視せられた未来
頭痛。脳に伝わる死の情報。
無意識型で発動された満目蕭条ノ眼は、即座に未来を伝えた。
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白馬によって吹雪が踏みにじられる。
木は強引に切り倒され、警備の兵は切り殺される。
知った様に解除されていく罠。数百を超えた兵士。
蠢く白い鎧。
光る銀槍。
事象操作、魔法、武勇。
あらゆる道を修めた謎の兵達は……銀世界を豪快に抉っていく。
木製の門は破られ、人は斬り殺される。
刺し殺される。
そして、眼光は洞窟へ。
いや。もしかしてあれは───。
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殺意。長年の勘。
脳内に構築された答えは、ただ一つだけ。
「───伏せろ!!」
襲撃である。
「……ッ!!」
瞬間、轟音と瓦礫が空間に飛び散った。
数人の兵は下敷きになっただろうか。
僕は吹き飛ばされ、受け身を取ったは良いものの……壁に打ち付けられた。
舞う土煙の所為で分からないが……多分モイラ達は無事だろう。
今確認、すべき事は……。
「王国精鋭兵……っはは」
彼らの兵装を確認した僕は、笑い混じりにこの状況に絶望した。
見た事しか無い。あの精鋭兵は、この僕が……僕達が鍛え上げた子達だ。
……恩知らずが。
「何故ここがバレた……ッ!!」
同時に、イドルは苦悶する。
自身の腹わたに刺さった、一つの瓦礫によって倒れながら。
頭目イドルは、怒りながらも兵達の兵装を確認した。
光り輝く銀槍。白く光る白金の鎧。
身を覆う長剣にハンマー。
その全てには、異常とも言える魔力と……血が滴っていた。
一人十人は殺していたのだろう。恩知らずが。
「大丈夫?モイラ達もイドルも」
とりあえず、僕達は体制を立て直した。
瓦礫を器用に粉砕したガレーシャを気遣い、身を寄せ合っていたモイラとフェルナを呼び寄せ。
苦悶に満ちているイドル君を立ち上がらせつつ、王国兵達を睨んだ。
その間に攻撃されなかったのが不思議だが。
まぁ、その理由は直ぐに分かる事だった。
何故なら。
「──────久しぶりだね、イドル」
「……ッ!!?」
洞窟を抉った王国兵達の後ろから出て来たのは、白馬に乗った第一王子ユリだった。
その口調は、何故か懐かしそうな物もあり。
イドルと同じく、殺意に満ちていた。
「──────こうやって直接顔を合わせるのは、何年振りですかぁ……三年?」
「……二年だ。───糞兄が」
「え」
僕達は驚いた。
感動の再開についてではなく、イドルから出たその単語に。
けれど、口を挟むことは……何故か出来なかった。
「───お前がわざわざ出向いて来るって事は、ごはっ。……何の用だ?」
イドルは血を吐く。
「───当然。王国を裏切った弟をこの手で殺す為だよ」
ユリの口から出た狂気。
それにイドルは、嫌そうに睨みを返す。
「何故、このアジトが分かった?」
「……そこは全て、スーゴが」
同時に、僕達でも知っている老執事がユリの背中から出てきた。
白馬にも乗っていない。スーゴは雪も被っていない様子だった。
「───糞爺が。まだおっ死んで無かったのかよ」
「ええ……ご機嫌よう、イドル様。私はまだ死ねない様で。この二年間、じっくりと探らせて頂きましたよ」
「そうかよ。───最近の民の虐殺も、ジジイがしたのか?」
すると、スーゴはキョトンとした様な顔で首を傾げた。
「……何の話でしょう?」
奇妙さも在ったが、その老執事の言葉は嘘ではない。
だからなのか、イドルは血を吐き出しながらも腹に刺さった瓦礫を突然抜き出し。
そのまま魔法で応急処置しつつ。
生き残った兵達に、何やら伝令を下した後。こう言い放った。
「───はっ。まぁ良い。どうせお前ら、俺を生きて帰しゃしねぇんだろ?」
「ご名答。僕の弟……イドル・スノウスト元第二王子」
イドルが剣を抜くと同時に、ユリも決意と同じく剣を抜く。
途端に、王国兵達も体制を整えた。
……やる気の様だ。
巻き込まれてしまったかね。僕達は。
焦る僕達。そんな中。
「……さっき兵達に伝令した。───俺が殿だ。頑張って逃げろってな」
「優しいね、やっぱりイドルは」
「うるせぇな。糞兄……糞指揮官に褒められたかねぇよ。……死んでもな」
「はは。精々足掻いて下さいね。─────────これも母様の為だ。……成敗」
イドルも、ユリも。王国兵達も。執事も。
全員が、剣を向けてイドルへ殺意を向けていた。
……このままではイドルが死ぬ。今は流石にそれ駄目。
という訳なので。
「参加……するしか無いよね」
「ですね。これも人殺しを諌める唯一の手段と考えれば……」
「だね。───“中立”としての腕の振りどころだっぞーぅ!!」
そうして、フェルナを除く中立の三人は戦線に加わりに行った。
「あの二人が……兄弟」
フェルナは、少し先程の会話を痛ましく思い出してはいたが。
「フェルナちゃーん!早く!」
「あ、分かった!!行きますわ!」
モイラに呼ばれ、仕方なくフェルナは思考を放棄して戦争に介入する事にした。




