マッドサイエンティストの暴走
創造神は語る。
自分の持つ権能が、全く使えなくなったと。
……まあ、今までの事からしたら普通だろうが。
それでも、その能力抑制範囲の広さに僕は驚いた。
「神眼が使えないって、なんで最初っから言わなかった───いや。タイミングとかもあるし、深く追求するのは辞めておくよ」
僕は会話の終わりに、自身の未来視が使えるか否かを確認した。
───結果、普通に視れた。
モイラの神眼だけに作用する、拘束能力……その正体は十中八九古代兵器だろう。
けども、モイラの言う通りヒイラギ王国全体にその力が及んでいるとするならば。
───それは何の為だ?僕の未来視は封じ込まず、モイラの神眼だけを封じる意図が分からない。
……いや。今考えても意味は無いか。
「……?どうしたの?」
モイラも疑問に思っている様だし。
取り敢えず僕は笑いで誤魔化した。
「いや。何でもない───と言うか、他に情報が有るかも知れない……から、調査を続けるよ」
「了解、また何か見つけたら報告するね」
「うん、そうしてくれると嬉しい」
「じゃあまた」
かくしてモイラはそう言って、闇に紛れて消えて行った。
それを見届けた僕は、気を取り直して───。
「……良し、もっと探すか」
背伸びして、本棚を探り始める。
♦︎
時を同じくして、もう一方。
ガレーシャとフェルナは絶賛。
「ちょっと!今出たら不味いですよ!?」
「やーだー!!あの魔鉱石研究したいの!」
警備の目の前で、言い争っていた。
二人が隠れる柱の奥には、談笑する警備兵が。
一歩でも踏み出したのなら、即刻発見される様な……明るみの中。
上にはシャンデリア。
下には歩けば低い音が鳴る、大理石が敷き詰められている。
そんな所、時だと言うのに、フェルナは研究心が疼いて堪らないと言うのだ。
彼女が求める研究対象は、談笑している警備兵の真横にある。
どう見ても、考えても。絶対手に取れぬ位置。
……なのにも関わらず、マッドサイエンティストは好奇心に踊らされる。
「今だけはその神術師モードやめましょう!本当に発見されちゃいますって!」
暴れるフェルナを、ガレーシャは必至に羽交い締めで塞き止める。
けれどフェルナももう……ここまで来たが故、簡単には引く筈もなく。
「透過魔法使えば大丈夫だって!ほら!研究させてよぉぉぉ!!」
抵抗。猫耳と尻尾でガレーシャをアタックする。けれど本人には効かない。
だがフェルナは、警備に勘付かれる程の声量は出さぬ冷静っぷりを発揮。
案外その可愛い抵抗にガレーシャも手を緩めそうになったが。
いやそれはダメだ、と割り切り。
「……いやダメに決まってるじゃないですか!警備兵の一人は、魔法を見通す暴露の魔眼持ちですよ!?」
そう。彼女の言う通り。
談笑する警備兵の中には、暴露の魔眼持ちがいる。
暴露の魔眼……あらゆる魔法、名前を見通す厄介な魔眼だ。
あれに曝されれば、幾ら神術師と言えども無傷では済まされない。と。
───そう言う、論理的思考に基づいた説得を……ガレーシャは仕掛けた、のだが。
「ぬぅぅぅむ。───駄目!科学者に妥協は許されないのだ!」
「この鉄頭!行かせる訳無いじゃないですか!!!」
依然、デメリットを考えないマッドサイエンティストは止まらない。
「ぬぉぉぉぉ……ッ!!」
瞬間、ズルズルと。
ガレーシャの力はフェルナの何処からか湧き出た剛力に負け始め。
遂には、警備兵から身を隠す為の柱からをも……出てしまった。
「え、ちょっ……本当に行くんですか!?」
一種の冗談だと思っていたガレーシャは、やっとフェルナが本気だと言うことに気付いた。
「ねっこみーん!探究心が赴くままに、私は行くのです!」
同時に、フェルナは透過魔法を使用して準備を完了させ。
そして右手にフラスコを持ち。
また、少しずつ研究対象に向かって行った……が。
「……?」
「……どうした?何かあったか?」
「あ、いや……何か物音がした様な」
───そんな所で、警備兵の一人が気配に気付き……振り向く。
暴露の魔眼持ちでは無かったのが幸いだったが……その者に見られるのも時間の問題。
……これは流石に不味い、と感じたガレーシャ。
即座に魔法を詠唱破棄して、発動させた。
「すみません、一回眠ってて下さいね!」
「……はへぇっ!?」
発動したのは、睡眠魔法。それも高度な、フェルナにも効くモノ。
それを近距離で浴びせられたフェルナは、直ぐに意識を失う……ので。
ガレーシャは直ぐ様先程の柱に隠れ、一息吐く。
フェルナの軽い体を抱えながら。窮地を脱したことに安堵を抱く。
──────けれど、何処からか。
パリン、と何かが割れる音が……部屋中に鳴り響いた。
「……!?」




