割れる意見
日々は続いた。
人々の死を前にして、更に奮起した。
我々“中立”の仕事も、首尾よく進む様になった。
鍛治、鍛錬、戦争。
血は飛び散るが、確かに酷い戦争では無くなった。
けれど、未だ市民の虐殺は止まらなかった。
でも僕達は更にその仕事を全うし続けた。
第一王子との晩餐会。
叛逆軍との宴会。
そこでは、イドル君がまだ十七歳と言う成人手前で……弱冠十五歳にて叛逆の狼煙を上げたと言う事を聞かされた。
その理由は分からない。
けれど、その眼だけは本物だった。
王国を滅ぼそうとする意思。それには、嘘は無かった。
だがそれも、彼との日々を重ねて行く内に暗がりを増して行った。
───それは、第一王子も同じだった。
♦︎
「……じゃあ、僕はここらでお暇させて貰うよ」
「今日も叛逆軍の所へ?」
ヒイラギ王国宮殿。
月光刺すそのバルコニーにて、温室育ちのユリ第一王子はユトに語りかけた。
それにユトは、一瞬歩みを止め。
「分かってる筈でしょ?僕は“中立”だって」
「……そうでしたね。帰り道、気を付けて下さい」
「はいはい……君も、お腹を冷やさないように」
そう言い残し、ユトと言う中立は消え去った。
残るは第一王子のみ。
ユリはバルコニー下にあった、元温室の影を見ながら……。
「スーゴ」
「……はっ」
呼びかけと同時に、老執事は何処からか現れる。
そんな執事に、ユリは静か過ぎるトーンで命令した。
「……計画を実行に移しなさい。父君からの令だ」
「了解しました。……準備出来ましたら、スノウスト殿下も」
「ああ。分かっているよ」
執事が暗黒に消えると同時に、ユリは笑う。
一時だけ空に浮かんだ、小さな月を見上げながら。
「これで……良いんだ。───フ。帰り道に……か」
小さくとも狂気に、第一王子は嗤った。
その碧眼を、月に照らしながら。
♦︎
「お帰り〜」
「……そこはただいまだろ」
「あはは、ちょっとだけ気分上がっててね」
荒れ狂う吹雪の中、帰還した僕。
多少のジョークのつもりで言ったんだが、イドル君は睨んで来た。
おっと、怖い。
とか思いながら、僕は全員が揃った作戦会議室の一角に居座った。
周りには、モイラやガレーシャ達が。
先程のジョークに笑いを零してくれたフェルナも、当然居る。
「善く笑うようになったね」
「……え?そうかしら?」
指摘しても気付かない辺り……やはりフェルナは変わったか。
僕は、感謝のつもりでモイラを一瞥。
「……コホン」
瞬間、イドル君の咳払いが場を遮る。
やべっ、と。
厳正なる雰囲気を壊しかけた僕達は、それによって直ちに直る事になった。
そして。
「じゃあ、始めるぞ。───『終幕』を」
やっと来た。
そう思った僕らは、顔を怪しく笑わせた。
……僕達の全ては、この内戦を終わらせる為にあったんだからね。
♦︎
人権無き鍛治師による武器提供。
僕達“中立”による、王国兵の武装確認。及び弱点把握。
資金提供。魔道具補給。
叛逆軍兵の訓練。魔法技術の鍛錬。
そこから導き出される答えは……そう。
──────王国転覆。及び国王アザミ・スノウストの暗殺だ。
叛逆軍は、もうそれを実行に移そうとしている。
圧倒的な士気とバックアップを以って、その計画を終わらせようとしている。
僕達の行く末を担っているのは、喜ぶべきか叛逆軍なのだ。
そして今、頭目イドルによって話されている事が……正に内戦終結の為の内容。
……けれど。
「それじゃ駄目なんだ!それじゃあよ!!」
場は一触即発。
響き渡るは頭目の怒号。
兵達はたじろぎ、机を殴る彼の怒りに困惑していた。
僕達もそうだ。
話合いがこうなるとすら、思わなかったのだから。
「どうしてだい!?何故国王アザミを殺さねばならない!?」
僕は訴える。
“中立”として。例え国王が外道だったとしても、無益な殺生はダメだと……そう思い知らせる為に。
当然、僕達はあの外道国王が執った政策を知っている。
首都郊外の村から、無作為に女子供が攫われているのを知っている。
王国軍からの税搾取も、かなり酷い物だったと分かっている。
その不条理に抗う勢力が叛逆軍だと。そう理解している。
確かに、王国は罪だろう。国王はヒイラギの癌だろう。
けれど、殺してその後の災害を考えない様であれば───。
「良いじゃねぇか、国王を殺したって!兵達の奮起も成る前に殺せば良い!俺達が王国を再建するんだよ!」
狂っていた。イドルは。
かの冷静な、美少年策謀家であるイドルは……もう以前の輝きを失っていた。
ただ殺戮のみを主とする、国王と同じ外道へと成り下がっていた。
「……間違ってる筈がねぇんだ!───母様はッ……!!」
「イドル……。でも君は───」
そんなイドルの零した、一つの悲哀。
けれど、それに僕が同情する暇もなく。
「……ッ!!?」
──────僕の左眼に閃光が走った。
未来視だ。間が悪いことに。




