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姫の実力?! その6

「見つけたでヤンス」


 肩越しに窺い見たミッツの視界に、壁を走るメルキーノが映る。

 手に持った投げナイフ。それがミッツの肩を痛めつけたものだろう。


「追いつかれて堪るか……」

「逃さないでヤンス」


 肩の痛み程度では立ち止まらなかったミッツに、続けてナイフが投げられる。

 的確に逃げ足を封じるように、膝裏、脹脛、足首と。

 そのうち膝裏に当たったものは、鎧に弾かれずに突き刺さった。


「大当たりでヤンス」


 メルキーノは楽しそうに、バランスを崩し転げるミッツに拍手を贈る。

 勢いよく地面で3回転半したミッツは、蹲り、唸る。

 完全に捕らえた。

 そう確信したメルキーノは両手に腰からダガーを引き抜き、刃先を舐める。


「!? 生意気でヤンスね」


 その無駄で何の意味があるか分からない行動の隙を突き、ミッツは引き抜いたナイフを投げ返していた。

 奇跡的に真っ直ぐにメルキーノの胸元に向かったナイフはダガーで弾かれたが、長く大きい鼻の先を裂き、鼻血のように赤いものを垂らす。


「油断大敵火事親父ってね。その大きなナイフを美味しそうに舐めてたから、小さいのも返そうと思って」


 ナイフを抜いてすぐに傷口は塞がったが、痛みは引いていない。

 大丈夫だと分かっていても立ち上がれないミッツは、時間稼ぎに軽口を叩く。

 それが相手を逆撫ですると分かっていても無言でいられなかっただけだが、思わぬ以上に効果を上げた。


「自分の立場を分かっているでヤンスか?」


 口元をひくつかせ、怒りでぷるぷると体を震わせる。


「いや、分かってない」


 言うや否や、ミッツは奥に走り出す。

 どうせ直ぐに追いつかれるとしても、マリルが逃げる時間を僅かにでも稼げるなら逃げ出す意味はある。

 それがたとえ10歩も行かず追いつかれたとしても。

 幅広の〈炎熱の重い大剣〉で怒涛の如く襲いかかる2本のダガーから身を守りながら、階下に繋がる正解の道から外れる。

 力はミッツの方が強いようで、正面からの攻撃は大剣を突破されることはないのだが、(ましら)のように飛び回り、上下左右、立体的に繰り出される攻撃からは急所を庇うだけで精一杯。

「良いでヤンスよ。良いでヤンス。粘って粘って耐えるでヤンス! 出来るだけ抵抗するでヤンス。死んでも生き返らせてやるでヤンスから、その元気を忘れないで欲しいでヤンスよ」


 抵抗されて喜ぶ変態ぶりに、ぞっとする。

 それに、死んでも終わりにならないらしい。


「何回遊べるでヤンスかね? 一回目で灰になるのだけはやめて欲しいでヤンスね」


 僧侶法術4階位《墓穴暴き(ディグレブ)》による蘇生で失敗すれば灰になる。

 灰からの蘇生は8階位の法術か教会でないと蘇生できない。

 そうなると、このおもちゃで遊べない。

 そうメルキーノは言っている。


 これを聞いたミッツに危機感が宿る。

 死ねない。死ぬわけには行かなくなった。


 マリルを守るためなら死ぬつもりだったが、それが考え足らずだと気付かされた。

 ミッツは今、冒険者として狙われている。

 死ねば墓石が残るのが普通。

 だが、ミッツはそんなもの残さない。死亡、即復活だ。それも玉座の前に。

 その前に、消え方がモンスターと同じなのだ。おかしいと気付かれるに決まっている。


「(そうなったら、どうなる? ……どうなるか想像できないけれど、不味いことになるのは間違いない)」


 気づいて焦るが、実力差は如何ともしがたい。

 このまま亀のように守っていても、それほど長くは保たない。

 かといって攻めに転じようとすれば、その瞬間に終わる。

 考えている間もHPは削られ、徐々に体が重くなる。


「(もうダメだ)」


 どうせなら、一矢報いて殺されよう。死んだ後のことを考えたところでどうしようもないと悟ったミッツは守りを解き、最後の力で斬りかかる。

 剣の自重に任せただけの、力なく振り下ろしただけの攻撃。

 そんなもの、動きの素早いメルキーノに当たるはずもない。

 体を開き、余裕を持って躱される。


「また後ででヤンス!」


 ミッツの首にダガーの刃が滑り込む。

 これで終わりと目を閉じようとする。その時――


『ミッツ、助けに来たよ』


 飛び蹴りでメルキーノを吹き飛ばしながら、1匹の【直立する狗(コボルト)】が現れた。


『わらわが戦うから、ミッツは逃げて』


 姫の声が聞こえてくるが、目の前にいるのは【直立する狗(コボルト)】。違和感が半端ではない。

 それに状況も全く呑めない。

 だが、目の前の【直立する狗(コボルト)】が姫だと言うのならば、おめおめと自分だけ逃げるという訳には行かない。


「しかし、姫を置いては――」

『――いいの』


 全てを言い切る前にミッツの腹を【直立する狗(コボルト)】が蹴って、通路まで吹き飛ばす。

 受け身も取れずごろごろと転がっていくミッツ。

 それもそのはず、これが止めとなってミッツは死んだのだ。




「おかえり」

「ただいま、もどりました? あの、マリルは?」

「まだ、戻ってないよ。でも、大丈夫! ほら」


 ダンジョンコンソールに映し出されたマップでは、マリルを示す光点はすでに地下3階に到達している。

 しかし、侵入者の光点は見当たらない。


「確かに。大丈夫そうですね、良かった。そうだ、先ほどは助けていただきありがとうございました」

「わらわカッコ良かった?」

「えぇ、とても。私を蹴り殺したのもナイス判断です」

「あ、え、えっと……そ、そう! あれね、わざとなの!」


 偶然だろうとは思っていたミッツだが、姫の態度で確信が持てた。


「流石です。それより、さきほどのコボルトは何なのですか? 見た目には普通のコボルトと見分け付きませんでしたけど、動きが全然違いましたが」

「あれね、あれはね【自由に振る舞う夢(プレイング・ドリーム)】でわらわが操作してたんだよ」


自由に振る舞う夢(プレイング・ドリーム)】とは、姫が一人の時に遊んでいるVRゲームマシンのような秘宝。

 モンスターモードで遊べるといった内容も、以前に調べた際に書いてあった記憶もある。

 あれがそうかと、ミッツは得心する。


「あれ? さっきのコボルトは死んでしまったんですかね?」

「うん、もう負けた」

「あのコボルトはダンジョンにいたやつですか?」

「そだよ」

「追加でダンジョンエナジーが減ったりします?」

「あれはねー、そういうの無いの。ゲームを増やす時だけダンジョンエナジー減るよ」

「ということは……」


 ミッツに閃き走る。


「姫、そのゲーム機、貸してもらって良いですかね?」

「良いよ! 何して遊ぶ?」

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