“中立”
「──────相打ち。同点だ」
暗黒には、そんな一声が駆け巡った。
発したのはイドル。
溜息交じりのその声は、諦めに満ちていた。
故に歯車は止まり、槍も止まる。
殺意は掻き消え、静止の手も止まった。
何も動き出さぬ暗黒にて、ただイドルは告げた。
「予想通り。やはりお前は……あんたらは強かった。ここを作ってから身につけた狡猾さも敵わなかった。───やっぱり身に染みたあれを使うしか……いや。兎に角お前は示した。自分の強さを、固めた意思を。───それは充分『中立』の立場に見合うモンだ」
出て来たのは賞賛。
そして敬意と承認。
地に突き刺さった剣を抜き、刃を向けずに彼は納刀し。
そして見せた事も無い笑顔をぶら下げ、頭目は言ったのだ。
───『お前らを認める』と。
勝利など関係無い。
結果的な死など、元々求めてすら居ないのだ。
出した殺意も虚偽である。
出した狂気も、偽りでは無いが薄かった。
総ては───目的が果たせるのならと。
偶像を下げ、自身の赴くまま……本気で戦った。
過程に虚偽が紛れていても、この戦いは苛烈に映った。
故にこの結果なら、もう文句は出まい。
鋭い槍は降ろされ、闘気ごと掻き消えて言葉を返す。
「───認めてくれた、って事で良いんですか?」
「さっきから何度も言ってるだろう。───全く。俺の目がガキの頃から肥えてて良かったな。お前らは俺に認められた。例え相打ちだったとしても、その名声は逆軍中に轟くだろうさ」
青年は目を笑わせる。
汗水流し、良き戦いであった……とその心中で息を上げて。
かくして頭目は振り返り、自身の幹部にこう告げる。
「それで良いよな、お前らも」
それで返されたのは頷きだった。
つまりは満場一致で……“中立”という立場を認める、という事に他ならない。
間に血は飛ばず、不足も恨みもない。
これ以上ない穏便な方法で───戦いは終わったのだ。
然して、頭目はまた振り向いて。
「これでお前らは、ちゃんと中立として認められたって事だ。───歓迎するよ。……ああ。ようこそ我が叛逆軍へ。───俺の名はイドル。これからお前達を利用させて頂く、叛逆の頭目だ」
そして笑い、青年は暗黒で邪悪を述べた……。
♦︎
ヒイラギ王国を牛耳る二大派閥。
───叛逆と隔離正義。
その両方の間に君臨する新たな派閥は……中立。
じきに中立は、その名を徐々に轟かせるであろう。
『どちらにも味方し、どちらをも殺し得る』
気紛れで制御し難く。けれど紳士ある力。
それは……もう既に認められた。
故にイドルは告げる。
───『こっちに来い。良い物を見せてやる』と。
僕達はその背中に従った。
叛逆を掲げる彼もまた、色々信念があると悟って。
仮初めの狡猾をぶら下げた彼には、様々な過去があっただろうと。
……だが今に至っては、同情出来ない。
何故叛逆の旗を掲げるに至った経緯などは、悟れる筈もない。
謎の既視感を覚えたとはいえ、今深掘りする意義は無い。
そうして僕は思案を諦め、先の戦いを覚え。
───そうして、眼前の景色に目を移すのだ。
結構文章量が……少ないですね。




