ヒイラギ王国は、変わってしまった
「───第四兵器を、破壊しただって?」
僕達は驚愕した。
古代兵器を破壊したと言う、ぐう有能なガレーシャの言葉に。
「ええ、まあ……ユトさんが居なかった約一ヶ月以上の間、色々あってですね……」
ガレーシャとフェルナは、同時に顔を曇らせた。
深く聞いてはいけなさそうな雰囲気だったので、僕は驚きを隠せない迄にも納得し。
「ああ……そう。なら良いや。兎に角第四兵器が破壊出来たなら、次は第五兵器かな?」
「多分そうなんじゃない?今まで通りに行くのであれば、ですけどね」
僕の頷きに、フェルナは忠告する様に重ねた。
確かに、何事も順々に続くとは限らない。
僕はそれに深く深呼吸し。
「なら気は緩められないね。なら───近隣の村でもあったらそこで話を聞こうか。色々分かること有りそうだし」
「じゃあ行こっか!」
モイラの掛け声と共に、一行はヒイラギ王国の雪を踏む。
♦︎
そして───。
「あったね。意外と近くに。ちょっと小さめの村だけど」
数分と経たずに村発見。
モイラの言う通り、家が数軒しかないけれど……人気はある。
崖上から見下ろす様に村を見る僕は、その家一軒一軒に雪が降り積もって居ない事に気付く。
除雪されたのかな……?と思いはする。
けれど裏を返せば、そこに人が居るという証拠足り得る。
絶対凍土の辺境の地でも、ちゃんと人は居るのか。
「まあそれでも現地住民が住んでるはずだ。色々話が聞けるだろうさ」
そうして僕等は崖を降り、村の住民達へ聞き込みを始めた。
先ずは『知ること』
それが最優先目標だからね。
♦︎
そうして僕等は第一村人にして若い女性の情報提供者に尋ねた。
「最近変わった事はないか」と。
すると女性は寒冷地用の厚い服を揺らしながら、答えてくれた。
『最近変わった事……?まあ内戦中って事だけは。と言うか貴方達寒くないの?』
「いや、結界張っているので。後、ヒイラギ王国の首都って何処にあるんだい?」
『ヒイラギの首都、ねぇ……。本当にあそこ行くの?まあ行く気なら止めはしないけど……。とりあえずこの村から東に向かう道に沿えば行けるはずよ。───後、もっと情報が欲しいなら其処の武器屋さんに尋ねなさい』
その女性の仕草は、僕達を心配するものがあった。
首都に行くと何かあるのか……?
兎に角僕は笑って頷いた。
「分かった。───さようなら優しき人……」
そして僕は重要な情報を提供してくれた女性を手を振りながら見届けた。
そしてさっき女性が指差した建物へ振り向く。
そこには、暖色系の光が漏れ出る小さな一軒家が在った。
屋根に雪が降り積もって居ないのが不思議だが、除雪したんだろうか。
……にしては積もってなさ過ぎる。
まあその事は思考放棄するとして、僕はその武器屋から漏れ出るオーラに気付いた。
───これは物凄い。
お宝が眠ってるオーラを感じる。
「うむ。と言うかそこの武器屋ね……ビビッと来た。なんか凄い武器ありそう」
「私も。研究者の血が騒ぐわ!」
『勘』に左右された僕の言葉にフェルナも乗り。
瞬間、今まで吹いていた吹雪が途端に吹き荒れた。
結界を張っていると言えど視界が充分に確保できなくなった僕等は、取り敢えず避難という名目でその武器屋に入った。
♦︎
「いらっしゃい、兄ちゃん達。───ってこんな吹雪の中、そんな薄着で大丈夫だったのか?」
武器屋の扉が開くと共に飛ばされたのは、男の声。
こちらを歓迎するその声は、武器屋の主人のものだ。
テカるつるっ禿げだ。
「まあね。結界張ってるから」
兎に角僕は、その主人が投げ掛けた言葉に答える事にした。
それに主人は推理する様に僕達を目で各々見つめ。
「へぇ、結界ね……。兄ちゃん達、冒険者か?」
「そうだよ。と言うかあったかいねー。ここ」
結果、普通に正体を当てられたのでモイラが相槌を打った。
そんなモイラだが、この武器屋の暖房の効き具合に恍惚としていた。
───確かに結界の奥からでも分かる暖かさ。吹雪く外とは隔絶された、快適な空間と言う事が見て取れる。
「まあ、暖房魔法具を置いてるからな。本当に便利だぞ、動力は外の雪で賄ってるからずっと使える。本当にヒイラギの魔道具技術は凄いと思うぜ」
……へぇ。雪を材料にして動く魔法具か。
魔法文明が発達している、しかも雪国のヒイラギ王国独特の魔法具だね。
屋根の雪が無くなっていたのはその所為か。
……その技術に横のフェルナも感嘆している様だし。
「と言うか兄ちゃん、ここに来たって事は……」
「武器を買いに来たよ。凄い武器がありそうな予感がしたからね」
「おお!兄ちゃんもお目が高い。俺の店の価値を見抜くとは!どんどん見てってくれよ!」
「──────僕を少年扱いしないとは。君もお目が高いね」
「……ハ!俺の目にかかりゃ、兄ちゃん達が凄い冒険者って事が丸わかりだからよ!そもそも、俺の店に来た奴は等しく『客』だ。差別なんてしねぇさ」
その有難いコメントに僕は頷き。
(見た目で真に受けない常識人、マジで有難し)
そうして僕達は『情報収集』なんて忘れ、それぞれ武具を見ていた。
♦︎
飾られた武器・防具を一心に探る僕達。
もう情報収集なんて関係無しに、僕達はただ武器を眺めていた。
まあそれもこの武器屋に来て、真っ先に感じた事があるから。
「……凄い武具の数々。勇者とかが使っててもおかしくないよ、この剣とか」
業物があり過ぎるのだ。この武器屋は。
さっき言った通り勇者などが使っててもおかしくない聖剣とか、弓とか。
かと言えば武具だけでなく、その備品……回復薬なども最上のものが殆どだ。
日本で言えば、最上大業物の刀剣が沢山転がっている、と同じ状況だ。
だが、こんな武器を揃えているとなると……少し疑問が沸く。
「でもこんに凄い武具を沢山揃えているのに、何故首都に出ないんですか?」
ガレーシャの言う通り。
『何故もっと稼げる場所に出店しないのか』ってコトだ。
だって、この刀剣類を持って行って……そうだね。リアンの首都リリアンにでも出店したら、バカ売れ間違い無しなのに。
何故この店主はそうしないのか。
「ああ……そうだなー。───俺の商売ってのは、継続的に売るんじゃなく、一度にドカーンって高いの売るってカンジなんだ……。実際それで生きていけるし、俺自身騒がしいのは嫌いだし。しかもほら、宝石店とかそんなもんだろ?しかも最近は物流網がこれまで以上に活性化してるお陰で、そんな伝説級の武器が仕入れられてるって訳だ!知る人ぞ知る名店だぞ、うちは」
「確かに。こんな辺境でも輝く店はあるもんね」
まあ、それで主人が満足してるなら良いけど。
実際僕も、隠れた名店ってやつが好みだからね。
「そうだな。……って思ったんだが、兄ちゃんそんなに女に囲まれて。羨ましいねぇ……」
だが、語り尽くして燃焼したのか……主人は今の僕の状況を鼻で笑った。
こんなオタクが大好きそうなハーレムを笑っているのか?
───は。笑止千万。
「逆だ。ハーレムは、嫌いだよ───っとこの杖……」
華麗に僕は皮肉を受け流しつつも、ある一つの杖に視線を送った。
武器屋の部屋の端っこにちんまりと飾られた、ちょっと埃かぶった杖の魔道具だ。
湖にでも流れてそうなただの流木に、一見は見えるが。
それでも隠しきれぬ神聖なオーラに、僕の手は吸い寄せられた。
僕はそれを気付けば手にとっており、埃を取っていた。
そして、途端にカウンター奥の主人がはしゃぎ。
「……ん!それに目を付けるとはこれまたお目が高い!それはな───約一億年前に採掘されたモノなんだよ。アーティファクト。若しくは古代魔法具ってモンだな。実際その杖を丸々形作ってる木材自体、元々は杖になり得ないただの木材なんだが……一億年経って丸々化石になったお陰で、魔道具として変化してる。そしてな───」
「───そん中に『聖龍の心臓』ってモンが埋め込まれてる。そのお陰で杖は伝説級の代物になってるって訳さ!」
その興味深過ぎる説明の後、フェルナが突然盛り上がり。
「研究したい!」
「ダメです」
「え〜」
このガレーシャとフェルナの会話。
何時もの、というヤツである。
───まあそれは置いておいて。
僕はその杖を目で探りながら、その主人の説明に問いを投げかける。
「聖龍の心臓、一億年前か……これより前の年代のモノは無いのかい?」
「うーむ。俺の知る限りでは無いな───いや、知る限りじゃなく。全く流通しないんだ。だから大体のアーティファクトは、一億年より少し前のモノが殆どだ。地質学やら、考古学が発展してない所為だと言われてるが……まあ俺には関係ない」
「───だがその杖は、俺が見た中で一番最古のモノだ。使いこなせれば、それこそ世界のテッペンを取れるだろうよ」
購入を促す様な説明に、僕は流れる様に杖を凝視し。
数秒ほど悩み。
『これはある事に使えるな』と悟り、こう言う。
「ふーむ。───買った」
「……よしきた!」
途端、元気になる主人。
僕はそんな主人が居座るカウンターに歩み寄り、杖を置く。
「代金は?」
「金貨五百枚、五百万リッテだな!」
「……リッテ?」
何それ。初耳なんですが。
金貨は分かるけど。その未知なる単位何?
そう「……ん?」と僕が思っていると。
主人は目を細めながら告げた。
「なんだ兄ちゃん、この通貨知らないのか?……確かに、冒険者って色々な国渡り歩くから、知らないこともあるか……なら簡単に説明しよう」
「───金貨一枚が一万リッテ。銀貨一枚が百リッテ。銅貨一枚が一リッテだ。───だが、兄ちゃんが知らない通り、これはリアンと繋がりが深い国しか使えなくて世界共通じゃないからな……うちは換金もやってるが、金を入れるマジックポケット、持ってるか?」
「ああ、うん、まあ……。───あ。でも武器屋さん、鑑定とかって出来る?」
「ああ、出来るぜ」
「なら───」
僕は颯爽と『ある事』をする為、見られないように後ろへ手を回し。
そして『あるもの』を、自身の貯蔵から取り出し。
「これ、鑑定頼むよ」
袋に包まれた『あるもの』を、カウンターに置いた。
ジャリジャリ。ゴトン。
何か小さな物が転がる音と、何か重いものが置かれた音。
それらが二重に鳴り、怪しさを醸し出す。
その袋に包まれた何かに、主人は恐る恐る袋を開け。
「む。どれどれ───ってはァ!?金銀財宝の数々じゃねぇか!」
そして驚愕した。
……それもその筈。
その袋に入って居たのは、金の延べ棒やらダイヤやら。
様々な宝石と金銀財宝に、主人は本気で目を丸くしていた。
それに、僕は笑い。
「これで足りるかい?」
「足りる!足りるまくるさァ!!寧ろお釣りがたんまりでるぜ!?」
じゅるり、と舌なめずりする店主。
呂律もおかしくなっているが。兎も角。
「いや、お釣りは要らない。これで買えるならそれでいいさ。───じゃあね」
会計を済ませた僕は、杖を持ちそのまま踵を返し───。
「おいおいおいちょっと待て!!!」
「何だい?在庫処理したいしさっきお釣りは要らないって……」
店主は小刻みに顔を横に振る。
「そう言う事じゃない!兄ちゃん達、首都に行くんだろ?」
「うん。まあそうだけど」
「なら一つ忠告だ───」
主人は、最後には顔を強張らせていた。
僕達の身を案じる様に。さっき会った女性と同じ様に。
「──────『どちらの派閥にも付くな』首都までの案内用の魔道具を貸してやるから、兎に角それは遵守しろ。厄介ごとに巻き込まれたくなかったらな」
主人は、手の内から赤い火の玉の様な魔道具を取り出し、僕達を見詰めた。
その顔には、かなり本気の形相が灯っていた。
さっきまで金銀財宝に舌なめずりしていた主人とは、かなり豹変していた。
それだけ重要な事なんだろう。
それに、僕は渡された魔道具を受け取りながら。
「……?うん、まあ分かったよ」
困惑と共に、武器屋の扉を閉じた。
もう、その雰囲気の残り香に『情報収集』なんて単語の一端すら無かった。
かくして店主はカウンター奥の椅子に深く座り込み、溜息を吐いた。
「……はあ。ダイヤランクのお嬢ちゃんが居たから良かったものの。最近のヒイラギはきな臭くて叶わねぇ。だから俺はこんな辺境で武器を売るんだ───」
「───本当『ストロブ・ラザー物語』のヒイラギはどこ行ったんだか」
この、ガレーシャ達の第四兵器破壊までの物語は、後で番外編として執筆致します。
あ。後セリアが何していたかなどのの番外編も、ですね。
本当にセリアって、影が薄い……。
でも、でもですね……。
恐らく第5章にて登場の機会をたんまり与えるので、バンジオッケーです。
あ。出来れば豪華なるご評価を。
……以上、作者の戯言でした。




