プロローグ
「悪法もまた法なり。」
悪い法律であってもそれもまた法律である。
格差が広がれば広がる程この言葉は鉛のように重く、鎖のように絡みついてくる。
いつだってそうだ。弱い立場の者は権力者に喰い物にされる。
狂騒、恐怖、悲壮、怒り、憎悪、焦燥、未練、挫折。弱者はいつも苦汁を舐めてきた。それは当然のことであり、覆しようのない”現実”だ。
そう、あの時までは――――
ただ走る。酸素もろくに回らず、自分が自分でないような体に鞭を打って必死に走る。後ろから聞こえてくる足音を必死に引き離そうとただひたすらに駆け抜けていく。
「ま、待って~」後ろから声がする。この声の主はアルゴ。幼馴染で昔からよく遊んでいる少女だ。一心同体のように毎日一緒に行動している。
「やっぱりリタは速いな~。この村じゃもう誰も追いつけないんじゃない?」
俺の名前はリタ。母親と二人暮らしをしていて田舎の小さな村で農業を手伝っている。
「当たり前だろ?一番に敵を倒すためにはもっと速くないとだめだけどな!」うちの家は6年前に父親が病死してから貧しい暮らしがずっと続いている。
そんな中で母親を楽にさせるためには軍隊に入って稼ぐことが一番良いと思っていた。
「リタが軍隊に入隊してもちゃんと私のところへ帰ってくるんだよ?死んじゃだめだからね、約束だよ。」少し寂しそうにアルゴが言う。当たり前だろとアルゴの頭を撫でてやると少し安堵したのか口元を緩めて朗らかな笑顔を見せた。
そんなほのぼのとした時間を過ごしていると遠くから日暮れを知らせる鐘の音が聞こえてきた。「そろそろ帰ろうか。」アルゴに手を差し出すと嬉しそうに手を取る。夕日のせいかお互いの顔は熱を帯び、二人の影を長く長く、遠くへと伸ばしていった。
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