歪曲した話し合い
洞窟。
其処は暗くもあり、明るくもあった。
時には闇をチラつかせ、間には叛逆の意思を灯す。
これが叛逆軍の状況を皮肉っているのか、はたまた別の意味があるのか。思い込みか。
けれど分かるのは……この青年には確実に闇があると言う事だけ。
その他に察せる事は無い。
人々の苦痛を、苦悩を。
そのままに、受ける事は出来ない。
それが僕達が築く“中立”と言うモノ。
ある種の呪いでもあるだろう。僕達の様に。
気が付けば数分。
流れ行く風景の中からは、常に不穏な眼光がこちらへ飛ばされる。
まるで猛獣。
今までと違い、歓迎されて居ないのが丸わかりだった。
やはり人間、異分子を好まず。環境の変化を変に毛嫌いする。
少なからずその意思が叛逆軍にもあるんだろう。
───そして、頭目である青年にも。
「……で。あんたらは何の目的でここに来た?“中立”とは言っても、何もしない訳じゃ無いんだろう?」
やはり青年は寛大では無かった。
いや。この場合……慎重とも取るべきか。
だが、故にして───険悪な関係に至ってしまったのは間違いない様だ。
理由は明白。───『僕達に恐怖しているから』
つまり、前代未聞な“中立”と言う立場に困惑しているのだ。
あの第一王子はしなかったが……そもそも比べる対象が筋違い。
最初から『受け入れる』か『受け入れないか』その差がある限り、この両派閥は比べられない。
けれどそこに中立の僕らが入り込めば……明らかに困惑を招くのは間違いなく。
相応の理由を知らなければ、こう言った反感を買う事もあるだろう。
だが。それに否定も肯定も出来ぬのが痛い所。
「僕達は悪い奴等じゃない」と言い切れないのが、この中立という立場。
───『どちらにも付き、どちらも殺す』
ある意味での枷が、説得の邪魔をする。
でもただ……これだけは言える。
「うん。確かに君の言い分も理解できる。───でもさ。僕達をちゃんと利用できれば……王国すらをも破壊できるかも知れないよ?」
僕は、ひたすらに自分達の力を誇示した。
億劫ではあったが……これも仕方ないと思い、怪しく笑う。
その考えに、モイラ達は便乗した。
「そうそう。───でも、あくまで『利用できたら』だけどネ」
「私達を甘く見ない事なの!隙を見せたらすぐに研究し尽くしちゃうから!」
「そうです!私も……弱くありませんから!」
モイラが笑い。
フェルナが目を輝かせ。
ガレーシャが意気込む。
中間のはまだしも。
その声は、表情は……決して嘘などでは無かった。
その場繋ぎの一手ではあったが───それでも、青年の心には届いた。
だから青年は笑う。腹を抱えながら。
「ハハハハハ!面白ぇ!慢心も突き詰めりゃ実力になるか!───ああ、納得したよ。でもな」
だが最後には凛然とし、更には。
懐の剣を、一瞬で僕達全員に突き付け……こう告げた。
「……まだ信じるに値しねぇ。───お前ら。この俺……イドルと相手しろ。それで勝ったら笑って出迎えてやんよ……ただしやるなら『一人』までだ」
まぁ案外認めてくれた様だが。
これはこれで良いのだろうか───。
♦︎
───歪曲した話し合いだ。
中立という立場を、今僕達は試されている。
負けたら死ぬのは目に見えている。
……死んでも良い。僕達が王国側の動きを見せたのなら、と。
相手が王国側なら、喜んで祀り上げ……殺すと。
これが叛逆軍の狂気性。
今は敵では無いと言えるが……これが逆ならどうなるか。
あの王国に喰らいつけているのは、この残虐性があるからなのか。
もしくは慈悲が故なのか。
理由は無いのか、分からない。
一難去ってまた一難。掲げるは頭目の打倒。
いやはやどうして……こうも障害が沸くのか。
───言えるのは。
僕達は今、天秤に掛けられている。
引き合いに出されたのは……承認。
僕達を中立として認めるという、分かりやすい条件。
けれど過程には、死が伴うかも知れない。
それが……この戦いなんだろう?
───なぁ、イドルよ。




