日常と非日常
家に帰ると母さんが料理を並べている最中だった。「あら、お帰りリタ。今日は野菜が沢山売れたから奮発したの。さあ席についてご飯にしましょう。」手際よく料理を並べた食卓につき母さんが言う。「ところでリタ、あなた明日は父さんの三回忌だから街でお花とお酒を買ってきてくれる?」
父さんが死んでから毎年街に花を買いに行くのが俺の役目だ。最初は母さんが辛い思いをしているから俺がしっかりしなきゃという思いで街へ行ったのだが回数を重ねる度に段々と楽しみな行事へと変わっていった。
翌朝、朝早くから街へと向かう。歩いて片道1時間半といったところだろうか。朝焼けを見ながら出発すると後方から足音が駆け寄ってくる。
「リター!私も連れてってー!」
息を切らして長い髪の毛を揺らしながらアルゴがやってきた。こんなに朝早いのに毎年見送ってくれるアルゴにどこか安心感を抱いていた。
「おはようアルゴ、一緒に行きたいけど街までは遠いし村のみんなのことを守れるのはアルゴしかいないからちゃんと留守番しててくれよ?」了解しました隊長!とアルゴははにかみながら返事をする。
「お土産よろしくねー!」という幼馴染の声を背に街へと向かう。
街は好きだ。自分の村では体感できない事が沢山ある。物の流れ、人々の喧騒、目まぐるしく回る景色に心が踊った。行き交う人の群れが特に今年は慌ただしい。
「よく来たな坊主!」酒屋の店主が豪快に笑いながら迎えてくれる。これは奢りだとジュースを一つおまけしてくれた。花屋も「よく来たね」と快く迎えてくれてお母さんとガールフレンドの分と少し余分にもたせてくれた。
去年も同じように優しくしてくれて、それが今年も同じように覚えていてくれて、一年経っても変わらない日常がただただ嬉しかった。
村に帰る頃には街の喧騒も幾分か落ち着いたように静まっていた。とはいってもまだまだ賑やかさはあり楽しげな様子だ。
三回忌の為の準備もあるから名残惜しさを残しながらも足早に村へと向かう。
そろそろ村へ着くであろうというところで異変に気づいた。農作物が荒らされている。それも獣ではなく明らかに人為的に荒らされたものだ。
掘り返された畑を観察していると遠くから悲鳴が聞こえた。この声はよく覚えている。アルゴの声だ。一瞬嫌な予感が頭をよぎるがそれを振り切るように村へと全速力で走る。
村へついた頃には深夜のような静けさが辺りを埋め尽くしていた。そしてリタの眼の前には長年連れ添った幼馴染の頭がコロンと転がっていた。
いつもと変わらない日常が壊れる音が頭の中に鳴り響いた。
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