───それが、ただ一時のモノだとしても。
「本当に……突然でした。私が彼のお見舞いに行こうと病室に行ったら……彼は病室ごと、謎の魔物によって消えていました」
フェルナは目を閉じ、歯が折れそうになる程にまで食いしばった。
未だ、その魔物を怨む様に。
「───飛び散る鮮血。魔物の口からはみ出る彼の衣服。……それを見て私は、逃げるしか出来ませんでした。途中、沢山の人々の悲鳴が聞こえました。けれど私は逃げました。彼が居た病院が崩れるのを見て、魔物が軍隊によって殺されるのを見て。───ただ私は絶望しました」
フェルナの肩が震えていく。
木に隠れたユトの拳が、静かにギリギリと握りしめられる。
「……生き甲斐にすらなっていた彼の死は……今でも思い出す度に死にたくなります。私の最良の日々はもう過ぎ去ったと。それで私も自殺を考えて……けれど覚悟が付かなくて。そんな時私はあの勇者……アーサー・アスタチンに拾われました」
フェルナは、一区切り付いたかの様に……一つ息を吐いた。
自身に込み上げた怒りを払拭する様に。だがその上でフェルナは思い出した。
「……これはチャンスだと。これが彼の遺した最後の言葉だと。そう私は思い……救済者となりました。───以来私は親、親友、兄弟……愛人。それらの争いを見ていると、救いたくなる衝動に駆られる様になりました。人を失えばその心中に、同情する様になりました」
フェルナは、途中で身に付けたメイド服を握り。
同情する様に静聴しているモイラと目を合わせ、訴えた。
「けれど最後には、この様な元の私の人格が表に出る。結局は私の『マッドサイエンティスト』と言う人格は……嘘に近いものなんですよ。自分を安定させる為の。───でも、彼が最後に褒めてくれたこのメイド服だけは裏切らない。これを身に付けている間の私が『本当の私』なんだって、そう自分は勝手に思っています」
「……強いんだね。フェルナちゃんは」
モイラは、自身を蔑む様に……フェルナから少し目線を逸らした。
けれどフェルナはほくそ笑み、目の前の創造神に告げた。
「こうも振舞って無いと、彼への気持ちがただの欺瞞で終わってしまいますから」
「そう……」
モイラは数秒黙り込み、湖を見ながら呟いた。
「───この話、私以外に誰が知ってるの?」
「……勇者勢全員。それとガレーシャだけです」
「そうなんだ──────フフ」
少しばかり暗くなった雰囲気で、突如モイラは思い出す様に笑った。
それも悲しい様な笑いだったが。
「どうしたんですか?」
「あ。いや、他意は無いんだけど───似てるって思ってさ」
「誰に、ですか?」
モイラは神妙な面持ちでフェルナを見つめ、そして微笑した。
「───私と、ユトに」
「どういうことですか?」
瞬間、ユトは目を伏せた。
少しばかり……聞きたく無い、思い出したく無い話題が出たからか。
それでもユトは、その場を立ち去る事はせず、ただそこで見守った。
「いや、ね。前の私とユトも……元からこんな性格してた訳じゃ無いんだよ。───あの子と出会ってからかな。こんな性格になったのは」
その目には、少しばかり懐かしさがあった。
けれども、その瞳はそれが良い過去だと言う事を……物語ってすらいなかった。
(同じ……ずっと遠い存在だと思っていた、二人が───)
フェルナはそれに若干同情の眼差しを向けるも、すぐに伏せる。
「そうだったんですか……」
モイラは深く息を吐き、雰囲気を慈愛へ変えた。
「───『戦いに弱者なんて居ない。戦おうとしない奴が居るだけの事だ』……ある知人の受け売りだけど。フェルナちゃんはどう?」
「……戦いですか。確かに。なら私は───」
フェルナの表情が、確信持って緩んでいく。
それを見たモイラはただ、笑った。
「……なら───良いんだよ。マッドサイエンティスト。私達は人間だ。覚悟はいつしか報われるよ」
「……!!」
その笑みは───似ていた。
あの彼に。失ったはずの彼に。
もう見れないと思っていた筈のあの笑顔。
私は、その笑顔の為なら───。
瞬間、モイラは突如立ち上がり、後ろからフェルナの背を叩いた。
気付けば、その時の顔は混じりっけなしの無垢さが在った。
「───僕らは、その人間ですら無いんだけどね」
ユトはほくそ笑み……モイラの通常通りの仕草に安堵しつつ。
先のモイラへの皮肉と同時に闇に紛れ、消える。
「ほらフェルナちゃん!そろそろ行かないとイドル君が怒りそうだし!帰るよ!」
モイラはステップで駆け出し、霊脈の木々の隙間を通り抜けて呼び掛ける。
その笑顔には、先程までの暗がりは無い。
問題が解消したからか。心を分かち合ったからか。
それはフェルナも同じ事だった。
「あ、ちょっと待ってモイ───モイラちゃーん!!」
フェルナは、いつのまにか流れていた涙を拭き取った。
そして咄嗟に立ち上がり、付近の小動物を可愛がりながら。
ふと落ちた表紙が剥がされた本を手に取り。
猫耳を震わせ、新品のメイド服を揺らして。
そして走る。元気よく。
その様は、綺麗だった。形容しがたい程に。
……二人の救済者は救われたのだ。
たった一つの会話の内に。
たった一つの笑顔と語り合いの内に。
───霊脈が藍色に光る。
湖は光を吸い上げ、天井に反射させて幻想的な雰囲気を創り出す。
二つの蝶々は同じ葉っぱに止まり、羽を寄せ合う。
そう。……そうだ。
例えそれが、ただ一時のモノだったとしても。
それは確かにそこで生きていたのだから───。
私的に、最後の終わり方が気に食わなかったので改変致しました。




