鍛治師の安否は……。
ドン、と。
勢い良く鉄扉は開けられ、熱い空気が雪崩れ込む。
「……生きてるかい!?」
「は?充分に五体満足だが。───お前らどうした?依頼か?」
返されたのは、鍛治師の元気な声。
少生意気な口調に、彼らは何故かかえって安堵した。
「無事……なんですね」
「……さっきから何言っとるんじゃ?依頼か?そうじゃ無いのか?」
「知らないなら良いよ、鍛治師ちゃん……」
言葉からも鍛治師のど天然っぷりが窺えるが、やはり何故か僕含む三人は安堵してしまう。
だがこの感情について、深く考える事はなく。
「あ。じゃあ僕達帰るんで」
僕達は踵を返し、白けるまでも無く鍛治師の焦りをそのままに帰還しようとした。
だが、それは鍛治師によって止められる。
「おいおいおいちょっと待てぃ!」
「……なんだい?さっきまで雪原走って僕達疲れてるんだけど」
「───忘れてたが、いいか!お前に頼まれてた武器、完成したんだぞ!」
「え?」
僕達の歩みが止まる。
そして、鍛治師は顔を合わせた僕達に笑顔を零した。
「───ほれ、これが出来立てホヤホヤの完成品だぞぉ?」
その品物は、ユト達の疲れを軽く吹き飛ばす程の迫力を有していた……。
───と、その後の事。
熱打つ工房には、一つの疑問の声が上がった。
「指輪……?何ですかそれ……」
先のガレーシャの言う通り、指輪だ。
外部が白金で形作られ、聖光発する宝石添えられたモノだった。
それは鍛治師の懐から取り出され、僕の手へと渡された。
「手、出して」
「え……」
「いいから」
僕はそのまま、ガレーシャに手を出す様促した。
一瞬彼女が左手を差し出しかけたので、僕は何の気無しに遮った。
「───右手」
「あ……はい」
ぎこちない会話の末に、指輪は右手の薬指にはめられる。
案外抵抗は無く、すんなりと彼女の指にはまった。
指輪をはめる僕達の姿はロマンチックに映っただろうか。
今はもう知る由も無いが。
「……どうだい?感覚は」
「いや何も───ッ!!?」
瞬間、彼女にその兆候が出た。
刹那の内に瞳の歯車は周り、一過性の頭痛が響き渡る。
頭が割れる。けれど不快では無い。
「こ……れは……」
気付けば頭痛は止み、身に残されたは違和感のみ。
何処からか力が湧いてくる様な開放感が、違和感として体に残った。
「お。やっぱり適応出来たんだね」
「儂の腕がいいからかのぉ?」
「どうだろうか。───ガレーシャ、不都合無い?」
「不都合……ですか?」
ガレーシャは指輪を凝視し、次に体の調子を確認した。
けれど何の問題も無い事に、逆に彼女は困惑する。
「じゃあガレーシャちゃん、指輪を変形させてみて」
「?はい……」
モイラはその横で忠言を飛ばす。
何が何やら分からないガレーシャであったが、取り敢えず従うことにし。
いつの間にやら身に付いていた指輪の扱い方を思い出し、そのままに。
「こうかな……」
目を細めながらも呟き、彼女は指輪の赴くままに……。
その能力の片鱗を見せつけた。
「うわっ!?」
指輪から舞い上がる聖光。
目を潰す様な光に対し、目は拒絶すらしない。
けれど暴れ回る光。その様はガレーシャを食い破る程であった。
だが、直ぐにそれは治った。
聖光が龍を形作っていた様な気もするが、彼女には関係無いらしく。
次に現れたその姿に、僕は口角を上げた。
───その手には槍が握られていた。
所々光り輝く、白金の槍が……ガレーシャの手に。
「これは……」
「───どうだ、儂の傑作は?それは何物にも姿を変形出来る……お主の武器。そうさな。あえて言うとするならば『神器』に値するじゃろう」
未だ困惑する彼女に、鍛治師らしい笑いを浮かべて答える鍛治師。
「ユトさんの能力……みたいなものですか?」
ガレーシャはふと僕を見詰めて来たが、僕は首を振った。
「……ちょっと違うかな。君のそれは能力ではなく武器だ。けれど使いこなせれば……君は今より数段強くなれるはずだ」
「そうなんですか……って事は。───これがサプライズって奴ですか?」
その問いに僕は頷いた。
いやらしくも無く、横に居る鍛治師の輝く笑顔と揃えて。
「ふっ……そうですか。ありがとうございます」
返されたのは同じく笑みだった。
けれど。その笑みは少し鈍り、そして自身の武勇を掲げてまた吹き返した。
「でも変形出来るとは言っても───私はこの槍しか使えなさそうですけどねっ!」
「はは。君らしいね」
一頻り笑い合い、ガレーシャは槍を指輪に変形させた。
その様はもう熟練されていた。
そうして、工房を後ろに鍛治師は告げた。
「───そんな所でだ。儂は仕事も終えたし帰る事とする。工房は報酬として持ってくぞ」
「了解。……急に呼んで済まなかったね」
「いいんじゃよ。……儂は人権無き鍛治師、なのだからなっ!」
帰って来たのは、寂しさなどでは無かった。
だから僕達も、かえって安堵するのだ。
締められる洞窟の鉄扉。
ガレーシャは鍛治師が残したサプライズを指に、笑う。
それに小さな鍛治師は、また可愛い笑顔を残し……。
「さよーならー」
「うむ!」
モイラの送り言葉と共に、鍛治師は扉と共に消えて行った。
また、別の仕事に行ったのだろう。
僕達はそう思い、何故か重くなった足を動かして……叛逆軍のアジトへ向かって行った。
見にくそうだったので、地の文を削ってみました。
試みとしてですが、見やすくなったのなら幸いです。
要望が募れば、元の文に戻す可能性も微レ存ですが……。
流石に今までの地の文が多すぎたので、あり得ないですかね。




