あの豪傑から受け継いだ、その槍術
叛逆と中立の戦い。
確かに理屈は通っていたが、成り行きだ。
理由はあるにしろ、果たし合いの様な深い戦いという訳でも、無い。
だが、これしか無かったのだ。
そう。命を賭けてでも。彼女は……やらなければならない。
それが、彼女なりの救済だから。
───火花は散る。
ランタンの光は揺れ、暗がりに閃光が飛び散る。
槍は地面を抉り、剣はそれを受け流す。
究極まで洗練された武芸は、両者共々に牙を剥く。
故に帰結せず、攻撃は空を割くのみ。
けれど常に間一髪で、その様は息を飲まずには居られない。
いつ決着が着くのかは二人次第。
中立の命運は、ガレーシャの手に懸かっている。
「はぁっ!」
だが彼女は焦らない。
あの母親に教えられたからか、その武芸には一切の乱れが無い。
更に隙も無く、攻撃は流れ行く清流の如く鮮やかである。
まるで受付嬢とも思わせぬ豪傑さ。
───その突きは、轟音と共に空を鳴動させた。
(……ッ!?こいつ本当に受付嬢か……ッ!?)
イドルはそれを間一髪で避けた、は良いものの。
青年は、女とすら感じさせぬ相手の武勇に心底驚いていた。
……いや。それでこそ成り立つと、そう悟り。心の中では笑っていた。
次に舞ったのは、イドルの剣だった。
そして、疾風の如く凪いだのだが。
それでも届かず───イドルは瞬時にして蹴り飛ばされた。
次に来る追い討ち。
それをイドルは察知し、そのままに剣を振った。
───命中。槍に、だが。
「……ちッ」
鳴らされるは舌打ち。
受付嬢への殺意が、彼の中で昂り。
両者そのまま、数百にも近い連撃を交わした。
されど、その末にも傷は付けられず。
両者は、拮抗している状態で飛び退った。
次いでイドルは、再び交わされた睨みの中で……こう呟いた。
「……確かに、アンタも。アンタらも。立場相応に強いのは理解した」
出て来たのは感服。
中立ながらも凄まじい力を持つだろうと言う、ある意味での恐れだった。
「それは認めてくれた……と言う事で良いんでしょうか?」
すかさずガレーシャは問う。
けれど、帰って来たのは嘲笑であった。
「馬鹿か。まだ俺は……俺達は、お前らの人格を知らねぇ。───悪魔にもなり得るバケモンと、俺達は馴れ合いたく無いんでな」
イドルは、頭目として告げた。
ただ自分勝手なだけで無く……頭目としての自分を重んじて。
そして、ひねり出された言葉は至極真っ当なもの。
───ここからが本番だと言う事を、ガレーシャは理解させられた。
周囲の、叛逆軍幹部の視線も痛い。
一向に緩まない敵視に、ガレーシャは裏腹に笑った。
「……分かりました。───ではこのガレーシャ・ミリア。謹んでご期待に応えましょう」
「良いだろう。本気で来いよ……ガレーシャ」
然して……第二回戦の鐘は、大きく鳴らされる。
♦︎
雰囲気が変わった。
今までは……少し違和感が有ったのに。
何か偶像を敵にしている様な感覚が有ったのに……今回は違う。
彼が本気になったからでしょうか?
兎に角分かることは。
この人は……段違いに強くなったという事。
「……ッ!?」
ガレーシャは顔を顰める。
イドルの猛攻に。
それに普段のペースを崩している自分自身に。
今すぐ喝を入れたいところだが、それをイドルは許さない。
やはり、一段と彼は強くなっていた。
足取りが軽く、剣筋は鋭い。
足運びは予測不可能な程に疾く、気付けば目の前に居る程。
そして隙などは微塵も感じられぬ剣幕で、イドルはガレーシャを追い詰める。
この強さ。仲間を想うあまり……だろうか。
だが、彼が本気になったのは事実。
今まで隠された剣技が解放され、猛威を振るい……その全てがガレーシャへ向かう。
白刃の刃は闇に紛れ、太刀筋ごと存在を揺らめかせる。
ランタンは数多の攻撃によって全て掻き消え、頼れるは夜目だけ。
未だ魔法などは飛んでこない……今は。
そして極め付けは……時々彼を見失う事。
十中八九彼は、この空間を熟知している。
適度に暗がり、視界が上手く確保できないこの鍛錬場を。
だからこそだろう。
さっきから、捉えられぬ攻撃が多々飛んで来る。
確かに防げぬ程ではない。
けれど『見えない』のは大きな隙を生む。
これはガレーシャもその気にならざるを得ない。
「ふぅぅ……」
そうしてガレーシャは槍に身を任せる。
息を吸い、感覚を研ぎ澄ませて槍を構える。
自身が築き上げて来た槍術は裏切らないからと。
そして相手を敬い、またも彼女は槍で空を割った。




