同刻として危機
三段構造の金庫の中。
背中には、棚を深く漁るガレーシャが居る……そんな中。
フェルナは魔導具と同じ方法で創られた金庫の中に、あるものを発見した。
他に数十個、目を惹くものはあったが……これだけは特別だと。
自身の勘がそう告げるのを感じて、フェルナはそれを手に取った。
「どれどれ……ってこれって───」
その掌の上に乗るは書物。
埃被ったその一冊の本は、辞書程の分厚さで……重い。
タイトルに何が書かれているのかはかすれて見えないが、開かなくてもわかる。
これは凄いモノだと。
取り敢えずフェルナは魔導金庫を閉め、そのままロック。
その本を見る事は後の楽しみにと思い、フェルナは一息吐くが。
どさっ、と。
何か軽そうで思い物が落ちる音が、自身の周囲から鳴った。
その音源はフェルナの足元に在るらしく、咄嗟に見てみると。
「……何これ。───表紙が全部剥がされて……」
金庫を閉める時に落としたらしいその『本』は、フェルナの言った通り表紙が全て剥がされていた。
残っていたのは、その本の中身のみ。
崩れ落ちない様、接着されてはいたが……見る限り、この本はかなり古いものだ。
所々カビて居るところからも、それは確定だろう。
そして、結構本自体が薄い所を見るに……童話などの短編の様。
まあ、取り敢えず見た目が異質なので取って見てみようと思い、フェルナが屈んだ───矢先。
「……ッ!!」
───ギギギ。
閉じられていた情報保管室の扉が、突然に開けられた。
何者かの、手によって。
♦︎
───時を同じくして。
隠し武器庫を漁るユト・フトゥールムの方にも、危機が迫っていた。
それは、ユトが見つけた機密書類を読み上げ切った頃だった。
……実はユトとモイラ以外にも、其処にはもう一人の人物が居たのだ。
「……」
その人物は漆黒に紛れ、武器庫で悠長に書類を漁る二人組を確認していた。
その右手には、紫色の液体が入ったガラス瓶が握られてはいたが。
直ぐにユト達の存在を確認するや否や、その人物はそのガラス瓶を内ポケットに入れた。
───そして。
「ねぇねぇユト。私、結構良い情報引いちゃったカモ!」
「うむ。どれどれ……」
瞬間。
「───何を……しているのですか?フトゥールム様、クロスティー様?」
老練で乾いた肉声で、その人物はユト達と邂逅した。
そう、この人物は。
「……!!スーゴ・ターライト!第一王子の執事である君が、何故ここに!?」
ユトの驚き通り、この男はスーゴ・ターライト。
運悪くユト達と出くわしてしまった、哀れな執事である。
♦︎
そして……もう一方は。
「……ユリ・スノウスト第一王子……ッ!?タイミングどうなってるの!?こればっかりは作戦外。むぅ……神術師、ピンチ」
部屋に入ってきた第一王子を見て、フェルナは情報保管室の棚に隠れて愚痴を零していた。
第一王子の来訪。
その異常事態に、ガレーシャも気付いた様で。
何処からか瞬間移動して来ながら、苦悶を零した。
「……どうします?流石に第一王子が居る手前、情報収集なんて出来ませんよね!?」
「そうよね……」
フェルナ達はまだ、ユリに気付かれては居ない。
ユリの日常生活の様な挙動からも、それは察せられる。
……となると。
「気付かれない内に脱出するわ!」
トンズラをこく。それが最善だろう。
……だが、問題なのはその経路だ。
脱出用の出口は、先程ユリが入ってきたあの扉……あれ一つしか無い。
だが横を通ろう物なら、即座にユリに発見されるコトだろう。
ならば、他の出口を探すしか無い……。
猶予はそう無い。
ユリも手練れであろうから。
この部屋に居るのは自分だけでは無いと、いずれ勘付くだろうから。
だからフェルナは迫る時間の中、血眼で出口を探し続けた。
そして。
───右後方、三メートル。そこの壁。
そこに取り付けられている窓からならば……恐らく───。
「行くわよ!」
フェルナは走る。
目の端に止まった、あの表紙が剥がされた本を片手に。
先程手に取った、分厚い本を抱えて。
ガレーシャを連れ、自身の能力で認識阻害を掛け。
───走った。




