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生きろ

 

「やりましたね。ロベリア様───貴方様の策によって、一角が落ちました。素晴らしい手腕です」

 影を纏いしミラージュは、そう告げる。

 観客はほぼ全て立ち退き、アリーナにて倒れたモイラの死体諸々を処理したのを確認して。

 中継用の画面には、平然と大草原を後にするユトの姿がちらりと映っていた。

 そのままユトは空間に作られた裂け目に身を通し、その場から消えた。

 残ったのは、地面に残る大量の血の跡のみ。


 ユトは勝利したのだ。

 ロベリアの盤上にて踊り、その手を赤く染めて。

 だが結果的には、ユトは空間から脱出出来た。

 ……モイラを犠牲にして。


 そう、影の言う通り───ユトはロベリアの術中にはまった。

 仲間をその手で殺し、次のステージへと繰り上がったと。

 なんたる無様。

 ロベリアへあれだけ敵対視していたユトが、その敵を倒すために味方を殺めるとは。

 それを横にいた影、ミラージュは心中でその出来事を嗤う様に、ロベリアへ相槌を求めた。

 けれど。


「……やられた」

 ロベリアは裏腹に、苦虫を噛み潰すかの如き舌打ちを返した。

 その機微に気付いたのは、影とはロベリアを挟んで逆の所に控えるサキュバスだ。

 シュリーレンと呼ばれる彼女は、恐れながらも理由を聞いてみた。


「どう、したの……ですか?」

 その声に、ロベリアは鬼の如き形相で、画面の奥に散乱する血の跡を睨みながら。

 こう問うた。


「───ミラージュ。死体処理班に確認して。『モイラ・クロスティーの遺体は確かに残っているか』と」

 その突然なる返しに、ミラージュは動揺を示すが。


「え……はい。分かりました」

 すぐに了承し、控えの影に調べさせた───所。


「担架で死体を運び、大草原のアリーナを抜けた後、創造神モイラの遺体は───」


「『確かに消えてしまった』らしいです。───ですが、死亡は確認されていたので問題無いかと───」

 だが、その答えにロベリアは全く賛同せず。

 それどころか今まで帯びていなかった気迫を以って、部下達を恫喝した。


「……何言ってるの?それが充分な証拠じゃない」

 含みのある言い回しに、サキュバスのシュリーレンは疑念を抱き、


「どう言う、こと……?」

 聞いた。

 そして帰ってきたのは、むっとしたロベリアからの睨む視線だった。

 ロベリアはシュリーレンと一瞬目を合わせたが、直ぐに切っ先を避けるかの如く目を逸らした。


 その目はいつもの狂気は無くなっていた。

 いつもと違うその『目』は、何処か嫉妬深い物が在った。

 続け、ロベリアは説教する様に口を開け。

 ───そして、事実を告げた。


「いい?あんた達。創造神モイラ・クロスティーは───」


「──────『生きている』」

 それは、予想もしなかった言葉だった。


 ♦︎


「『生きている』ってどう言う事ですか!?創造神は死んだ筈ですよ!?」

 影は、理解できぬ暴露に困惑を示した。


 ……確かに、彼女の言う通り、な筈なのは間違いない。

 創造神モイラ・クロスティーは死んだ。

 死体処理班に死亡確認も取った。

 脈は既に途絶えていた。

 出血の量も致死量を上回っていた。


 ───だが目前の、自身の敬う絶対的存在がそれを『否』と断言する。


「……例え出来たとしても現実ごと改変して───ってまさか」

 だが、ミラージュは何かに気付いた様に目を見開いた。


「───やっと、理解した様ね」

 ロベリアは溜息を吐いた。

 死を偽装されていた事に対してか、部下が今までそれに気付いていなかったからか。

 その真意は分からない。

 ……が、ロベリアは同時に、何かを認める様に相槌を打った。

 そしてミラージュは思い出しながら、こう告げる。


「──────未来視。視さえすれば万象を叶えるチカラ。それなら……死人を生き返らせる事だって可能……」

 有り得ない話だ。

 けれど、ミラージュは知っていた。

 あの少年の計り知れなさを。

 同時に、少年の仲間想いの強さも。


 勇者邸に忍び込んだ時もそうだった。

 あの時の少年は、単身で未知の敵であろう自分に接触しに来た。

 そして、一瞬で自分を……殺した。


 あの時確信した。

 少年は固い仲間想いの精神があり───同時に。

 尋常じゃないチカラを有している、と。


 でも……でも。

 だからこそミラージュは少年に、そのどちらかを切り捨てなければならない試練を課した。

 けれどその両方を失わずに済む方法があるなんて───。



「───よ、ユト!」

 モイラは出迎える。

 アリーナから去ったユトを、一人元気に。

 さっきまで死んでいたと思えぬくらい、絢爛(けんらん)な姿で。


「久しぶり、モイラ」

 対しユトは、虚ろで静かな笑顔を浮かべた。

 生き返らせるといえど、一度同胞をその手で殺めたのだ。無理も無い。

 けれどその二人が見せる背中には───互いを信用する心構えが見て取れた。


 ──────会場の外で、元気に手を叩き合う神童と創造神。


「本当に、一杯食わされたわね」

 ロベリアはそんな事をあの二人の化物達はしているんだろうなと思い、深い溜息を零した。


 ───ロベリア陣営は、まんまと少年の策にはまり、敗北を喫したのだ。

 結果的に観客を満足させたと言えど、敗北は敗北。

 でもその敗北は、一人のサキュバスをその気にさせた。


(やはりお前達は───危険)

 そうシュリーレンは覚悟を決め、一人会場を後にした───。


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