叛逆が持ち得る蒼き光
見えたのは清廉。
感じたのは静寂。
ここを洞窟内とも思わせない。其処はまるで楽園だった。
岩肌は緑草に隠れ、彼処に咲く花々は可憐に光り輝く。
空間は草原の様に広く、そして美しい。
日光が刺さぬ筈なのに、楽園は常に光で満ちていた。
自然に作られた緩やかな階段を下りれば、其処には透き通る湖が。
飼われた白馬や動物駄弁るその湖。それは何処からか光を反射していた。
上を見上げれば水模様。
蒼き光は楽園を作り出し、生き物を愉悦に浸らせる。
目線の先には蝶々が飛び、付近に生え揃った木々にて休息する。
───全くもってここが洞窟の中……ましてや絶対凍土の地とは思えなかった。
まるで別世界。
ふと周りを見渡すと、蒼き筋が空間に行き渡っているのが見えた。
それは輝き、熱を打ち───この空間の太陽の如く返り咲いていた。
───水を凍て付かせず、それでいて多大に魔力を吹き出す。
故にこその楽園。極楽浄土をも彷彿とさせる自然の飽和。
この場のあらゆる自然と緑は、あの蒼い筋によって作られた物だろう。
だからこそ、あの勇者は舞い踊る。
……摩訶不思議な光景を見たからか?
あの蒼い筋に、興味が湧いたからか?
否。そのどちらでもあり、どちらでもない。
『研究心が疼いたから』と、神術師フェルナは反射的に飛び上がる。
「研究しったーーーい!!」と。そう喚き散らしながら。
けれどモイラとガレーシャに止められる……が。
今回ばかりは譲れないようで、フェルナはそれに必死に抵抗。
……目に余る光景を横に、それに動物達が動じぬ光景を横に。
僕とイドルだけの対話の中、イドルは無視して口を開け、そのまま言葉を連ねた。
「───皮下霊脈って、知ってるか?」
「……ああ。小耳に挟む程度にはね」
「そうか。ならお前は……皮下霊脈が二つある事、知ってたか?」
「一応は。確か小霊脈とは違い、軍事利用まで出来る魔力生成脈……確か一つが王国側にあって……」
「───その二つ目がここにある霊脈。俺達が発見・管理してきた神域だ」
「……やっぱり、あの書類に書かれてた『彼奴ら』って君達の事だったんだね……あれ、だったらさ。なんで僕達にこの場所を教えちゃうんだい?一応秘密兵器みたいなものでしょ?」
「……良いんだよ。お前らは善人だし、しかも利用し甲斐がある“中立”なんだろう?だったら隠し事せずに暴露した方がいいと思ってな」
「ふぅーん。案外切り替え早いんだね」
「……そうならざるを得なかっただけだよ、俺は」
僕がいやらしく彼を覗くと、彼は暗い顔をして返して来た。
やはりイドル君にも過去があるんだろうね。辛い過去が。
僕はそれを察し、触れないように息を重ねた。
───瞬間、荒い呼吸が会話を遮った。
「はぁ……はぁ……。ユトさん達、何してるんですか……」
案じて来たのはガレーシャ。肩で呼吸をしてかなり疲弊している。
かなり疲れた様子だが、もう其処にフェルナの姿は無い。
「ちょっとした話合いをね。───と言うか君達……捕獲に失敗したの?」
僕は聞く。
身に立ち昇る悪い予感を感じて。
するとガレーシャは、息を上げながらもこう言った。
「……ええ。もうフェルナさんは───あちらに」
そしてある方向を指差しながら、垂れる汗を拭いた。
その方向に居たのは……予想通りのマッドサイエンティスト。
霊脈の青い筋を研究しているのだろうか。
とりあえず僕はイドルへ視線を送った。
「あれ、大丈夫?」
「───大丈夫だろう。でも扱いを間違えたら危ないのは変わらねぇぞ」
その答えを聞いた僕。
これは見過ごせない、と思い……そのままフェルナ捕獲員モイラへ視線を向け。
「むぅ……モイラ───止めて来て」
「了解!」
そうしてモイラは元気に受け答えし、そのまま天を飛翔。
天井近くのフェルナを捉え───。
「……朽ちた戌魂の霊脈───これで材料は全部揃ったわね!じゃあ次は本題にぃっ……!」
注射器状の収集用具で霊脈の蒼い光を回収するフェルナ。
早速として本題に移ろうと目を輝かせ……はしたのだが。
「そこまでっ!!」
「……ふぎゅぅ!?」
企みは即座にして、モイラによって止められた。
そうして皮下霊脈は、フェルナの魔の手から逃れて事無きを得たのである───。




