システムエラー
光速の弾丸。
ただ一つのマグナムから放たれる弾幕は、片や壁の様に僕を阻む。
だが、それで立ち止まっている暇は無い。
これは、素早い攻撃に目を慣らすための訓練。
魔法を使ったり、事象操作などの超常の力を使う事をしては駄目だ。
これは訓練だ。自分の力のみで潜り抜けねば、それは訓練にすらならない。
……身体能力、対応能力、第六感、頭脳。
これは、その要素を生かす為の訓練だ。
それに手は抜かない。
──────そして、僕は弾を避け始める。
勢いを保ったまま。
反復横跳びに近い動きで、僕は小さい隙間を通り抜け始める。
実、隙間と言えど、若干身体が通るか否か、程度。
動き方を間違えば、恐らく腕とか軽く吹っ飛ぶ。
それくらいの弾速と威力だ。
……当たれば危険、けれどそんな物当たらねば良い話。
トレーニングに命を賭けるなど馬鹿らしいと思われるだろうが、これが僕の鍛錬。
異論は認めぬ。
♦︎
────今は一つ目の隙間を突破した所。
弾幕飛ぶ世界の中で、僕は次なる隙間を見据える。
今度は右。壁すれすれの位置。
……確認した。
刹那。僕は右足を踏み混み、左足を上げ、身体を左斜め前に傾ける。
次に僕は咄嗟に顔を傾け、一発の弾丸を避け。
そして、
──────左の壁に向けて、身体を猛進させた。
その間、色々な弾が僕の周りを掠め取るが、当たりはしない。
いずれ僕は左の隙間へと到着し、次の隙間を見据える。
そして、時間が刻一刻と迫っている事を感じながら、僕は直ぐに壁を蹴る。
動揺を感じさせぬ動き。
初見でも、余裕を持って僕は身体を動かす。
その間、また数発の弾丸が横切る。
そして、僕がついぞ三個目の隙間へ身を通した。
だが、最後の隙間の位置がかなり低かった。
更に、いつもより弾幕が近い。
僕は顔を一瞬顰めるが、それでも状況判断を怠りはしない。
前はしゃがみだけでも行けると思ったが……。
……うむ。これなら前転した方が良い。
僕はそう瞬時に解析し、低い隙間に向かって前転した。
やがてその回った身体は弾幕を全て突破し。
低姿勢で前の様子を伺う頃にはもう、目標は眼前へと位置していた。
残り数メートル。経過時間──────四.ニ秒。
回りきった僕は足を踏み込んだ。
体制を直立状態に戻す前の丸まった状態だったが、それでも問題無く直進出来ている。
床を這うような低姿勢ではあるが、逆にそれが標的の弾を避けれる英断となった。
付近の床に着弾する銃弾。
訓練なので僕以外には傷すら付かないのだが、流石にあれは当たったら痛いじゃ済まされない。
舞い上がる擬似的な砂埃。
耳付近を掠め取る光速の弾道。
そして──────見切った。
時を見計らい立ち。
標的の眼前にて相対。
僕はそのまま標的に触れようとしたのだが……。
──────瞬間、標的の様子が変化。
「……?」
標的は一瞬身体を後退させ、早撃ちのポーズを取り……ニヤリと笑った。
……表情変化。そんなシステムは組んだ覚えがない。
だが「バグか……?いや、有り得ない」などと驚いている暇は無かった。
こんな時にも、時間は進んでいるのだから。
僕は一応警戒しつつ、トレーニングを終了させる為に標的を触ろうと手を伸ばす。
だが、その瞬間に。
──────謎の力を帯びた銃弾三発が、男のマグナムから放たれた。
弾速異常。
以前標的が放っていた銃弾に比べ、この銃弾は威力も速度も段違いだった。
軽く数百倍はあるんじゃなかろうか。
……だがまあ、謎のシステムエラーに遅れを取るようじゃ戦士の恥。
そう思い、僕は眼を赤眼に光らせ───随時。
─────狙う三発の弾を、最小限の動きで躱し切った。
空間に、残像として淡く残る灼光。
上半身を軽く捻っただけで避け切った僕。
空間を捻じ曲げるまでの速度を発揮した弾頭を背に、僕は間髪入れずに。
……左手で標的を払い、トレーニングを即時終了させた。
───経過時間四.九秒。
ノルマ達成。
そして生きている。
僕は運動直後に息を吐いた。
「……ふう。危なかった─────しかも君、なんでここで介入してくるかな〜。多分そっちも任務中の筈でしょうに」
僕は、取り敢えずシステムエラーの件を忘れる事にした。
そして、数回息を重ねた後。
間を置かずに左手を真左へと払い、またも青い画面を取り出した。
「……で、次は──────」
そして画面を弄り、更に鍛錬を重ねようと画面をタップする。
……次に、目を瞬いた時には。
──────今までのトレーニングルームとは違った別世界が、そこにはあった。
見渡す限り白い世界。
今回、この五百×五百メートルのこの特殊真っ白空間でやる事は……実戦だ。
「威力とスピードがエグいやつで……っと、君に決めた」
僕は最後の項目をタップし、目の前の青い人物を見据え、腰を下げ……。
「──────じゃあ、鍛錬開始だ」
そして、空間に白いキューブが飛び火した。