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とある公爵の独り言1

赤の国のとある公爵視点。





 おれの名前はフェリックス・カッセロ。


 現在、赤の国の公爵をしている。だが、元々は魔力の無い者しかいない平民の親から生まれて、生まれたときの魔力測定で魔力があると分かったらしい。

 平民生まれで魔力があることも珍しいが、これまた珍しいことにおれは貴族でも上位の魔力を持っていることが発覚した。つまり何というか、とても珍しい部類らしい。

 が、おれ自身は物心ついた頃には貴族に引き取られていたから伝聞系だ。誰から聞いたかと言うと、本人のおれより先にどこから聞き付けてきたのか、嫌味なとある上位貴族の息子だ。おれを貶めたかったのだろう。残念だったな。


 それはさておきおれが生まれ、公爵をしている国は赤の国と呼ばれている国で、近年強力な力と影響力を要している。王が代替わりしてからだ。


 現在の陛下は歳は…………二十代半ばから後半くらいだ。妹であるヴァネッサ様が二十一だからそれよりは上なことは間違いない。

 つまりなんだ、身分を抜きにして結婚していてもおかしくない歳であり、だけれども結婚していない方だ。

 結局妹のヴァネッサ様の方が先に結婚して――おれとだ――、陛下はいつ結婚してくれるのかという事項は臣下一同の悩みの一つとなっていた。


 そんなとき、同盟の申し入れがあった金の国の様子を見に行った陛下があちら方の使者に王女様を組み込むように書簡を送り、何だ何だと意図を図りかねていたら、まあ金の国から王女様がやって来た。

 使者が陛下への謁見のための部屋に着く前にはおれたちは行っておかなければならなかったのに、ヴァネッサ様がのんびりしていたせいで遅れた。遅れた結果、なんと金の国の使者の小集団と鉢合わせてしまった。

 その先頭にいたのが、たぶん王女様で、美人だなぁとは思ったけれど、おれの横にはすごい美人で奥さんがいたのですぐに感想は消えた。それよりさっさと行かなければとどうにか先に着くことができて、まあ完全に見物人気分であとは終わりまで眺めているだけ。


 と、思ったのに、だ。

 陛下はなんか機嫌が良さそうだなぁ、金の国の王女様はなんか驚いているなぁ。何でだろう。

 金の国の王女様は陛下を見たとたん何事か言ったっきり――聞き取れなかった――陛下を凝視して動きが止まった。石像にでもなったんじゃないかってくらいの制止のしようで、時間が止まったかな? とも思った。

 始まるはずの挨拶の向上やら何も始まらないし、王女様の様子は変。

 小さな違和感が重なり、さすがにこの状況変だなと思っていたら、直後に目を疑うことが起こった。

 固まっていた金の国の王女様が――陛下手を思いっきり振り払いなさったのだ。


「いやもう『終わったな』って思ったんですけどね」


 廊下を歩きながら、やっと気を使わずに喋ることができるのでおれはそれはもう喋る。


「金の国の方も固まって青ざめてましたけど、こっちだって陛下の気性を知っている分まずいって思いますよ」


 何してるんだ王女様。何のつもりだって思ってたら、当の王女様も固まってたし。本当、何だったのか。固まるくらいならしなければいいのに。


「陛下が広間を焼き尽くしてしまうかと思ったぁ……」

「さすがにそこまではしないだろうが、何はともあれ大広間の修復をしなくて済んで何よりだったな」

「修復するとしても、あの場におれがいた以上、修復させられるのはおれなんですけどね」


 ギリアン殿は簡単に言ってくれる。陛下の魔法の跡を修復するのは大変なんだ。とは言え、陛下が手加減をしなければ、その魔法の特質上と力関係上おれの魔法では修復できずにもはや地道に作り直すことになってしまう。


「しかし陛下、上機嫌でしたね」


 陛下の手が払われて心臓と背筋がひやっとした――なんでおれがひやっとしなければならないのか――のはつかの間、陛下はもっと上機嫌になっていたので、おれは目を疑った。

 さっき手を振り払われたよな。おれには確かに何かしらの惨状が起こる未来が過っていた。

 さらには同盟に関する事項の宣言してしまった……のは、陛下の普段からして別に気にすることではない。どうせ最後に全部の許可なり何なりを出すのはあの方だ。

 驚くべきことは、文句なしの非礼を行った金の国の王女様を妃にすると仰ったことだ。確かに同盟の証とするにはいいかもしれないが、陛下はそんな性格じゃない。証なんてちまちましたものとでもあしらうタイプだ。

 だからこそ、陛下が上機嫌であることに、この方新しい扉でも開いてしまったのではなかろうかと臣下らしく心配するべきか否か。


「……どうしてあのタイミングで……」

「好みだったのではないだろうか」

「好みって……どの辺りがですか?」

「気が強そうであり、陛下の魔法を見たにしては臆さない」

「魔法を見たって、どういうことですか」

「実は金の国へ行った際、ちょうど国境付近を緑の国に攻められ、金の国は不利な状態だった。貴族の数も圧倒的に足りず、砦は侵入される寸前」

「うわぁ」

「そこに現れたのが王女だったのだが、一人で敵を引き受けようとしていた」

「それはまた、肝の据わった王女様ですね」

「陛下が手を出すととんでもないことになりそうなので手を出さないことを約束してもらい、俺と陛下は上で様子を窺っていた。だがあまりに窮地なので王女も危険そうな状況になり、陛下が地上の兵を一掃した」


 赤の国の王族の中でもより血の濃いごく一部の者にのみ許された魔法がある。燃やそうと思えば、人間の肉体、骨を塵ほども残さず燃やし尽くすどころか、魂までも燃やし尽くしてしまう魔法の炎。

 あの魔法を目の前にすると、敵味方問わず為す術もないだろう暴力的な力に本能的に恐れ――畏怖ではあろうが――を感じずにはいられないと言われている。

 陛下はその魔法を最も多用する。


「……なるほど……」


 何となく分かった風な相槌を打ったが、本音を言うとそこまでしっくりはきていなかった。









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