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ザ・ピンチ


 ……パリン、と。 

 何か、ガラスの物が割れる……そんな音は、無情にも部屋中に鳴り響いた。


「!?おい、今の……」

「ああ。確認するぞ」

 当然、その音を警備兵が見逃してくれる筈も無かった。

 ガレーシャは焦る。

 高鳴る心臓の鼓動を茅野の外にして、一心にその音の正体を探った。

 すると。


(───フラスコ!フェルナさんを眠らせた時に落ちたのですか……ッ!)

 自身が隠れる柱の裏に、砕け散ったフラスコの破片が飛び散っていた。

 ガレーシャの推理通り、フェルナが最後まで持っていたフラスコが落ちてしまった様だ。


 ……不味い。実際、かなり。

 しかも残念ながらこの柱以外、遮蔽物が何も無い。

 それに、フェルナを眠らせてしまった所為で逃げられもしない。


 ───詰み、という奴だ。

 兎に角ガレーシャは息を殺し、フェルナを抱えてただ柱の裏に(うずく)った。

 それが、意味のない抵抗だとしても。ただ彼女は、そうするしか無かった。


「……ッ」

 ───槍が、音を立てて揺れるのが聞こえる。

 兵の敵意が、次第に高鳴っていくのを感じる。

 ……見つかれば打ち首は免れない。


 けれどガレーシャは意地でも諦めず、目先の光明を探り続ける。

 思考を止めず。どうやってこの窮地を脱出出来るか……と。

 けれど、どれだけ考えても───見つかり、殺される運命に辿り着いた。

 それに絶望する間も無く。


「……気を付けろ。明らかに何かが居る」

 警備兵の一人が柱裏の存在に気付き、忠告。

 途端に、槍を強く握り締める音が響いた。


 一歩。二歩。三歩。

 気付けば、ガレーシャの顔には冷や汗が滴っていた。


 ───もう直ぐ、柱の裏を確認されるだろう。

 ガレーシャは、自身に与えられた使命を全う出来なかった事に恐怖を抱く。

 心臓の鼓動が更に高鳴り、手を震わせる。

 荒い息を彼女は必至に止め、膝のフェルナを気遣う。


 滴る汗。迫る警備兵。

 ──────けれど、いずれの帆を止める者が突然……そこに現れた。


「何をやっている、お前達。槍を構えて……もう勤務時間外だぞ、少し休め」

「あ、いや……先輩」

 強面で、強制的に相手を緊張させる雰囲気。

 その声音は低く、槍を構えた警備兵を叱咤していた。

 ───聞き覚えのある声だ。


「はぁっ……はぁ」

 ガレーシャは、荒くなった息を抑えながら、恐る恐るその人物を垣間見た。

 ……高身長に、その業物の銀槍。


 その男の姿は以前、首都の城門にてユト達を待ち受けた……近衛兵と酷似していた。

 ……いや。あれは「似ている」とかじゃ無く……確実に同一人物だ。


 ───と、ガレーシャがその偶然で行き過ぎている事象に驚いている時。

 突然膝元のフェルナはすっくと起き上がり、静かに呟いた。


「……作戦成功。じゃあ先……行きましょうね」

 フェルナは「計画通り」と言わんばかりにニヤリ、と笑みを浮かべ。

 そのまま落としたフラスコの破片を回収し、慌てるガレーシャの手を引き。


「え、フェルナさん起きるの早すぎ───」

「後でそれは説明するから。……兎に角早く進むわよ!」

 フェルナはそのまま超高度な透過魔法を付け。

 先程まで欲しい欲しい言っていた魔鉱石を苦渋の決断で見逃して。

 そのまま、先程まで警備兵がいて通れなかった新たな通路へと、闇に紛れて消えていった。


 ♦︎


 ───その後。

 フェルナの思うままに連れて行かれていたガレーシャ。

 暗闇で一呼吸置くのを境に、さっき起こったコトについて聞いてみる事にした。


「はぁ……フェルナさん、一から説明して下さい」

「そうだね……じゃあ『何故あんな良いタイミングで兵の交代が起きたか』について話すわ」

 フェルナは先程の呟きの通り、息を戻す序でに説明を重ねた。

 そしてそのまま、


「えぇっとね。───私、最初調べた宮廷警備兵の部屋でシフト表を見つけちゃったのよ」

「……シフト表?警備のですか?」

「ソウダネ。しかもその横に、宮殿左翼の見取り図があってね……そこから、さっきの警備兵のシフトを確認。そしたら直ぐ後に警備が変わるって確認しましてね。だから私はあそこに待機して機を伺ってたって訳なの───」

 説明途中、フェルナは突然目を輝かせ。


「でもそんな時にあの魔鉱石を見つけちゃって!研究魂が疼いたって訳だわ!───だけどまあ、ガレーシャの睡眠魔法によって……目を覚まさせられちゃったけどね」

 だが最後にはマッドサイエンティストの目は、ショボンと意気消沈していた。

 流石に彼女も、自身の非を認めた様。

 これもガレーシャのお陰……枷があったからこその自制だろう。

 けれどその説明を通してのガレーシャの意見は、少し懐疑的なモノが在った。

 それも、


「……でも、なんでフェルナさんは私の高度な睡眠魔法を近距離で食らっても未だピンピンしてるんですか?」

 その質問の瞬間、フェルナは(あざけ)る様に踏ん反り返り。


「はっははー。私に睡魔(すいま)など聞く筈もないでしょう!だって私、神術師よ?」

 と、若干ウザったらしい態度で彼女は笑う。

 それにガレーシャは見飽きた様に息を吐き、この後の展開に身構えた。


「そうですね。勇者様ですもんね」

「フフ──────と、冗談はこれくらいにして。以前、私は宮殿左翼の見取り図を見つけた時に……ある場所が気になったの、それがね───」

 テンションの差異が激しいフェルナは、冷静に告げた。

 かくして、彼女は一歩程後ろへ後退り。

 そのまま後ろの木扉に手を掛け、背中の裏でドアノブを捻り……開けた。


「──────ここ。『情報保管室』……如何にも、って所じゃない?」

「……元から何かあると思っていましたが……フェルナさん、かなりの大物を引き当てましたね」

 その奥の景色を垣間見たガレーシャは静かに笑い、相槌を打つ。

 その奥にあったものとは───。

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