眼に映るは非行。即ち殺し合い。
吹雪くヒイラギ王国。
朝日を凌ぐ極寒は、時として目を霞ませる。
僕達はずっと、雪の荒野を放浪し続けた。
時には首都に帰り、第一王子と挨拶を交わし。
時には思い切り良く首都を飛び出し、また雪の荒野を歩き出す。
故にこその『放浪』其処に、行く道を阻む障害なし。
中立を貫き通す僕達にとっては、それは良い収穫に捉えられた。
然してほぼ一週間。
僕達はフェルナが見つけた魔導物質指南書に従い、気紛れとして素材集めに勤しんでいた。
目標は白雪林檎数房。
ヒイラギ王国郊外近くに存在する、毒を持つ林檎だ。
しかも常時凍て付いており、触るだけでも皮膚がくっ付く程。
忠告として……これは食用で無い事を理解してほしい。
と言うか、食べた瞬間に即座に死ぬ。絶対に服用禁止だ。
今は結界で何とかなってはいるが。
そもそもフェルナの作りたいものを知らない以上、色々と不安が残る。
最初見た調合指南の一例とは、違う様ですし。
なんせこれ、毒物ですから。
変な運用方法されると、こっちにも被害が出る可能性がある。
と言うわけなので。
僕は身も凍る吹雪を結界で難なく受けながら。
危険に過ぎる林檎を採取しながら、言った。
「……本当にフェルナ、これで何を作るつもりなんだい?」
「ええ、それは───」
だが時として吹雪が強張り、晴れる。
一瞬だけの隙だったが、僕は横目でしっかりと確認した。
───『何か』を。
それを見てしまった僕は、突如としてフェルナの答えを遮った。
そしてその『何か』を、僕は白林檎の木の間から睨んだ。
「……ちょっと待って」
「え。何かしたの?」
だが、そのモイラの疑問を受けても尚、その眼光は緩まない。
寧ろ『何か』の動きを察して強張る一方だった。
気付けば手に在った林檎は落とされ、僕の目は『何か』がある所だけを捉えて離さない。
だが、他の皆───やっと察したモイラ以外は、その『何か』に気付かず。
その一人、ガレーシャは……目を細めて声を掛ける。
「……吹雪でよく見えないですね。ユトさん、何か有ったんですか?」
「ああ。───フェルナ、この白雪林檎の採取後は、どこで何を採るんだった?」
「え、確か……この丘の向こう───地理的に、今ユトさんが見ている所の……雪原を抜けて奥の山脈にあるわ」
「そこまでの経路は?」
「……見た限り、その雪原を通らなければキツそうな感じ」
瞬間、僕は睨みを止めた。
そんな僕には、ある種の諦めの様な空気が漂っていた。
舌打ちでも聞こえてきそうな雰囲気。
かくして僕は、そのまま呟いた。
───「仕方ないか」と。
その言葉の意味を、今はモイラだけが理解している。
その視線の先にあった『何か』の正体を、ユトを除けば唯一知っていたから。
その上で彼女は、託した。
『無用な殺しはしない』と、誕生からの仲間を信じて……口を噤んだ。
そうしてモイラは一人、吹雪の奥を見据えた。
そして、何か物騒な物を見たかの様に……悟った様に、目を逸らす。
だが、他二人はまだ……理解出来ていない。
だからこそ彼女は身を、カゴに入れた林檎を気遣い、聞くのだ。
「一体、何を見ているんだ」と。
───返されたのは、微笑だった。
この世の悪を、深淵を垣間見たような……そんな笑みだった。
少年とすら思えぬその顔付きは、ある意味で悲しくもあったが。
そうであったが……僕は告げた。
「じゃあ見るかい?───『殺し合いを』」
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その言葉には、是非などは返ってこなかった。
肯定も否定も無い。
あるのはひたすらに沸く困惑のみ。
少年が含みのある言葉を言った所為だろうが、それでも否定は無かった。
だから少年は、捉えられぬ速度で魔力を蠢かせ。
即座に魔法を詠唱破棄で発動させる。
瞬間、ガレーシャとフェルナの眼光に淡い光が灯る。
遠見・透視の魔法だ。
備考だが、これは主に隠密に長けている。
それもまあ、目の先にある『何か』があるが故に。
少年は、捕捉されないだろうが木の葉っぱに隠れ、宿った魔法と共にこう告げる。
「見なさい。これが───『戦争』の様子だよ」




