制御できぬ狂気
可憐なる路。
大会準決勝の場は、よもや草木生い茂る平原へと様変わり。
もはやアリーナで無いと言うことは置いておき、そこまでの路は綺麗だった。
床にはレッドカーペット。
黄金散りめく入口は、さも自分達が王になったかの如く待ち受ける。
以前の、薄暗いアリーナへの路とは大違い。
これは創造神がいる為なのか、はたまたロベリアの気まぐれか。
それとも……化物を出迎える為の餌付けか。
まあ、どれでも良いさ。観客にも、僕達の価値は相当なものだと理解させたいんだろう。
ならば異論は無し。
僕は絶対の覇者として、一時に盤上にて踊ってやろう。
優雅に揺らめく神童として、僕はロベリアを裁こう。
そう。これは──────足掛かりである。
「とうとう来たね。準決勝……そしてユトと対峙する日が」
「ああ。そしてもう一度言うが──────手を抜いたらしばくから……ね?」
「はいはーい。分かってますよーだ」
そして少年と創造神は、黄金路にて歩を進ませた……。
♦︎
会場。
もはやアリーナには観客の声など届かず、両者のみが平原にて静かに対峙する。
──────空は青く、草木は舞い踊る。
太陽は辺りを陽炎で揺らし、風は吹き盛る。
辺りの魔力も、大草原に身を震わせていた。
裏闘技場に展開する箱庭か。こう言うロベリアの趣味だけは理解出来る。
あのオカマも自然を愛し、そして愛でられた……一人の人間なんだろう。
こうして見ると、ロベリアって元は良い奴なのかも、って柄にも無く思ってしまう。
そうさ。人間の最初は誰だって……純粋だ。
けれど、それを時間って物は悪戯に汚していく。
だが、それを恐れて逃げようとしたって無駄なんだ。
やがて人は変わる。
それがどれだけ淡白な物でも。
どれだけ狂気的な物でも、変わってしまったのは事実だ。
性格って物は、変化によって生じるもの。
───でも、だからって無闇矢鱈に肯定出来る訳じゃ無い。
だからこそ僕等は……落ちて落ちて、泥に塗れて誰にも救えなくなった人類を───。
──────殺すんだ。
それが『世界』───いや。人理に害する物なら僕は容赦無く排斥する。
……狂ってるだろうさ。
言われたよ、何回だって。それは『狂った正義』だと。
けれど、世界にはこう言う排斥機構は必要なんだ。
感情抱かず悪を殺し続ける……僕って殺人機構が。
───はぁ。ちょっと落ち着くとしよう。
兎に角、僕がロベリアを殺すのは変わらない。
あいつがどれだけ、自然を愛する人間だったとしても。
僕と一つでも趣味が合う様な人間だったとしても。
それが悪となり得るのなら、僕は何だって───。
──────例え世界だったとしても、破壊して見せるさ。
大草原状のアリーナに風が吹く。
静かに、けれど緊張を招いて。
二人の仲間は、決意を胸に視線を交わし合う。
以前僕はモイラへ「手は抜くな」と言った。
だからこそ彼女は因果を操る、紅い稲妻を纏った剣を携えている。
そしてそれを煽った僕自身も、それ相応の対応が必要。
だから忠節無心を露出させている。
睨みは飛ぶ。
取り敢えず僕は、戦闘前の軽いご挨拶がてらに告げるとしよう。
「……綺麗だね。決勝でも無いのに、こんな大舞台。相当気合入ってる様だ」
「でも裏では金金言ってそうだよねー」
モイラは、皮肉めいた相槌を飛してきた。
……確かに、それには激しく同意する。
「だろうね。このセットも、作る費用以上にお金を回収してそうだもんね」
「それに見合うだけ私達も出世したって事だー。───長かったけど、多分これで終わるんだよね」
「……それは杞憂だよ。まだ本命を救済せてないんだから……と言うか、随分と始まるの遅いね」
「……確かに」
僕は、いち早くその空気感に気付いた。
ドロッとした空気が肺に入りこむ様な、険悪感に。
これは、一度この世界で似た様な物を感じた事がある。
───『人が死ぬ予兆』の不快感。
心臓が締め付けられ、身内が崖上に立たされている様な感覚。
もう感じたくは無かった、けど……。
この時に来るってまさか───。
「はぁーい☆例によって今回は私が、今戦闘における特別ルールの説明をしまぁーす♡」
「……特別ルール?」
全く聞いたことが無い。
しかも声主はロベリアだ。
顔は見えないけど、この何処からか聞こえる狂気的肉声。
絶対ロベリアだ。
と言うか、あのクソカマが出張って来るって……。
さっきの勘といい、嫌な予感しかしないけど。
僕は、頰に伝わる生暖かい空気を感じながら、固唾を飲み込んだ。
そして、狂気は告げる。
「特別ルールは簡単!戦いの勝利条件が『相手の死』に切り替わっただけよ♡そして、棄権も降伏もナシ!お二人さんが、目の前の敵を殺さない限り出られないから、頑張ってネ〜」
「……は?」
理解不能。
されど、狂気は止まらず。
『──────じゃあ、コロシアイスタートォオ!!!』
その火蓋を、強引に切って下ろした。
あー。描写が長くなるんじゃぁー( ´△`)
兎に角、裏闘技場編を次章にまで伸ばさない様に精進致します。
あ。一応次章の構想は出来ている……つもりです。
……ラストもですネ。
大変長い連載になりそうですが、作者が死なない限り今作は続いて行きますのでご期待を!
……次回作どうしようかな(ボソッ
……以上、作者の戯言でした。




