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暗がりで、とんだ来訪者

 

 モイラは死んだ。

 けれど、今目の前で生きている。

 飛んで、はしゃいでいる。


 ……分かりやすい矛盾。非現実だ。

 直人には理解できぬ超常だろう。


 ───何故、モイラは生きているのか。

 それは僕が彼女の死と再生を視たから。

 だから彼女は生きている。

 一度死んでも、それでも無理やり生き返らせた。


 でも僕は元々、こんな事したくなかった。

 ───だが、これは彼女自身の願いだった。

『私を一度殺して』と。


 ──────やりたくなかった。

『仲間』を、最後には生き返らせるとは言え、僕の手で殺すなんて。

 それをするくらいなら僕は───迷わず自害する。

 仲間を犠牲にした勝利を謳いたくは無い。ましてや願いたくも無い。

 それが『仮初め』の死だとしても。

 僕の目の前で二度も───仲間が死ぬのを見たくない。


 でもやるしか無かった。

 それが彼女自身の願いだったから。

「やらなければしばく」と、逆に言われてしまったから。

 だから僕は、その脅迫を受けた。

 渋々と。

 もう二度とやらないと。そう決めて。


「はっははー!ユトが決勝進出だーい!!」

 ───今はこうだ。

 モイラは異常に喜び、暖かい笑顔を周囲に振りまいている。

 まあ、ここは僕達に用意された自室だけれど。

 部屋に居るのは、僕とアーサー君、そして馬鹿(モイラ)しか居ない。

 下手したら騒音被害が出ていそうな騒ぎの真っ最中。

 そしてここにユークリッドは居ない。


 絶縁したとかじゃなく。

 諸々の事情を説明したら安堵して何処かへ行ったよ。彼女は。

 モイラはそんなユークリッドを引き止めようとしたけれど、余裕で断られた。かわいそー。


 ───まあ兎に角、何事も無かったから良いと……僕は僕で折り合いを付ける事にしよう。

 でも次には決戦だ。

 そう。あの特殊転生者フォークトとの戦いが控えてる。


(はぁ……心労が絶えないよ)

 僕はうっすら溜息を吐き、静かに勝利の余韻に浸った。

 ガレーシャが居たら色々と和むだろうな───と幻想を抱きながら。


 ♦︎


 サキュバスは歩む。

 右手に、自身でこしらえたナイフを携えながら。

 廊下を歩む。


 寝静まった廊下には、淡くランタンの光だけが揺らぐ。

 ここはファイター用の宿泊宿。

 ホテルの様に部屋と部屋が通路に並び、連なっている。

 その通路をサキュバス───シュリーレンは歩んでいる。


 その面持ちには「泊まりに来た」などと察せぬ決意の感情が灯っていた。

 殺意と使命感を抱いた様な彼女は、闇に紛れて通路を歩み続ける。

 目標は、ある一つの部屋。

 そこには、大会の決勝にまで勝ち進んだ栄光あるファイターが居る。


 そう───居るはずなのだ。

 だからこそシュリーレンは往く。

 死んでも良い、とナイフを握り締めながら。

 姑息な手なのは理解している、けれど。


 彼女は主人の為なら───なんでもやれる。

 主人の安寧の為なら、彼女は喜んで手を赤に染める。

 それが彼女なりの忠節だから。


 そして彼女は止まる。

 目標の部屋へ着いたのだ。


 シュリーレンは目を尖らせ、ナイフに決意を滾らせる。

 ゴクリ、と固唾を飲み込み。


「ここが、目標ユト・フトゥールムの宿泊室。───成敗」

 小さく、風にすら攫われそうな声でシュリーレンは消え入る様に呟いた。

 そして、流れる様に鍵を開ける。

 静かに。


 ───かちゃり。

 解錠成功。

 ロベリアの部下権限で合鍵を作って貰って良かった、とシュリーレンは安堵しつつ。

 死を覚悟し、そのドアノブに手を掛け。

 そのまま開け──────。


「やめなさい」

「───!!?」

 止められた。

 大きくも暖かい、懐かしい様な手と共に。

 咄嗟に、シュリーレンは髪を揺らして振り向いた。


 ───聞いたことがある声だった。

 もしかして、と。


「ロベリア様……ッ!」

 豪華な服装。

 テラテラと光る厚化粧。

 自身を上回る高身長に、尖る目付き。


 間違いない。

 暗がりでも判別出来る───完全にご主人様(ロベリア)だ。

 気付けばシュリーレンは、手に持っていたナイフを落としていた。

 この驚き具合も中々の物だが、これにはちゃんと理由がある。


 この、夜這いに近い暗殺は……ロベリアに報せずの決行だったのだ。

 故にシュリーレンは声を失った。

 何故知っているのか。

 何故止めるのか。

 色々な疑問が錯誤する中、ロベリアは静かに落ちたナイフを拾い。


「帰るわよ。シュリーレン。たっぷりお説教してあげる」

 そのままシュリーレンの手を引っ張り、部屋の扉へ踵を返した。


「え……はい……」

 それにシュリーレンは黙って手を引かれるしか無かった。


 作戦がバレてしまったのだ。

 今更殺そうとしたって無駄だと、彼女なりに悟ったのだろう。

 思い詰める様に俯くシュリーレンを背に、ロベリアは安堵する様にこう思った。


(ま。あのまま扉開けてたらお熱い歓迎が飛んで来るからねー)

 ロベリアは気付いていた。

 扉の奥に、二人の戦士が刃を携え待ち構えていたことを。


「───ふ。止められたか。そのまま開いてたら問答無用で正当防衛してた所なんだけど」

 部屋の中の暗がりで少年は刀を下げ、呟いた。


「脅威は去った様だし。暗いし───アーサー君を起こさない様に私達も休もうか」

 それに創造神は白刃を光らせ、静かにランタンの光を消した。


「───そうしようか。……はあ。とんだ来訪者だった」

 そして、空いた錠は再び締められる。

 暗がりに沈む悪と正義は、接触せずに歯車を回していく───。

シュリーレンの存在感が薄かったので登場させました。

なんか今回でより一層、ロベリアのキャラが引き立った様な気がします。

だって主人のために命すら捨てられるって物凄い忠臣じゃないですか。


……以上、作者の戯言でした。

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