第三兵器【虎】───破壊。
薄暗い書斎に光る、淡い金色の光。
本棚が開かれたと同時に放たれた光は妙に神々しさを放っていた。
それと同時に、豪快さと幽寂さを感じさせられた。
───光の奥にて、僕は見た。
十畳にも満たぬ、小さな部屋の中に佇むモノを。
台座の上にて静かに浮遊する、小さき影を。
人では無い。
あれは……虎だ。
大草原にて覇者と謳う、最強の生命体。
けれどその佇まいには冷静さと高潔さを感じさせる、時には人を喰らい襲う動物。
その面持ちは人間に広く知れ渡り、一頻りに恐怖された───怪物。
その『虎』を形作る兵器の気概は、掌に乗る大きさといえど威厳を失わず。
正に生態系の頂点を司るに相応しき『兵器』
動かなくても、それでも活気に溢れる───第三の位を与えられた兵器。
もしこれが暴れていたなら、街一つ一刻にして軽く吹き飛ぶであろう。
だからこそ、無力化されていて良かった。
「これが第三兵器【虎】───これはもう貴方達のモノ。煮るなり焼くなり好き勝手になさい」
ロベリアは諦めた様に、静かに僕のみへ語り掛けた。
それに僕は「ああ」と頷き。
そのまま歩を進め、第三兵器を手に取った。
……抵抗も無しか。二つの意味で。
やはり完全に機能を停止している様だ。古代兵器は。
けれどその黄金の光は失われず───兵器と言えど感服するよ。
僕は掌で、第三兵器を弄ってみた。
されども異変無し。これなら直ぐに破壊できる。
と、思った時に。
「……これで、無事に兵器は貴方の手に渡っちゃったって訳ネ。───完敗よ」
ロベリアは今まで見せたことの無い様な微笑を浮かべ、僕の目を覗き込んで来た。
そこに今までの狂気は無く、ただ勝利者へメダルを送る主催者の面持ちが、そこには在った。
でも僕はその隙を、取って食おうなんて考えはもう無い。
だから。
「……そ。もう終わったから関係無いさ」
僕はロベリアと、その部下三名……そしてアーサー君とモイラを順々に眺めた。
そこに、以前ロベリアに抱いた殺意は無い。
その答えにロベリアは疑念を抱き、
「───ワタクシ達を殺さないの?貴方には、それだけの動機があるはず───」
「愚問だね、君ともあろう者が」
けれど僕は遮り、分かりきった様な笑みを浮かべた。
それにロベリアは口角を上げ、笑った。
くつくつと。
「……フフ。本当に貴方の『正義』は狂ってるワ」
「そうかな?」
「───そうよ。だって……障害を取り除い続け、でもそれに値しない物があったら無視する、なんてモノは狂ってるわ」
「その代表例がワタクシ達よ。生きていたら確実に社会の闇足り得るワタクシ達を『障害じゃ無くなったから殺さない』なんて事感情捨てて言えるなんて、狂ってなきゃありえないもの」
的を射たロベリアの発言に僕は否定もせずただ頷き、笑い返した。
「ハ。僕が守るのは人理・世界であって社会じゃ無いのさ。そこに自由意思はない。かと言って君の様な悪を僕が絶対的に見逃す訳じゃ無い。即ち是れの理由は───」
『君達にはもう興味が無くなった。僕をまた貶めたければ掛かって来い、って事を指す』
少年は笑う。
凡ゆる世界、幾千と死んでいった世界を見届けて来た、放浪者として。
誰にも予測できぬ、超常の力を有する神童───救済者として。
その笑いの真意は誰にも見透かせぬ。
故にこそ彼を真に貶められる輩も居ない。
──────海千山千の『狂った正義』として、少年は皮肉を告げる。
「やってみろ、できないけれどな」と。
それに、悪として狂気は嗤った。
「ハハハ。出来るだけ頑張ってみるワ☆ユト・フトゥールムちゃん♡」
神童に完全敗北した悪として。
その顔付きには『自身の主人』に仕える臣としてで無く、少年の『悪友』として告げるモノが在った。
「それじゃあま。古代兵器破壊しちゃお!ユト!」
そこにモイラの声も加わり。
「はいはい……じゃあ」
破壊事にしよう。第三兵器を。
悪友からの贈り物を、壊すとしよう。
「壊そう」
僕は手を構え力を滾らせ、振った。
パリン。
───溢れ出る金色の光と共に、第三兵器は両断された。完全に。
と、同時に。
「──────地下闘技場、及び裏闘技場管理者ロベリアよ!貴殿を捕らえる!!!」
激しい怒号と大量の兵士と共に、書斎は緊張で溢れかえった。
(……誰だ、この子ら)
僕は困惑する。




