ドス黒い紫の針が無数に生えて来ていた。
刺されば即死。針山地獄なんて目じゃない。
(事象と呪字の併用……く)
だが、この足枷の所為で動きが取れない。
万事休す。けれど策が無い訳じゃない。
───『“銃”冠位武器種召喚』
決死の判断だが、今はこうするしかない。
弾倉装填……武装解除弾。
忠節無心、相応しくない場所での使用を許し給え……。
───発射。
「……なッ!!?」
執事は、驚きと共に横へ飛び退った。
あの閃光に当たったら不味いと勘で悟ったからか。
若しくは、自身の呪字が無力化されたと悟ってからの回避か。
その間に、僕は足枷を破壊。
そして忠節無心を籠手へと変え、立つ。
(この閃光、見覚えが在りますね……そう言う事ですか)
少年を睨み、執事は影ながらに察して薄ら笑いを浮かべた。
けれど、次に発せられたのは事実確認ではなく。
「珍しいモノもあるんですね……ハッ!!」
事象操作だった。抉る螺旋空間。また懐かしい物を。
しかもそれは無詠唱で放たれた。
その事象操作には、紫の波紋が走っている。
空間を死滅させる様なその光は、ヴァレンチノ呪字の恩恵を受けていた。
横も後ろにも、避けられない。
僕は咄嗟に上へ跳んだ。保険に、あるモノを遠い空に投げ捨てながら。
下に流れ行く事象操作魔術の嵐を眺め、その上で僕は真空の刃を携えた。
着地を狩られない様にする為だ。
今ここで隙を見せたのなら、直ぐに───。
「───フ」
執事は笑う。一瞬の内に。
紫の波紋刻まれた事象操作を拳に、また呪字を発光させた。
そんな呪いの光は、今までのモノのより数段ドス黒かった。
「……ッ!!」
そして、光は鉄の処女を作る。
気付けばその口は、僕の後ろで悠々と開けられていた。
いつの間に、と。驚く暇もない。
空中なので、身動きを取れもしない。
だが、これなら───。
───【凝視の邪眼】発動。
執事の隠し持つその邪眼は、僕に多大な不快感をもたらした。
……凝視。不特定多数の『誰か』に見られているような感覚。
手に取られた真空の刃は潰え、身の毛のよだつ不快感が、僕の体を襲った。
僕の体が、一瞬震えて止まる。
それは、ほんの一瞬だけだった。
近い物を挙げるならば、目を瞬く間だけの。
けれど、それは隙だった。
戦場執事ならば、簡単に突ける隙であった。
……だから。
───バタン。閉まる。
少年は、抵抗無くしてその中に飲み込まれたのだ。
「フ。こんなものですか。興醒めですね───」
鉄の処女に。執事の邪眼に。
少年は執事の策に溺れた──────かに見えただろう。
「……ッ!!」
突如として。
ヴァレンチノ呪字という最高の呪術に飲み込まれた筈の少年は、突如として現れた。
──────空中に。
(あの何かを投げる様な動作……そういうことですかッ!!)
その姿を見た執事スーゴは、悟った。
なんの原理か分からないが、それでも直ぐに体制を整えようとした。
……だが、それよりも僕の方が───早かった。
時としてそれは、三段階攻撃と成る。
一。
執事の真後ろに瞬間移動。
二。
息を吸い、止めて気配を消す。
三。
悟られる前に、全力の蹴りを老人の腰へかます。
「……ぐぁ……ッ!!!!」
当然、スーゴは苦悶しながら吹っ飛ぶ。
そのまま、自身が作り出した鉄の処女に、兵の人壁を突破して直撃。
鉄の処女はそれで消えたが……。
そのせいでスーゴは更に腰を痛めそうだ。
だが……その前に。
「───またあれで落ちないとは」
決着はついていなかった。
当たる直前で受け身をとったのか。
凄まじい腕だ。不意を突いたと言うのに。
「ぐ……はは。やはり戦いは良いものですね。これで長年悩まされてきた腰の痛みも治まりましたよ」
執事は、腰を撫でながら健気に笑った。
化物か、この執事。
「……どうです?私はまだやれますが?」
執事は拳を握って魔力を解放させた。
異常なまでの圧。
それは、辺り一帯の吹雪を全て押し退ける程であった。
まだ本気じゃ無かったのか、と僕は息を飲む。
───戦いはまだ、少し……長引きそうだ。
事象操作君の出番が無いので、少しばかり登場させました。
設定あるのに使わないとか、宝の持ち腐れ過ぎますしね。
そもそも、思い出す迄が遅過ぎ(戒め)
あ、出来れば紫光の如きご評価を。
……以上、作者の戯言でした。




