悪に染まる。救済の為に。
第一王子、ユリ・スノウストは笑う。
僕の、皮肉とも捉えられる言葉に向けて。
表情の見えぬ背中越しで、ただユリは微笑した。
「何故首都に入れた……ですか。それは貴方方の様な勇者一行を敵に回すと、後々大変になると思いまして」
「そんな理由で?王子にしては少しばかり希薄的な動機だね」
僕は問う。
一国を担うであろう王子が見せた、誤った選択について。
だってあの状況の僕達は、充分に国の脅威足り得ていた。
そこに勇者が居たとしても、それは看過できぬ問題。
……けれど、第一王子はそれを赦した。その動機についてが分からない。
優しいのか、若しくは───。
瞬間、第一王子の歩みが止まり。
彼は背中で、その雰囲気をガラッと強張らせた。
「……それは貴方方には関係無い事です。例え勇者様が居ようとも。これは国家の機密事項ですので。つまり語る事は許されません」
ユリの語る言葉には、かなりの重みが有った。
これ以上聞くのは無粋。しかもまた命を取られそうだ。
横のスーゴ、とやら執事からの視線も痛いし。
だから僕は退いた。
動機がハッキリし無いのが困るけど、これは仕方ないと踏み切って。
すると、ユリは顔を見せずの背中越しに、
「……ですが貴方達は我が国、我が首都への客人として認識します。派閥にも入らなくて大丈夫です。───存分に、中立の立場を築いて下さいね」
その時のユリが、どんな顔付きをしていたかは分からない。
どんな事を考えているのかも、分からない。
青年はある意味で狂気染み、それでいて無垢な雰囲気を放っていた。
疑う事を知らないのか、それともそう悟らせようとする策士か。
……いずれにせよ、この子は要注意人物となり得そうだ。
「……ああ」
僕はまた、ユリには見えないだろうけど頷いた。
そして、また歩み行くユリ。
一言も喋られぬ静寂が、数十歩程の合間ずっと続き。
その間だけ、僕等は流れ行く首都の街並みに目を向けた。
それもまた流れる様に。
フェルナは、重苦しい空気の中でふと呟いた。
「……綺麗な街」
彼女の目には煌びやかでかつ、賑やかな首都の様子が映っていた。
所々雪が降り積もるその街並みは、暖色系の灯りで彩られている。
家屋は木造。だがそれが味を占める。
街を歩み行く民の表情には何時も、明るい笑顔が光っていた。
僕達が歩く歩道も、露天や商店などで常時賑わっている。
其処には色々な物流網と金が流れ、そこから王国の裕福さが垣間見える。
───まあ確かに『表を見る限りは』いい街だ。
それを悟った僕とモイラは、静かに口を噤んでおいた。
だからこの先の会話はフェルナとガレーシャ、ユリとその執事のスーゴが交わした物だ。
「ヒイラギ自慢の首都ですよ。───名を『ヒイラギ王国首都シオン・ラギエッタ』あの旗に描かれている……犬と二人の男性がシンボルです」
ユリは静かに……懐かしむ様に、その旗に描かれているマークを指差した。
そのシンボルを見たガレーシャは、少し懐疑的に、
「二人の男の人、犬……?何か元となった物語が?」
「まあ……そうですね。あるにはあるんですが……」
だが、その返答に関して……ユリは言葉を詰まらせた。
「……?」
そして、それを気にかけるガレーシャ達。
瞬間、その機微に気付いた横のスーゴは瞬時にカバー。
「ああ、あまり聞かないであげて下さい。スノウスト様にも、色々あるのです」
「……そうですよね。すみません、無粋でした」
それにガレーシャも直ぐに引き下がる。優しい世界。
勝手に同情するのも、まぁあれだと思うが。
「ではまぁ……行きましょう」
かくしてユリは、気を取直して歩み始める。
その腰には血が付いた本が一つ揺れていた。
魔道書か……?と思ったがどうやら違う様。
まあ、そんなに気にする事でも無いだろう……。
と、思っていた時。
執事の囁きと共に……青年は振り返った。
「……そうですね、スーゴ。───今夜は冷え込みます。宿……は取っていませんよね。なら、我が宮殿にいらして下さい。一宿一飯位は提供できますが……どうでしょうか?」
青年は笑う。
執事からの忠言によって。そして無垢なる表情で。
それでいて……闇を含む様な、そんな表情で。
フェルナ以外、名前も知らぬ僕達を……自身の庭に呼び込んだ。
だがこれを逃せば、多分これ以上の好機は無い。
──────侵入し、調べよう。この王国の実態について。
礼によって事を欠くつもりは無い。
今頭に浮かんだ事は……おおよそ、常識的に考えると───非礼だろう。
窮地を救ってくれたユリに対して、この様な愚行を働くのだから。
殺されても仕方がない、けれど。
僕達は───それでも知らなければ、救わなければならない。
委細かまわず。恩人に非礼を働いても、それでも。
僕達は中立の立場を築く。そして世界を救う。
なればこそ───この王国の実態を、知らねばなるまいて。
「──────ああ。じゃあ少しばかり……世話になるよ」
そして一人の少年は非礼を承知で、ピエロの様に笑った。
全ては世界を救う為。
少年は───少しばかり悪に染まる。
あ、タイトルはメダルギア意識です。
……普通に使ってみたかっただけです。
……以上、作者の戯言でした。




