お使い出来るかな
直後。
振り落とされた研究心は、再考せずに機能を停止した。
そうして全員が霊脈内の湖に戻り、続くイドルの説明を聞くことになった。
「コホン。全員揃った事だし、この霊脈についてもっと話をしてやろう」
「はぁーい……」
けれどフェルナは傷心気味。
研究を阻害された事に、多少なりとも納得が行かないようだ。
「拗ねないで」と、モイラから心配されたはいいものの……それでは収まらず。
されどこれ以上面倒事を掛ける訳でも無く、次のイドルの言葉に支障はなく。
ただ僕達は、彼から明かされた『霊脈について』の説明を静聴した。
「───じゃあ、先ずはだな……」
♦︎
彼によると、霊脈とはある生物の死骸が基となっているらしい。
深い記述は得られなかったが、その生物は神では無いにしろ強大な力を有していたらしい。
神には至れなかった生物……つまりは神前生体、若しくはそれに近い存在だったのだろう。
その存在が確認されたのは太古の昔の事で、その生物はヒイラギに猛威を振るい過ぎたが故に討伐されたらしい。
それはほぼ人類悪の様な物だったが、ヒイラギ王国の原点となった重要な生物。
故に、討伐の際に分かれた胴と頭の内、頭の遺骸が『王国の権威』として地中深くに埋められている。
永い年月を掛け……生物の二つの遺骸は霊脈と化し、その血潮は大地に根付く小霊脈となった。
霊脈は今ある通り無限に等しい魔力を生み出し、万人に喝采を招く。
楽園にも等しい自然を作れるこの霊脈は、生物が遺した白の遺産だろう。
そして今ここにある皮下霊脈は、分かれた胴と頭の内の……胴体部分の成れの果て。
神域に至りかけたその生物の遺骸が故の霊脈は、別名『神魂の魔力炉』と呼ばれている。
───つまりは。
「ヒイラギ王国には、今もその生物の魂が眠っている……と言う事だ。諸説あるがな」
イドルは締め括る。
明け渡されたのは情報。
しかもかなり興味深い物であった。
───『もしかしたら古代兵器かも知れない……霊脈は』
そう察せられるくらいには。
けれどまだまだ情報が少なすぎる。
まだ断定出来ないが故に、僕は取り敢えず話に戻る事にした。
「もしかしてイドル君、霊脈を利用しようとか思ってる?」
すると、イドル君は鼻で笑い。
「───と言うか、もうしてる。魔道具作成、一回使い切りの魔力過重剣作成とか……流石にこれ無しには王国と戦えねぇからな」
その口から出たのは……実に合理的な考えであった。
『使えるものなら何でも使う』
その考えが無ければ、あの精鋭揃いの王国とやり合う事なんて不可能。
どうやって戦いを互角に持ち込んでいるんだと思えば、やはりそうか。
それに陰ながら納得する僕であったが……次のイドルの言葉によって掻き消された。
「───って事で悪いんだが……兵達の訓練、してくれねぇか?」
あざとく笑うその目は、何故か憎めない物が在って……。
「……フ。そう言うコト。その為に僕達に霊脈を教えたんだね」
「そうさ。───断れねぇだろ?“中立”さん」
僕らの合間にはどよめきが走る。
けれど彼の言う通り断れないのは事実なので。
僕は頭を掻きながら、代表して応える事にした。
「……はぁ。分かったよ。叛逆軍頭目さん」
帰って来たのは、嬉しそうな彼の笑みだった。
♦︎
……と、叛逆軍一般兵の訓練を任された僕達なのだが。
流石に、こちら側だけに加担するのは中立として不公平だ。
王国側にも顔を出さねば、中立としての名が廃る。
で、あるからして……僕以外の三人に、訓練の役目を任せる事にした。
それについて反論は何個かあったものの。
「一人で充分。時々呼ぶからその時は来てね」
と言う言葉で打ち負かし、僕は王国へ発った。
もうそれを止めるものは居ない。
これが“中立”なのだと、両派閥が理解していたからだ。
───これも一興だと。利用出来れば問題ないと。
そうして……中立の仕事は本格的に始まった。
叛逆軍側ではガレーシャによる格闘訓練が行われている。
そんな中、僕は第一王子ユリにある事を頼まれた。
『白皮猛犬の成体を一体狩って来てほしい』
『何故だ』と僕が聞くと。
『王国生態研究員が求めている』らしい。
───ので。
僕は快く承諾し、誰にも見つからぬ所で叛逆軍側の三人に通信魔法を掛ける。
そうして告げる。
『白皮猛犬狩って来てくれない?』と。
そして彼女らも承諾。
ガレーシャは手が離せない様で、フェルナも研究があるらしいのでモイラが単独で狩りに行き。
そして、お手製の槍で殺めて新鮮な遺骸を転送魔法で届ける。
ここまで数十分のお話。
そうして僕はなに食わぬ顔でユリ王子にそれを届けた。
彼らの驚く顔が目に浮かぶ様だったよ。
───また或る日。
『叛逆軍の使う刀剣が心許ない、しかも魔力過重剣も無い』と、イドルは叫ぶ。
今回はオフだったガレーシャ達は、その声を聞いて直ぐ閃いた。
最初の『人権無き鍛治師』に頼めばいいじゃないと。
そうして、アポなしで工房があるあの洞窟に彼女達は突撃。
驚く鍛治師に、彼女達は頼む。
『剣を作ってくれ』と。
彼女も仕事中だった様だが、悩んだ末に頷き。
瞬時にして数百の剣と魔力過重剣を作成し、最終的には剣を作る喜びで笑っていた。
然してガレーシャ達はその剣をイドルへ送った───は良いものの。
また『済まないがポーションが足りなくなっちまった』と要望。
凄まじいパシリっぷりだが、断る訳にも行かなく。
けれどどこを探してもお目当ての物が無いので、王国に居るユトへ相談。
彼は直ぐに承諾し、第一王子に駆け寄る。
『ポーション余ってたらくれない?』と。
突然の要求にユリ王子は多少困惑した様子だったが、直ぐ兵士に頼んで持って来させる。
それをユトが叛逆軍に送る形となって、叛逆軍は大喜び。
疲れはしたものの、いい一日になったと……イドルははしゃいでいた。
───またまた或る日。
今回は王国軍兵の訓練を頼まれた。ユリ第一王子からだ。
戦場執事であるスーゴの訓練も良いのだが、今回の訓練は事象操作らしい。
それは流石にスーゴも無理であり、ユトも教えられる程鍛えていない。
ユトは頭を傾げるが……フェルナの存在を思い出した。
かくして連絡。
『ちょっと手伝って欲しい』と。




