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売りやすくするためにマーケティング。その1 ☆ベネフィット

「どうだった?」

「いやー、とっても良かったです」

「ん? 行けたの? 行けなかったの?」

「え、あぁ、ちゃんと街の近くに繋がっていました。ただ……」

「どうしたの?」

「中には入れませんでした」

「そっかー……」

「落ち込まないでください。大丈夫です。街に入らなくても勧誘は出来そうでしたので問題ありません」


 満博はあのあと他の人たちに続いて城壁まで辿り着いていたのだが、入り口で止められてしまった為、街に入ることが叶わなかった。

 冒険者か街の住人である本人確認証を求められたのだが、当然持っていない。なので満博は適当に落としたと申告した。

 すると、すぐに停止と再発行の手続きをするよう勧められたのだが、そんなことをすれば嘘を吐いているのがバレてしまう為、もう一度潜っていたダンジョンに探しに戻ると言って逃げ出してきたのだ。

 とはいえ街の冒険者もダンジョンへの移動は、街の外の転送装置――満博が先ほど降り立った場所にあったストーンサークルを使用するので声をかけるには満博が姫に申告した通り問題は無さそうであった。

 だが、冒険者をダンジョンに連れて来るためにはもう一つ大きな問題を片付けなければならない。

 そう、【黒髪姫の薔薇のお城】のセールスポイントを作らなくてはならないのだ。

 満博は今までも、お客様が必要でないものも売りつけてきたといえば言い方が悪いが実際にそうしてきた。

 それなりに販売技術には自信がある。

 だがしかし、さすがにベネフィット――その商品を利用することによって得られる利便性や満足度――若しくはメリット(得られる利益)が何一つなければ売ることは難しい。

 否、難しいという言い方では生ぬるい。恐らく不可能であろう。

 まずは商材のことを知り、販売方法を確立しなくてはならない。


 自ずと満博は、自分の経験を活かす現代の知識であるマーケティング技術を活用し始めていた。

 体系化、明文化したのが近代なだけで、人間の心や欲望というのはそう大きく変わらない。この異世界では文化の違いでどれだけの差があるか、この時の満博には分かりかねるものだったが、感覚ではなく、知識で、満博はこの世界に適応しようとしていた。


 当然のことながら、商材(ダンジョン)に関しては、全くの知識を持ち合わせていない満博。

 しかし、会社に勤めて店長になってからもずっと、丁寧に仕事の仕方を教えてもらったことなど一度もなかった。

 それこそ入社一日目からOJT__※オンザジョブトレーニングの略__とは名ばかりの配属先店舗での放置から始まった。

 個人情報を扱う仕事だったので、規定時間の研修はあったものの座学で2日間、精神教育を受けたに止まる。

 なので、この状況でも満博は特に困らなかった。

「姫、大変恐縮ですがダンジョンの事やステークホルダー――※利害関係者(後述)――について教えていただいても宜しいでしょうか? それと、先ほどの名前が分からないのですが、ダンジョンを操作出来るという物を借りてもよろしいでしょうか?」

 分からなければ知っていそうな人に聞く。

 相手が他の人と会話をしている時以外は、質問することを躊躇しない。

 そうしないと、今まではずっと放置されてしまう環境だったのだ。


「ん、いいよ。でも、わらわもあんまり良く分かってないから、これを使ってね」


 ぴょんと姫は玉座から跳び降り、ぽんぽんと座面を叩く。


「それでは失礼します」

「ミッツ、もっと奥に座るの」

「え? あぁ、こうですか」

「そうそう。あっ!? ミッツっていうのどう? わらわが考えた名前」


 姫に促されるまま座った満博だが、一瞬呆けてしまう。


「嬉しいです。満博だからミッツですね。高校時代もそう呼ばれていたので何か懐かしい感じがしますね」

「えっ、そうなの? わらわのためにダンジョンエナジー集めて来るミツバチのミッツだったんだけど……」

「勿論ですよね! 普通はそっちですよね。いやー嬉しいなー。姫のために働くミツバチから名前を貰えるなんて光栄だなー」

「でしょ! 良かったね。“ありがと”って言って」

「あ、ありがと」

「良いよ」


 自分の名前とは一切関係ない渾名をつけられた満博改めミッツ。

 起源を間違えただけで機嫌が良くなくなり泣き出しそうな姫を前に、深く突っ込むのは止めた。

 もう少し後、これが渾名ではなく名前の変更だと気づくのだが、特に自分のことに執着のないミッツはこれをあっさりと受け入れたのだ。


「よいしょ」

「え!?」


 名前の件はミッツが受け入れすんなりと終わると、姫も玉座に腰掛けた。

 形として、ミッツの足の間に姫が座っている状態になる。


「あの……」


 ミッツはどうして良いか分からず、わたわたとするが、姫は御構い無しに進んで行く。


「どうぞ」


 肘掛を触り、コンソールを出現させた姫は、肘掛からミッツの太ももに手を置き換え、体を後ろ――即ちミッツへと預ける。

 ごくりと、ミッツは唾を飲み込む。

 鎧越しに姫と触れているのだが、その柔らかさや温かさが伝わって来る。

 これはミッツの妄想ではなく、着脱可能とはいえ全身鎧をつけた状態がソードマンというモンスターなので、鎧は皮膚と何も変わらない。

 そんなことなぞ知らないミッツだが、それすらも気にしている場合ではなかった。

 甘く、そして上質なミルクのような柔らかくて優しい香りがミッツの鼻を突き抜け、脳を蹂躙していた。


――もっと嗅ぎたい。


 その意識だけがミッツを突き動かし、肺がいっぱいに膨らむほど鼻から息を吸い込む。


「ちょっと、くすぐったーい」


 明るく光るように笑う姫の声で、はっと正気に戻る。


「え、あ、あの、申し訳ございません」

「いいよー。ちょっと擽ったかったけど、どうしたの?」

「いや、あの、これから姫のために誠心誠意働くために気合を入れようと深呼吸しただけです」


 こてんとミッツの胸に頭を預けて逆さまに顔を覗き込む姫の笑顔に、ミッツは心臓がばくばく言っているが、これは嘘を吐いて誤魔化した罪悪感ではない。

 現在進行形で姫に抱いているある感情によって激しい動悸が引き起こされてた。


――劣情。


 ミッツは幼い姫に、性的に興奮しているのだ。

 しかし、ミッツはロリコンではない。――いや、ロリコンではなかった。

 姫の幼子では醸し出せない溢れ出る魅力と、とある制約によって無理やり引き出された感情だが、『YES! ロリータ、NO! タッチ。俺はもうロリコンでも良いかもしれない』と自ら坂道を転げ落ちるように、道を踏み外していく。

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