破壊を持って───俺はバットエンドを無くしてやる
探せ。採れ。
それらを遂行しようとして、少年は障害を跳ね除けた。
然して、今は採取中。魔導物質の。
山超え谷超え、雪原抜け。その奥の洞窟の中で。
少年は一通り為すことを終えた顔で、一息吐いた。
けれどけれども、放浪の旅はまだ終わらない。
今日の目標を成し得たと言うのに、少年は歩き進む。
地理の分からぬ、雪山の奥地へと。
「何処へ行く」と問うても、返ってくるのは「後でわかる」だけの一点張り。
かくして、四人衆は吹雪の奥にて消えて行く───。
♦︎
戦場の兵達には、あの光が焼き付いたであろう。
あの閃光が。あの目眩が。
これが初陣の兵だっていた。
だが等しく……兵達は覚えていた。
自分が生きているという事。
そして……同時に仲間を大勢失ったという事を。
───確かに、前よりは犠牲が少ないだろう。
けれど……百三十五人、失ったのだ。
王国へ叛逆する、という意思を持った若者が。百数十人も。
もっと被害を抑えられたかも知れない。
最初から自身が赴けば、もっと───。
だが。
───どれだけ考えても、答えは出なかった。
そうさ。これは幻想。そうであったら、という絵空事。
元からこう言った行動をしていれば改善できた?
……もう過ぎた事なのだ。変えようが無いだろう。
選択は無数にあった。
ただ『俺』は、自分が正しいと思った線を引いただけ。
だが、あの指揮官には届きすらしなかった。
あの兵達には、敵いもしなかった。
俺達には、全てが欠けている。
戦力も。武力も。
勇気があっても、それは一過性のもの。
この吹雪の様に、いずれかは過ぎ去り行くもの。
───この復讐心は、嘘では無い。
これだけは分かる。
けれど。
これで本当に良かったんだろうか、と陰ながらに思ってしまう。
あの場で、兵達を死なせるのは。
未来が無数にある仲間達に間接的といえど『死ね』と言った俺の判断は、間違っていたのだろうか。
これしか生き残る術は無かった……?
───そんな物は嘘でしか無い。
この結果は、俺の選択に依る物。誰も悪くない。
ただ、俺だけが罪を抱けば良いんだ。
──────母様なら、どんな決断をしただろうか。
いや。考えるまでもない。
あの母様なら、俺の様にここまで堕落しない。
死にたい。死ねない。死にたい。───死ねない。
それが、母様の遺した言葉だから。
───だけど。
「俺はァ!何も変えられやしねぇ!!兵達を消費して!それでいて戦果も上げず!ただ仲間達を片手間に死へ誘導するだけ!!これをバットエンドって言って何になるんだよ!!」
俺は叫ぶ。
口から血が出そうな程に。
ただ俺は、募る痛みを叫びで解消した。
そうして、楽になりたいから。
「誰でも良いから……一度でも俺を慰めてくれよ」
けれど毎回、いつの間にやら……泣いている。
これは苦悩では無い。自虐だ。
叛逆軍何ぞという光無い軍を率いる、俺への罰だ。
これが兵達に無謀な賭けを強いる、堕落した俺の末路。
一人洞窟で、俺は号哭する。
自身への怒りを口にしながら。
血反吐をぶちまけたい悲哀に打ちひしがれ、ただ一人で叫んだ。
この様を、兵達に見られない様に。
俺の本当の姿を、兵達に見せない様に。
物に当たり、血を出し、また叫ぶ。
頭には、常に母様の言葉が鳴り響く。
まるで呪いの様に。
「けどもう……引けねぇんだよな」
それでも俺は、王国に叛逆を示す。
俺は付近の壊れた椅子に腰掛け、上がった体温を下げる。
頭をやっと冷やせた。
……やっぱり俺は、王国が嫌いだ。
あの指揮官が、死ぬほど嫌いだ。
だから何も考えずに、俺は破壊を尽くす。
兵達に向けて偶像を示し、その奥で嗤おう。
「───『破壊を持って、俺はバットエンドを無くしてやる』」
時として。
叫びが沈静化した後に、俺の仲間が一人部屋へ入ってきた。
伝達係だ。
そいつは一度俺の部屋の惨状に驚いたが……直ぐに顔色を変え、こう言った。
「頭目!」
「……何だ」
伝達係の焦り様は異常だった。
元々焦りもしないこいつかここまで取り乱すとは……何かあったか?
途端、伝達係は息を上げ……こう伝えた。
「頭目に会いたいと言う客人が……正門にて」
「……ここは隠されている筈だぞ?」
「いや、頭目も行ってみてくださいよ!本当に居るんだって!」
やはり、伝達係の焦り方は異常だった。
これは本当らしいが……この隠れ家に客人が?
あり得る筈が無い。ここは異常に過ぎる豪雪地帯だぞ?
客人としては兎も角、俺たちの警備を難なく抜けてやって来るとは……。
「分かった。直ぐに行こう」
……だが逆に興味が湧いた。
客人ともなれば、攻撃はして来ないだろうし。
少しばかり怒りが溜まってるんだ。相手が敵でも殺してやるさ。
と、思い……俺は、伝達係と共に荒れた自室を後にした。




