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地上闘技場管理者

 

「私はアゼリア・スパティフィラム。そこの御人方には───『地上闘技場の管理者』と言えば分かりやすいでしょうか」

 女性は微笑む。

 ロベリアを一瞥し、僕らを見ながら。

 その艶やかな白髪を揺らし、アゼリアと名乗る女性は蒼眼で僕らを見回した。


(闘技場の、もう一人の管理者か……)

 僕はそう、心の中で呟いた。

 和やかで、御淑やかさを感じさせるアゼリアの言葉の裏で。

 恐らく彼女が兵達を率いた指揮官。

 ならば僕らの敵では無い、と警戒していた心を解きながら。


 でも、些か油断が過ぎる。

 彼女自身は鎧を着てすらいない。あくまで私服姿だ。

 ───ああ。だが……その油断にも近い隙も、横の傍若無人そうな奴が付いているからか。

 その、母こそは。


「それにユークリッドさんも!?なんでここに!?」

 そう、アゼリアの横には平然と佇む……ガレーシャの実の母、ユークリッドがいたのだ。

 モイラの言う通り、ね。

 でも……異常な展開もここまで来たら必然か。

 景品受け取りの際にも出てこないと思っていたら───なんで君がそっちに居るんだか。

 アゼリアと友人パターンか、これ。

 ユークリッドの軽い頷きと共に、ロベリアは嫌味の様に溜息を吐き。


「……ほんっとに、なんでここにアンタが居るのォ?」

 そのロベリアの言葉には同意だ。


「確かに。君の言葉に便乗したくは無いけど───何故ユークリッドと地上の管理者が?」

 それに、アゼリアは軽く頷き。


「───では、少し───逮捕前の一興にお話を致しましょう」

 アゼリアは横の「良いのか」と呟くユークリッドに「良いんですよ、彼らが望むのなら」と笑い、気にせず話に移った。

 ……確かにこれまでの君達の経緯、僕ちょっと気になる。気になりますとも。

 そうして、僕達は遮ることもなくアゼリアの話を静聴する事になった。



 ──────ロベリア逮捕前の一興。

 溢れんばかりの慈愛と上品さを振りまく指揮官の言葉は、何処か可憐さすら感じられた。

 かくして、ロベリア陣営の臣下達は、休息と思い話を聞くことにした。

 軽い与太話程度にと、彼女らは聞き流すつもりで居たが……。

 彼女が時折見せる、ロベリアへの睨むような視線の所為で彼女らは緊張を余儀なくされた。

 そうしてアゼリアはロベリアを見つめ、こう告げた。


「私は貴方から地下闘技場を奪われました。───以前、従業員であった筈の貴方にね」

 その、ロベリアのみに訴えかけるかの様なアゼリアの視線にオカマは抵抗なのか鼻で嘲笑し「……ふん。足を(すく)われるアンタの方が悪いのよ」と煽り気味に返した。

 だが無視してアゼリアは表情を緩めず。


「ですがこの闘技場は、私が父から譲り受けたもの。ここまで育て来たのも私です───だから私は取り返す必要があった。貴方が闘技場という神聖な場を汚していると知って、私は特に憤慨しましたよ」

 そこで、アゼリアの雰囲気が若干強張り。


「───ですが、どれだけ貴方を追い出そうとも失脚させようとも……ロベリア。貴方は力を強め、闘技場を汚す一方だった」

「……だって貴方の送る調査兵達って言えば、身分を隠す事も無くて人数も多過ぎる一方だったもの。排斥するのは簡単過ぎたわ」

 ロベリア、アゼリアの言葉にフィクサーの一面を見せ付けて強者感を出す。

 それにアゼリアは静かに微笑を浮かべ。


「だからこそ私は友人であり、貴方の様に裏切る事もない、ユークリッド一人を【ロベリアス】へ単騎潜入させたのです」

「……それも見抜いてたケドネ。後───ワタクシが聞いてるのはそんな戯言じゃ無いわよ」

 だがこれもロベリアはまたもや煽り気味に切り返す。

 そしてアゼリアはそれに澄まし顔で笑う……と見せかけ。


 ───え?と。

 一瞬効いたのかアゼリアは顔を(ひそ)め。

 背を向けて何やらユークリッドとゴニョゴニョ話し込んだ後。


 コホン、と。

 少し咳き込み、話を続ける。


 ……大分怪しかったが。

 けれど、けれども。

 それでもアゼリア殿の作戦はそれで終わりはしなかった様だから安心出来る。

 と言うか、ユークリッドが言っていた『依頼人』とはアゼリアの事だったのか。

 ……随分とうっかりやさんの様だが。


「でも、貴方が見せた唯一の隙、いや───傲慢が在ったんですよ」

「……は?」

 ロベリアは首を傾げ、アゼリアを鬼の形相で睨んだ。

 見下していた相手に見くびられる様に言われてイラついたのか。

 それでも、アゼリアは眼光を糧にして微笑んだ。


「───警備兵大量消失。一晩にして突然、貴方専属の屈強な兵士が最低限の兵力を残して消えたんですよ」

 その言葉に、ロベリアは一瞬戸惑った後に顔を俯かせ。

 あれか……と苦悶の表情を浮かべた。

 そう───あれはフォークトが第五ブロックの覇者になった頃か。


『兵をたんまりと送ってやりなさい』と。

 ロベリアは、ミラージュの報告に対してそう命令した。

 直接知りはせぬが、同じ『主人を持つ身』として何者かに送った援軍。

 その数、元のロベリアが有する兵の約八割。


 その時はユークリッドなど目でも無いと思い、言った事であったが───。

 あれが、深い墓穴だったとは。

 ロベリアは、自分で掘ってしまった過ち───傲慢に気付いた。


 傲慢。

 確かに、ロベリアはそんな節があった。

 加えその狂気の故、僕達にしか目が行かなかったんだろう。

 だからこうして、兵達に切っ先を向けられている。

 自身が奪った地下闘技場から、排斥されようとしている。

 自分の、眼中にも入れていなかった者によって。


「幸運でしたよ。何故貴方がそうしたのかは分かりませんでしたが……それは致命的なミスだった。だからこうして貴方は追い詰められている───他でも無い、私に」

 ロベリアは更に苦悶の表情を零した。


「ロベリア様……」

 その主人の変化に、三人の部下達は寄り添おうとしたが。


「……ッ!!」

 兵達の切っ先は、今もジリジリと彼女らの首筋に近寄っていく。

 ───そんな所で、アゼリアはこれでもかと追い討ちを掛けた。

 彼女は懐からある一つの紙を取り出し。


「ロベリア!貴方にリアン王国ウェステッド国王直筆の逮捕状が出ています!観念なさい!」

 突きつけた。


 それは、一人の人間に引導を渡すのにふさわしき、トドメの一手であった……。


アゼリアって、ロベリアと語呂が似過ぎていません……?

まあ、そう言った所はぼちぼち後で改名やらなんやらするとして。

もう第3章も佳境ですよ。早いもんですね。

毎日二本投稿とかしてると本当に一瞬ですね。

その代わり本数がえらいこっちゃになっていますが。

あ、出来れば流水の如きご評価を。


……以上、作者の戯言でした。


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