黙ってたら絶世の美女
ヒイラギ王国首都シオン・ラギエッタ宮殿。
その予備宿泊室にて、僕達は居る。
窓から見える景色を、僕は俯瞰して眺める。
空は暗がり、街は光に灯される。
宮殿は静まり、月は吹雪に隠れる。
……機は整った。
部屋に執事は、もう居ない。
監視の無くなった宿泊室にて、僕は本を畳み立ち上がった。
「……そろそろか」
「ええ。調べましょうか」
僕の呟きに、フェルナは相槌を打った。
其処に焦りも、躊躇も無い。
救済者達はただ、己が知るべき事に全てを掛ける。
被害を省みない。結果的に世界を救えたならそれで良い。
残酷だが、それが救済者と言うもの。
然してガレーシャもそれを理解している為、ただ頷いた。
「もうその気概は知っている」とでも言うかの様に。
そして、最後には創造神までもが笑う。
「ヒイラギ王国の悪い所、全部知りつくしちゃおっか」
笑顔の裏には、小悪魔の如き邪念が入り混じる。
いや、実際小悪魔だろうが……。
けれども、一人の少年は微笑で返した。
かくして、少年は全員の決意を目に焼き付け。
「───じゃあ、監視者も居なくなった所で……作戦会議と行こう」
♦︎
まあ、作戦会議と言えども……簡単な物。
依然として、宮殿と言うものには異常が付き物。
その探索には、自身で提示したルールと言うものは通用しない。
だからこそ『作戦』などで行動基準を縛った所で……足枷になるだけ。
その場その場の対応をせねば、余裕で捕まって死ぬ。
……では、その会議の結果を簡潔に説明しよう。
一。【宮殿の区画】
この宮殿、ザックリ偵察した限りでは……三つの区画に分かれていた。
まあ、それも外から観察してみての推察だから鵜呑みには出来ないが。
だが兎に角、この宮殿は───。
『左翼』『右翼』『中央』
に分かれている……筈だ。
区画ごとの役割は全く分からないが、中央は王の玉座があることから……パスにした方が良いだろう、と推測。
それを踏まえての事だが……。
二。【メンバー分け】
メンバーを分ける。これが重要だろう。
ちょっとした時間短縮にも繋がるので、メンバー分けは必須だと判断した。
今回の作戦は、一日で決める。
一宿を提供され、僕達への警戒度が最も少ないこの時でこそ……決め時だ。
作戦失敗……つまり発見は許されない。
隠密任務、と言う事だ。
今回の作戦は、あくまでも情報収集。
敵との交戦は、止むを得ない場合だったとしても許可しない。
人は殺すな。バレるな。情報収集のみを意識しろ。
それが、今作戦においての……原則だ。
では、メンバー分けを行う。皆、心して……聞き逃すことのない様に───。
「と、言われたは良いものの……本当に発見されずに情報収集出来るんでしょうか……」
チーム【マッドサイエンティスト受付嬢;左翼担当】
その一人、ガレーシャは不安を持って呟いた。
もう一人のフェルナを……扱いきれるかどうかを……思って。
「ねっこみーん!色々と研究しがいがあるブツがいっぱいだわー!」
「……もうちょっと声抑えて下さいね」
ステルスという言葉を知らないこのチーム。
先行きが不安ではあるが、案外噛み合っているというのは……皮肉なのだろうか。
一方その頃……右翼担当の僕達───いや。
チーム【少年とモイラさん】は。
『ワン!ワン!ワン!』
「しっ!しっ!少し黙って!」
───犬に吠えられていた。
「ははは!!!ユト、犬に吠えられてるーっっっ!!」
モイラ、犬に襲われている僕に対し、腹を抱えて転げ回る。
元々、このワンコを囃し立てたのはお前だろうに。
いつか噛む、いや犬の餌にしてやるから待ってなさい、まじで。
というか、なにこの【少年とモイラさん】ってチーム名。
モイラ、舐めてんの?二つのチーム名を任せてあげるって言ったらこれだよ。
───殺すよ?犬の餌にするよ?
というかモイラ、あんな風に笑って転がっているけど。
本当に、つくづく。
黙っていたら絶世の美女だなって、切に思うんだ。
あと、そろそろ犬っころがうるさくて警備を呼びそうなので。
「眠れ」
犬の耳に囁き、そのまま眠らせた。
そして僕の怒りは膨張し。
拳を握り込み、僕は振り返りざまにモイラへ眼光を送り。
「あ、あはは〜ごめん……なさい」
創造神の謝りを許さず。
ズンズン、と。
僕は無言で近寄り、そのまま。
「あ!いや、謝ったでしょ!はーなーしーてー」
モイラの髪を直で握り、そのまま宮殿右翼へと連行して(引きずって)いった。
まあ、色々あったが。
……ここから調査の開始だ。モイラもいずれ、気を引き締めてくれるだろう。
だがいつかこの恨み、はらさでおくべきか。




