書斎に眠る遺言状
場面変わって僕、ユト・フトゥールムの所。
床上から透過魔法で侵入して来た僕等は、足場に立って部屋を俯瞰する。
「───ふむ。ここは……何処かな?」
……確認してみた所、どうやらここは書斎らしい。
いや、ほぼ図書館に近いか。
だが兎に角、ここは僕達の求める有益な情報が沢山ありそうだ。
……けれど。
「居るね、警備」
モイラの呟き通り、この書斎には警備が居る。
数は四人。ツーマンセルで行動中だ。
……つまり二組。死角はあまり無いと見た。
「そうだね」
僕は頷く。
書斎の長方形本棚の上で、その警備を見据えながら。
鷹の様に下界を見つめる僕は、この書斎を探索する場合のデメリットとメリットを考慮して、最終的な結論を述べる。
つまりそれは。
「───だが。僕達には関係ない……いつも通り、散策して行こう」
「了解、ユト」
隠して僕等は音も無しに棚から飛び降り、そのまま闇に紛れた。
♦︎
数刻後。
警備の目を警戒しつつ、僕は手当たり次第に棚を探る。
身長が低いからあまり高い所には手が届かないが、そこは視力でカバーする。
今探っている棚は、実に十個目の所。
勿論、あまり収穫は無い。
だがこの雰囲気、確実にこの書斎には何かある……筈なのだが。
「右から【鳴動する使命】【銀の墓】【血に濡れた鴉】【ストロブ・ラザー物語】【魔法学校の最高峰】そして色々飛ばして最後が……【Greed;空転する白】ね。全く読みたく無い小説ばっかりだ」
依然、こう言った……馬鹿げた物しか目に入らない。
頭が痛くなりそうだ。ストレスでね。
……これで十一個目の本棚。
まだ終わりが見えない癖に、利益も無い。
だが、ただの書斎では無いのは確かなんだ。もっと探さねば。
「はぁ……警備、行ったか。よし」
僕は溜息を吐きながら反転し、警備の所在を確認。
そのまま居ない事を確認し、モイラが上手くやっている事を願って走り出す。
目指すは十二個目の本棚。
滑る様にして闇に駆け込んだ僕は、そのまま棚の調査を始めた。
「……ん。おおっと、早速だ」
ふと地面を確認すると、そこには小さな日記が落ちていた。
どうやら、誰かが落とした物の様だ。
僕は周囲を警戒してそれを手に取り、開いた。
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メイド長の日記【最近起こった異変について】
──────カーネ・スノウスト女王様が御逝去されて早数年。
国は変わってしまった。何もかも。
ヒイラギの首都は閉鎖的に。独裁的になり。
何処からか持ってこられた女性、子供達が……強制的に兵の子供を産まされ、訓練されている。
表面上は、このヒイラギは楽園に見えるでしょう。
確かに、世論のみで語ればそうなるでしょう……が。
───それは違うと、私はそう断言できる。
……最早、あの時の幸せを知るメイドなど……私しか居なくなった。
いずれ、私も殺されるでしょう。
───本当に、国王アザミ・スノウスト様はどうかなされている。
あの時の、世界一幸福な王族と称されたスノウスト家族はもう居ない。
兄弟は散り散りに。
そして殺しあう様になった。
そう。もう……この国も。王も。
──────全てが、今までとは豹変してしまった。
まるで悪夢の様で、誰──────。
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その先は、血で汚れて見えなくなっていた。
……死んだんだろう、この著者は……王によって。
「誠に遺憾。最初から狂っていれば良かったのに」
愚痴の如く、僕は嫌悪を示した。
この狂気は、見覚えがあったようで……少し『ソレ』とは違う。
それが古代兵器によってもたらされた物なのか、それとも……そう言う運命だったのか。
これは、レジンスタンスも出て来る訳だ。
───まるで生き地獄。
血が煮えられた釜を覗き込んでいるかの様に……不快だ。
「……何か有ったりした?」
そんな時に、モイラは参戦して来た。
けれど、僕は焦らず。
片手間にその日記を本棚に入れながら、呟いた。
「いや、まぁ……『狂ってた』って事くらいは分かった」
「……?まあ良いや。───ユトさ、この本の内容読めたりする?」
モイラは少しばかり首を傾げたが、直ぐに気を取直して……ある一冊の本を差し出して来た。
表紙は、かなり古ぼけて埃被っていて……。
タイトルは【ヒイラギ王国の歴史について】と掠れた文字で書かれていた。
それを開くと。
「ん、どれどれ……ってこれ───」
そこには、意味の分からぬ言葉の羅列がたっぷりと敷き詰められていた。
うっわ、と僕は内心で引きつつも……解読に専念してみた……が。
「まさか、読めるの?」
「……全く。検討も付かない……と言うかモイラならこの位の文字、神眼で何とかなるでしょ?」
「あ、いや……それがね───」
突然モイラは目を泳がせ、たじろぎました。
はい、これ黒。
「───まさか、神眼使えないの?」
僕の悟った言葉に、モイラは図星の様に動きを止め。
静かに……暴露した。
「うん、見えないんだ……この王国に来てからずっとね」




