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バットエンドを、防ぐ為に。

 

 消えた悪役達。

 悶絶する兵士を置き土産に、彼女らは消え去った。

 何処へ行ったのかも分からない。

 追跡も、確実に不可能と断言できる。

 奴らは、この城を残して逃げ去った。


 ───いや『逃げた』なんて表現は些か納得が行かない。

 言うなれば『三十六計逃げるに如かず』をされた気分。

 これまでの物語に勝ち負けを持ち込む方が可笑しいが、それでもモヤモヤが残る。


 ロベリアはどこまでを知っていたのか。

 ロベリアはどうして僕達へ向かって笑いかけたのか。

 まあそれも『気分』で片付けてくるのがあのオカマだ。聞く方が不粋なのだろう。

 でも取り敢えず───兵器は破壊出来た。これは成果だ。


 でも依然疑問が抜けきらないので僕はモイラやアーサー、ユークリッド一行を見詰めた。

 これで終わり?と聞くかの様に。

 残され、静寂が訪れた空気感を味わいながら。


 ♦︎


『またゼロからのスタートですね』と、影は皮肉交じりに呟いた。

 それに、ロベリアは笑った。『そうね』と。


 ミラージュが転移した場所は、原っぱが風で揺らめく大草原のど真ん中だった。

 何故こんな所を指定したのかが理解できないが、ロベリアは聞かないことにした。それ以上に、思うべき所があるから。


(取り敢えず、臣下達を連れて逃げられたのが大収穫ね)

 ロベリアは、今まで身につけていた豪勢な衣服を脱ぎ捨て、黒服とマフラー姿になりながら、そう安堵していた。

 これで『地下闘技場の管理者(フィクサー)』としての自分は死んだ、と自分を戒める様に。

 見直してみれば、自分は直せる過ちを犯したのだなと、ロベリアは柄にも無く自身を嘲笑っていた。

 それを横に、シュリーレンは何時もの鉄面皮で呟いた。


「リアン王国国王からの手配状───あれ、酷い」

 その悔いる様な臣下の言葉に、ロベリアは「あはは」と笑い。

 困惑を示す臣下三人を前に、ロベリアは言った。


「……あれ、偽物よ。よくよく考えてみれば、アゼリアには国王に繋がる様な人脈、無いものネ」

 ロベリアは見抜いていた。あの手配書が偽造だと言う事を。

 それに、


「そうなの?」

 そう可愛く首を傾げるフォークト。

 その頭を、ロベリアは薄ら笑いを浮かべながら撫で。


「そうなの。───兎に角『ご主人様』に伝えなきゃね。ワタクシの失脚を」

 その目は、少しばかり何かに恐怖を抱いた様なモノが在った……。


 ♦︎


「──────で。何故ユークリッドがアゼリアと言う子と?」

 事態がほぼ沈静化した所で、僕はユークリッドに向けて尋問していた。

 ここだけ見れば結構なメンヘラ具合だと僕も思うが。

 それでも、色々と知ることは大事なのだ。


「魔法学校からの古い知り合いでな。慈善事業みたいなものだったのだ、(はな)からこの潜入は」

 ふーん。と頷く僕達。

 先程までしっかりとした理由を告げず姿を消していた所に若干の疑問があるが、まあ納得しておこう。

 そして、その後ろで「有難う御座います、トルン。偽造手配書作ってくれて」と偽造書を男へ受け渡しているアゼリア。

 ……最早隠す気ゼロだな。ほぼ犯罪なのに。

 と、話を終えて寄ってきたアゼリアに、剣聖のアーサーは口を開き。


「偽造手配書って、案外犯罪じゃないのか?アゼリア」

 と、友人の様に疑問を呈す。

 それにモイラは勿論反応し、


「……ン?アーサー君この人と知り合いなの?」

「ああ、まあな」

 アーサー君はその質問に頷いた。

 そして、そこにアゼリアは入り込み。


「その経緯はですね───っと、兵達の治療が完了した様です。ここじゃ何です、気分転換がてら外で話しましょう」

 陰気で暗い書斎からを逃げるが如く、アゼリアは僕らをせっせと外へ促した。

 ……確かにロベリアが居なくなった今、地下闘技場の所有者はアゼリアになった。

 色々ときな臭い地下闘技場の整理の為、僕達に退出を促すのは合理。

 なので僕達はそのままにアゼリアの背に付いて行くことにした。

 ……陰気な地下闘技場に居るのも、ちょっと苦痛だしね。


 ♦︎


 先程まで悶絶していた兵達は通常運転に戻り、本来の業務へ戻って行った。

 それもまあ、地上闘技場の警備に、だが。

 その間に、僕は一つだけ質問した。

「アーサー君と知り合った経緯は?」と。

 帰ってきたのは「ユークリッドからの紹介ですよ。一緒に育った身で」と言う真っ当な答えだった。

 いやまあ、それ以上を期待するのも不粋だったけれど。

 ともかく、衛兵要らず水入らずの話が出来る様になった僕等は、色々と質問を投げかける。


「……で、偽造書の件だが。あれ法に触れないのか?後聞くが国との繋がりとかは今も無いよな?」

 まずはアーサー君が。


「バレなきゃ犯罪じゃ無いんですよ。トルンさんも口が固いですし。───後、依然に闘技場と国との繋がりは殆どありません。土地を奪われない程度に小銭位のお金を収めている程度ですからね」

 まあ、前半は少しばかり反応に困ったが……後半の事は理解した。


「ふむふむ。国との繋がりがなくて手配書を作れなかったから偽造した、ってコトね」

「……裏を返せばそうですね。───ですが、この事態は私自身が収めたかったのです」

「ああ。ロベリアは君の部下だったらしいもんね」

「……そうです。だからこそ私は自分なりの『正義』の為にロベリアを滅しようとしました……逃げられちゃいましたけどね」

 アゼリアは笑った。

 白髪を揺らして、それでも万事オッケーの様な顔付きをして。

 モイラは、その笑顔に笑いを重ねた。


「でもロベリアさんが地下闘技場を捨て去ったから大丈夫だよ、アゼリアさん!」

「確かにモイラの言う通りだ。万事オッケーでいいんじゃ無いかね?」

 そこにユークリッドも入り、場は和やかに。


「そうですね。───後、ユトさんでしたっけ?」

「そうだけど、どうしたのかな?」

「……いや。あのロベリアを正面から追い詰める人なんて居るんだな、って思いまして」

「過剰評価だよ。僕はやるべき事をやっただけさ」

「ですが貴方は凄い人です。銀下位ランクになぞ留めて置けぬ位の。まるで……『神童』ですね。───あ。もうそろ私はここで」

 アゼリアは、時を思い出した様に踵を返した。


 僕はその背中に微笑んだ。

 凛々しく、それでいてお淑やか。そして気品深い、その健気な姿に。

 これから彼女は、(ロベリア)が居なくなった闘技場を運営して行くのだろう。


 でも僕はその姿を見届けられない。

 けれどその行く末が良いものだと、影ながらに祈っておこう。

 と、そんな風に別れを惜しんでいた所に。

 彼女は突然立ち止まり、振り返り───。

 闘技場の入り口を背に、僕達へ笑った。


「あ、今後とも───スパティフィラム闘技場を宜しくお願いしますね!」

 その笑顔には、もう穢れなき未来が視えた。

 ……未来視を使う必要すら無い。

 君の未来には、華が視えるさ。


 僕は、去りゆく『アゼリア』と言う闘技場の主人の背中を、救済者として見届ける事にした───。

 ……そもそも闘技場ってそんな名前あったんだ。


 ♦︎


 それから少し後。

 もう既に僕達が新たなる目的地『ヒイラギ王国』へと向かおうとしていた、その時。

 モイラとアーサー君を転送用魔法陣展開の為に送り出した直ぐ後。

 ユークリッドと僕で二人っきりの時に、僕は彼女に告げた。

 別れを惜しむ序でに、無理難題を言ってみる事に決めた。


「ユークリッド。用があるんだけど」

「なにかね、用とは」

「うん、それについてなんだけど──────」

 ごにょごにょ。

 伝え切った後、彼女は健気に笑い。


「──────任せろ。リリアンのギルドマスターを舐めるなよ!」

「……頼もしいね」


 ───かくして、波乱の第三兵器破壊までの物語は終わった。

 そして、次はヒイラギ王国。

 悪役であるはずのロベリアに最後に言われた、探すべき場所。


 確か、ヒイラギ王国にも古代兵器の反応があった筈。

 あのクソカマの意図が『古代兵器が在る場所』と言うのなら。

 僕は、二つ返事で世界を駆けよう。

 全ては───『世界救済』の為に。


 絶対凍土の地にて、兵器があるのなら。

 僕は、それをことごとく破壊してせしめよう。


 ──────全ては、バットエンドを防ぐ為に。

あ〜終わりました第三章!(正確にはまだ終わってませんが。

兎に角、形式状では第3章はこれで終了です。疲れた。

本当に疲れました。主に設定とか設定とか。

でもまあ、楽しいので執筆できています。

あ、出来れば絢爛なる御評価を。


……以上、作者の戯言でした。



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