───ん?何がですかっ?
───『どちらの派閥にも付くな』
先程の武器屋の主人が言った言葉……あれはどう言う意味なんだろうか。
ヒイラギ王国にて起こっている内戦が関係していそうだけれど、うーむ。
僕は吹雪を正面に浴びながら、そう思案していた。
「いやー買っちゃったね、杖。衝動買いってやつ?」
途端に、モイラは背伸びしながら呟いた。
一応極寒の吹雪を浴びているはずなのにこの振る舞い。流石結界。
「まあそうなるね」
僕は頷きながら、さっき購入した杖を一頻りに弄る。
……うん。流木にしか見えない。
でも実際業物なんだから、見た目で判断しちゃう眼って意地悪だよね。
そんな僕の横で、フェルナは訝しげに杖を覗き込んだ。
「でも、これ位の魔道具なら作れるよ。私」
そして、流石神術師様と言わんばかりの豪語を口にした。
君がそう言うと世界中の鍛治師が職を失っちゃうからやめなさい。
だが僕は首を振る。
「……いや。これだけにしか出来ないコトがあるんだよ」
「これにしか出来ない事……?うーむ。ユトさんの考える事はわからんですなぁ」
皮肉なのか、褒めているのかが分からない。
一応僕はそのフェルナの呟きに、鼻で笑って答えて受け流しておいた。
「……って、それは兎も角として。その魔道具通りに進んでいけば首都に出れるんですよね?───の割に全く見えてこないですけど」
ガレーシャは疑問を呈した。
先程武器屋の主人に渡された、火の玉のような魔道具を凝視しながら。
それでも全く目的地が見えてこない事に「遭難したんじゃないか」と言う焦りを交えていた。
僕はそれに否定ついでに。
「武器屋の主人と、その前の女の人の言う通り進めば問題ないさ。ちょっと視界を狭める吹雪だって、この魔道具が抹消してくれてるしさ」
「───でもその女の人が「沿っていけばいずれ着く」って言ってた道が雪に埋もれて全く見えないんですがそれは……?
「だからこその魔道具。この火の玉君が居る限り、ちゃんと僕等は遭難せずに済むはずさ」
「なら、良いんですが……」
ガレーシャは、僕の自信満々の言葉に納得の言葉を洩らした。
そこには、安堵の様子など全く無かったが。
……そうして、僕等は数秒ほど黙って雪の中を歩いた。
そして一同、ある事に気付く。
「歩き辛いよぉ……これ」
モイラのふとした囁きの通り、雪道が本当に歩き難いのだ。
「うむ確かに。僕の体が半身まで埋もれちゃうしね」
この特性は、豪雪地帯には必ず付いて回る。
これ正に、底なし沼と同意義の……雪の沼。
さっき言った通り僕の半身が埋まる程の降雪量。大体一メートル位は雪の層が占めているだろうか。
雪が固いものなら普通にその上を歩けるのだが、凍っておらずのフカフカの雪となるならそうは行かない。
───沈むのだ。元の固い、土の地面まで。
それはこう言った、年がら年中雪が降る地域になると更にキツくなる。
今まで降り積もって来ていた雪の層が、まだ解けきっていないみたい。
だから僕達の体の半身程は、雪に埋もれて……事実歩き難くなる。
渡された魔道具に解凍機能が付いているとは言え、それを待っていては日が暮れる。
……ふむ。これは対策せねば体力を奪われる一方だ。
雪の降雪量も場所によっては違うだろうし、場合によっては僕の体が全部雪に埋もれるだろう。
それは避けたい。僕は雪だるまなんかになりたく無い。断固拒否。マジでいや。
「───ならば。結界に追加機能を施そう」
「そうするしか……無いですね」
ガレーシャは、その場で雪を振り払いながら激しく同意した。
そんな所で、僕は誰も遭難していないかを目で確認し。
全員が揃っている事を確認した後、告げた。
「……全員いるね。なら一緒に結界弄っちゃうよ───」
僕は青い画面を虚空にて展開し、そして弄り始める。
瞬間、僕達の体周りにある……結界が淡く光りだす。
その光はいずれ全員の体をライン状に繋ぎ合わせ、この後来る命令に耳を貸していた。
そして僕は機能を追加する。
「──────『結界・機能追加【雪上歩行】』」
言葉と共に、僕の体が強く光りだす。
その光は命令と共に、ライン状の光を辿る。
そうして、一人一人の結界に入り込んだ後───。
──────もう一度強く発光し、結界に新たな機能を定着させた。
「よぅし。……っと。ちゃんと歩けるね」
僕達はそれぞれ、柔らかい雪の上を歩ける様になった事を確認した。
それには誰一人、機能追加に失敗した者は居ない。成功だ。
「じゃあ行こっか」
「そうだねー」
僕はそのまま三人を呼び、雪上を歩んでいった。
♦︎
その道中。現在山中を歩いている所。
陽は見えず、ただ寒風が顔周りを通り抜ける。
……少しばかり吹雪が強くなって来たな、と全員が感じ始めていた頃。
ただ一人僕は、良さげな『ある場所』を探していた。
その目線の動きにモイラは気付いたのか、
「……どうしたのユト。そんな血眼になっちゃって」
「いやさ。ここ山中でしょ?なら洞窟もあると思ってね───」
「洞窟、ですか?」
僕の呟きに、ガレーシャは首を傾げた。
……それもそのはずだろう。
僕達は完璧に防寒遭難対策を施している。
そんな時に洞窟に篭っても、気休めにもならないし時間の無駄にもなるだろうと。
ガレーシャ含め一同は、そう思っているのだろう。
「うん。───良い『工房』になると思ってね」
「……ああ、ユト。だからその杖を買ったんだねぇ?」
僕の言葉に、相槌込みで突然意見を変え、何かを悟るモイラ。
それにフェルナも『そうだったのね』と深く頷く……そんな中。
「……え?工房?何がですかっ?」
ただ一人、ガレーシャだけが真実を悟れぬままであった。
だが一同、その困惑顔が面白いので放置し。
「あ。見つけた」
やっとこさ見つけた洞窟に、有無を言わさず身を通すのであった───。




