開始早々、殺害予告
『どちらの派閥にも付くな』『放浪せよ』
前者は先程の主人から。
後者は狂気に塗れたロベリアと言う『悪』から告げられた言葉。
大局的に見れば、その言葉は同じ意義を持つ。
派閥に付かねば放浪する事になる。
放浪しなければ、いずれ派閥に付く事になる、と。
案外、あのオカマの言葉も的を射ていた事になる。
だが、あの狂気が何故僕達に『ヒイラギ王国』へ向かえと助言したのか。それだけが全く理解出来ない。
……僕達は敵だった筈だ。少なくとも、今まではそうだった。
なのに奴は、悪役の甲斐も無しにそう言った。
その時は土壇場だったと言えど、ロベリアは如何にも凛然とした雰囲気だった。
一つも油断せず、怠惰もせずに。
狂気はただ僕達に『善意』を持って言った。
それが嘘では無いことを、僕は知っている。
その言葉には意味があると言うことを、僕の耳は覚えている。
そしてこの悪寒さ──。
──────ヒイラギ王国には、確実に何かが起こっている。まずそれは間違いないだろう。
♦︎
レジスタンスの死体を発見し、黙祷を捧げた僕達。
その後、目的地に向かう片手間に同じ様な死体が無いかを探したが───。
全く、その様な物は見受けられず。
気付けば、辺りの吹雪は晴れ掛かっていた。
「以前と比べて、大分吹雪が晴れてきましたね」
ガレーシャは言う。
言葉通りの事にもそうだが、先程から死体と合間見えぬ事に彼女は少し安堵の表情を零していた。
それにモイラも頷きながら、
「確かに。言われてみれば少しずつ晴れて行ってるような……」
「これなら、目的地も見えてきそうですわね」
モイラの呟きに、フェルナは被せる。
より一層晴れ行く吹雪に、光明を見出して。
それに僕は、それと同時に明るさを増した魔道具に気付いた。
魔道具が震えている。もしかして、この吹雪全部払ってくれるのか?
そう思った僕は、勘のままに掌の魔道具を空へ飛ばしてやった。
瞬間、魔道具は吹雪を身に受けると同時に膨れ上がり。
掃除機の様に、辺りの吹雪を吸い込んで吸い込んで───。
更に吸い込んで、吹雪を総て……消し去った。
その威力に驚く暇も無く『あるモノ』を見にしたフェルナは大声を上げた。
「うわっ……凄いですわ───って!皆アレ、アレ!!」
振り向くと、フェルナは猫耳とメイド服を揺らして指を指していた。
「……ん?」
そこでもう一度、僕達はその指の行く先を見た───すると。
白亜の城壁、そこから垣間見える巨大な白銀の城。
二人の近衛兵を始めとして護られる城門佇む、そんな城がそこには在った。
陽の光を浴び、更に照る白銀の雪と城。
万人を受け入れそうなその城門からは、栄える街並みが見えた。
その城壁の果ては……ここからは全く見えない。ずっと横に続いていて。
数百メートル先にどっしりと構えるその城塞は、正に。
「───ヒイラギ王国首都、あれが目的地……数時間掛けてやっと到達か」
「まあ行ってみましょう!」
かくして僕等は、目を光らせるフェルナを筆頭にその首都へと向かった。
♦︎
近付いて見れば。
数十人は同時に通れそうな城門は、長い階段の前にあり。
そして其処には、二人の屈強な近衛兵が待っていた。
右上、左上を見上げれば……其処にも衛兵あり。
やはり警備は厳重と見える。
内戦中だから当たり前だろうけど。
そして、何の警戒もせずに近付いてきた僕達に、兵達は体で遮り。
その暖かそうで重装甲な特製の軍服を揺らしながら、長槍の持ち手で地面を叩いた。
ドン、と。威嚇交じりに。
……不穏な空気だね。
入国審査かな?と僕達が陰ながらに思っていると、近衛兵は告げた。
「汝らは何者だ?───嘘偽りなく答えて貰おう。もし虚偽や詐称等をしたならば……」
近衛兵たちは、荒い眼光を各々こちらへ向け。
そして言い放った。
「──────容赦無く首を跳ね飛ばす。分かったな」
うわ物騒。
ただ国に入ろうとしている人達にこの態度とは……相当な警戒体制が敷かれているね。
僕は、背後にて驚く三人にジャスチャーで「任せて」と送り。
目の前の眼力に一歩も引かず、告げた。
「分かった。じゃあ自己紹介。僕達は───ただの冒険者さ」
ピエロの様な、相手を見透かす様な笑顔を向けて、僕は言う。
『救済者』という身分を隠して。




