表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/196

悪に染まる。救済の為に。

 

 第一王子、ユリ・スノウストは笑う。

 僕の、皮肉とも捉えられる言葉に向けて。

 表情の見えぬ背中越しで、ただユリは微笑した。


「何故首都に入れた……ですか。それは貴方方の様な勇者一行を敵に回すと、後々大変になると思いまして」

「そんな理由で?王子にしては少しばかり希薄的な動機だね」

 僕は問う。

 一国を担うであろう王子が見せた、誤った選択について。

 だってあの状況の僕達は、充分に国の脅威足り得ていた。

 そこに勇者が居たとしても、それは看過できぬ問題。


 ……けれど、第一王子はそれを赦した。その動機についてが分からない。

 優しいのか、若しくは───。

 瞬間、第一王子の歩みが止まり。

 彼は背中で、その雰囲気をガラッと強張らせた。


「……それは貴方方には関係無い事です。例え勇者様が居ようとも。これは国家の機密事項ですので。つまり語る事は許されません」

 ユリの語る言葉には、かなりの重みが有った。

 これ以上聞くのは無粋。しかもまた命を取られそうだ。

 横のスーゴ、とやら執事からの視線も痛いし。


 だから僕は退いた。

 動機がハッキリし無いのが困るけど、これは仕方ないと踏み切って。

 すると、ユリは顔を見せずの背中越しに、


「……ですが貴方達は我が国、我が首都への客人として認識します。派閥にも入らなくて大丈夫です。───存分に、中立の立場を築いて下さいね」

 その時のユリが、どんな顔付きをしていたかは分からない。

 どんな事を考えているのかも、分からない。

 青年はある意味で狂気染み、それでいて無垢な雰囲気を放っていた。


 疑う事を知らないのか、それともそう悟らせようとする策士か。

 ……いずれにせよ、この子は要注意人物となり得そうだ。


「……ああ」

 僕はまた、ユリには見えないだろうけど頷いた。

 そして、また歩み行くユリ。

 一言も喋られぬ静寂が、数十歩程の合間ずっと続き。

 その間だけ、僕等は流れ行く首都の街並みに目を向けた。

 それもまた流れる様に。

 フェルナは、重苦しい空気の中でふと呟いた。


「……綺麗な街」

 彼女の目には煌びやかでかつ、賑やかな首都の様子が映っていた。

 所々雪が降り積もるその街並みは、暖色系の灯りで彩られている。

 家屋は木造。だがそれが味を占める。


 街を歩み行く民の表情には何時も、明るい笑顔が光っていた。

 僕達が歩く歩道も、露天や商店などで常時賑わっている。

 其処には色々な物流網と金が流れ、そこから王国の裕福さが垣間見える。


 ───まあ確かに『表を見る限りは』いい街だ。

 それを悟った僕とモイラは、静かに口を噤んでおいた。

 だからこの先の会話はフェルナとガレーシャ、ユリとその執事のスーゴが交わした物だ。


「ヒイラギ自慢の首都ですよ。───名を『ヒイラギ王国首都シオン・ラギエッタ』あの旗に描かれている……犬と二人の男性がシンボルです」

 ユリは静かに……懐かしむ様に、その旗に描かれているマークを指差した。

 そのシンボルを見たガレーシャは、少し懐疑的に、


「二人の男の人、犬……?何か元となった物語が?」

「まあ……そうですね。あるにはあるんですが……」

 だが、その返答に関して……ユリは言葉を詰まらせた。


「……?」

 そして、それを気にかけるガレーシャ達。

 瞬間、その機微に気付いた横のスーゴは瞬時にカバー。


「ああ、あまり聞かないであげて下さい。スノウスト様にも、色々あるのです」

「……そうですよね。すみません、無粋でした」

 それにガレーシャも直ぐに引き下がる。優しい世界。

 勝手に同情するのも、まぁあれだと思うが。


「ではまぁ……行きましょう」

 かくしてユリは、気を取直して歩み始める。

 その腰には血が付いた本が一つ揺れていた。

 魔道書か……?と思ったがどうやら違う様。

 まあ、そんなに気にする事でも無いだろう……。

 と、思っていた時。

 執事の囁きと共に……青年は振り返った。


「……そうですね、スーゴ。───今夜は冷え込みます。宿……は取っていませんよね。なら、我が宮殿にいらして下さい。一宿一飯位は提供できますが……どうでしょうか?」

 青年は笑う。

 執事からの忠言によって。そして無垢なる表情で。

 それでいて……闇を含む様な、そんな表情で。

 フェルナ以外、名前も知らぬ僕達を……自身の庭に呼び込んだ。

 だがこれを逃せば、多分これ以上の好機は無い。


 ──────侵入し、調べよう。この王国の実態について。

 礼によって事を欠くつもりは無い。

 今頭に浮かんだ事は……おおよそ、常識的に考えると───非礼だろう。

 窮地を救ってくれたユリに対して、この様な愚行を働くのだから。

 殺されても仕方がない、けれど。


 僕達は───それでも知らなければ、救わなければならない。

 委細かまわず。恩人に非礼を働いても、それでも。

 僕達は中立の立場を築く。そして世界を救う。

 なればこそ───この王国の実態を、知らねばなるまいて。


「──────ああ。じゃあ少しばかり……世話になるよ」

 そして一人の少年は非礼を承知で、ピエロの様に笑った。

 全ては世界を救う為。

 少年は───少しばかり悪に染まる。


あ、タイトルはメダルギア意識です。

……普通に使ってみたかっただけです。


……以上、作者の戯言でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ