表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/196

鍛治師に人権無し

 

 有無を言わさず入った洞窟。

 僕はそこに身を通しながら、その洞窟の広さを目で探る。


 まあ、余り部屋の広さなんて関係ないけれど。

 それでも、少し位の広さは確保されていないといけないのでね。

 そして、この洞窟は───。

 うん。少し暗いが……丁度良い大きさだ。これなら大丈夫だろう。


 そして、後は───。

 ……と、僕が無言で作業に移ろうとした時。


「あの〜。本当に工房ってなんなんですかぁ……?」

 いつのまにか横に居たガレーシャは、僕の謎行動に疑問を呈した。

 けれどこれは『サプライズ』なのでその場で教える事はせず。

 少し鼻で笑いつつ、呟いた。


「───鍛治師に人権無し。在るのは鉄を打つ腕のみ……。そこに自由意志は無く、ただ呼ばれ腕を酷使されるのみ───今回はそんな一流の鍛治師を問答無用に呼ぶとしよう」

 僕は左腕を虚空に振り払い、同時に『青い画面』を空中に展開。

 不可思議に存在するソレにガレーシャが困惑するのを置き去りに、僕は画面をタップし始めた。

 色々な項目をタップし、フリック。

 かと思えばスワイプして項目ごと消し、新しい項目をタップし始める。

 その項目に何が書かれているか、何をしているのかは僕以外理解できない。

 秘匿用の機能が施されているからね。例え日本語が画面に書かれているとしても、第三者の日本人はその文字を理解出来ない。それと同意義。


 ───というか、全く見つからないな。あの鍛治師。

 結構探している筈なのに……隠れてるのか?

 あ。……でも見つけた。


 僕はその項目を見つけ、もう一度……。

 ダブルポチッとな。


 そして青い画面は強く発光し、消える。

 だが先程ダブルタップした項目は消えず、洞窟内を一人歩きし。

 僕達の前……洞窟内の凍った地面に落ちたと同時に。


 ───再度、青色の光が強く煌めく……と同時に。


「……あいたっ!───うわっ!?一体ここ何処かいな!?……後寒っ!?」

 変に口調を鈍らせた少女が、勢い良く何処かから降ってきた。

 その褐色肌に露出度の高い水着だ、寒いのは当たり前。


「……!?」

 目の前で起こった色々な事に驚くガレーシャを置き、少女は周りを見渡し。

 僕達の姿を見て、驚きと共に深い溜息を溢した……後に。


「……はぁ。呼ぶ時は一報入れてからにしてくれんか?───全く。救済者という人種はこれだから……」

 少女は、その場であぐらを書きながらそのままの悪態を吐いた。

 相当ご立腹の様だ。僕を凄い形相で睨んできている。

 ……だけど僕は笑いながら、


「鍛治師に人権無し。それを提唱したのは君だろうに」

「そりゃそうだが……」

 笑う僕に、頭を掻いて不条理に納得する少女兼鍛治師。

 そんな、仲が良いのか悪いのか分からない会話を前にして。

 ただ一人未だ状況が理解出来ていないガレーシャは、横に居たフェルナに聞いた。


「あの……あの人は?」

「───人権が無い鍛治師筆頭。名前は伏せるけど、武器を作るだけなら超一流の鍛治師よ。あの身なりでも結構凄くて、私でも知ってる人」

「へ、へぇ〜。凄い人なんですね……」

 ガレーシャは、目を泳がせつつも相槌を打った。

 言葉の最初の方にあった『人権が無い鍛治師』と言う単語について困惑しているんだろう。

 そして、そんなガレーシャからの悲哀の眼差しを向けられている少女は、自身のいる場所の状況を把握したのか、


「……で。依頼じゃろ、工房は何処だ?」

 結構唐突な呼び出しだったのにも関わらず、異常な対応力を見せる鍛治師。

 相当、こう言う状況に慣れていると言うことが、あぐらをかいて動揺を見せぬ仕草からも見て取れていた。

 それに僕は快く頷き。


「そうだね工房だね……っと」

 再び青い画面を虚空に取り出し、ピピッと項目をタップ。

 そして直ぐ様最後にダブルタップ。


 ───途端、この陰気臭い洞窟が、滾る鉄流れ行く工房に早変わり。

 元々の洞窟の土地の広さを軽々しく無視した工房の広さに、少女の鍛治師は深く頷いて立ち上がる。

「……うむ」と。


 言っておくが、この工房は先程作り出した物。

 空間転移したとかじゃなく、僕達がさっき居た洞窟に作ったモノ。

 是即ち、魔法異次元空間。

 工房の広さが洞窟に合ってなく、このままでは洞窟が崩れ去って仕舞うだろう?と言う事態は、この工房自体を圧縮する事で解決している。

 けれど出口を作るための広さは必要なので、最初に洞窟の広さを確認したという訳。

 あ、出口は僕達の後方に鉄製の扉として存在しているよ。

 外から見ると、ただ鉄の扉が洞窟内に佇んでいる様にしか見えないよ。

 つまりほぼどこでもドアだよ。


 ───まあ、長ったらしい説明は済んだので次。

 鍛治師は立ち上がって背伸びしながら、その工房の空気を目一杯に吸った。


「……ぷっはぁ。───で依頼人さん、儂に何をご所望かね?うちなら改造・改装・創造まで何でもござれだ。……あ。でもそれは魔道具や武具類に限るのでそれは悪しからず」

「了解。───じゃあこの杖を頼む」

 僕は、本題の杖を鍛治師に手渡した。

 瞬間、鍛治師はその杖をじっくりと吟味した後。


「……ふぅん。こりゃ良い原石だねぇ。───で、これに何をご所望かい?」

「あー。それなんだけど──────」

 かくして、僕は鍛治師の耳元にて囁いた。

 やって欲しいプランとか、どれくらいで完成させて欲しいか、などなど。

 僕達は、二人のみで念密に会話を交わした。


 ゴニョゴニョと。

 それを聞き入れた少女は、ガレーシャだけを見て「にやり」と怪しく微笑み。


「ふむふむ。了解だー。依頼受諾した」

 杖を片手間に弄りながら、頭の内で『改造プラン』を立てつつ。


「……ふう」

 目を閉じて深く息を吐き。

 そして叫んだ。


「───じゃあこれから集中するから邪魔者はけぇったけぇった!!」

 鍛治師は手を払う。

 熱打つ工房を背に、邪魔者は要らぬと吠えながら。

 その貫禄は、もう少女のモノではない。

 かくして僕等は、そのままに追い出されていった───。



 ───これは、その直ぐ後の事。


「あの、そろそろ教えて下さい。ユトさんは何をしようと?」

 ガレーシャは聞く。

 そろそろ、疑問が解消されないことにもどかしさを感じて。

 けれど回答者に位置する僕は、単に薄ら笑いを浮かべながら。


「『サプライズ』の為だよ」

「えー。そろそろ教えてくださいよー」

 またもや先延ばしにし、疑問を有耶無耶にした。

 そうして僕等は洞窟内の鉄扉を背に、吹雪くヒイラギ王国の雪を踏んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ