表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/76

姫の実力?! その1

 ダンジョンエナジーが底をつき、これまで絶体絶命のピンチを切り抜けてきた頼みのミッツは悩み、苦しみ……考えすぎて動けない。

 そこで、このピンチを脱するために姫、御身自身が立ち上がった訳だが――


「出れれないよー」


 何をしようとしていたかはさておいて、ダンジョンから出られないというのは周知の事実。

 それなのに、姫自身が忘れていたのか、街への転送口で喚く。

 てっきり、ダンジョン内に於いて革新的手法を用いて解決するかと思いきや、完全なノープラン。

 やはり姫は姫であったことを証明してしまう。


「ご心配おかけしております。昨日は不甲斐ない結果を残してしまいましたが、本日は死ぬ気で数字を出します。……出せないと本当に死んでしまうんですけどね」

「どーしたのよ。なんかミッツっぽくないよ」

「いえ、私はもともとこんな感じですよ」

「違うでしょ!」


 卑屈なミッツを見ていると、悲しくなる。

 もうどうしようもないと思っていたところに颯爽と現れて、あれよあれよといううちに何事も無かったように解決してみせたミッツはどこに行ってしまったというのか。

 今もミッツならば、何か良く分からないことを言って、あっというまに解決してみせると信じている。

 だけれども、目の前のミッツは何か違う。

 言い知れぬ不安が込上げてきて、大きな瞳に涙が溜まる。


 泣き出しそうになると、力強い言葉で安心を与えてくれたミッツ。

 それなのに、今は目も合わそうとしない。


 ぐっと気持ちを飲み込み、力強く腕で溢れそうな涙を拭う。


「違うもん……。ねぇマリル、この前いっぱい冒険者来てたのまた出来れる?」

「分かりました姫様、おまか――」

「――残念ですが、無理です。ひとつは、不自然でないクエストを用意することができないこと。前回と全く同じことが出来なくもないとは思いますが、マリルの冒険者としての評判は下がります」

「それくらい、何の問題もありませんが……」

「大丈夫だって!」

「二つ目ですが、こちらは決定的です。依頼するための金が足りません。昨晩も宝箱に入れるアイテムを追加で購入しましたので、残っておりません」


 一刀両断。

 姫はむむむと唸るしかない。


「じゃあさ、じゃあさ、いっぱいじゃなくても、強いの、とーっても強いの連れてきたら良いんじゃないかな?」

「そうですね。それであ――」

「――不可能です。以前にもお話しした通り、冒険者が自身が満足出来るベネフィットを得るためにダンジョンに来るのです。【黒髪姫の薔薇のお城】にそのような――」

「ヤダ……」

「ヤダと言われましても……こればっかりはどうしようも――」

「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ」

「あの……そのね……はぁ……私だってな……俺だって……俺だって、一所懸命考えてんだよ。ヤダヤダ言われたって、何も思いつかないんだよ。俺が何も苦労していないように見えるのかよ!」

「先輩それは――」

「ヤーーダーーーー!」

「俺も今すぐなんとかしたいよ。姫もマリルも守りたいんだよ。俺はどうだって良いから……」


「出来れるもん!」


 ぶち撒けられた不満。不安。恐怖。

 それらを吹き飛ばす、姫の一声。

 風哭きも、滴り落ちる雫も、低い唸り声も、そのどれもが音を立てるのを遠慮した。


「ミッツなら、出来れるもん……」

「しかしですね……現実的に考えて――」

「――出来れるの!」


 力強い言葉。

 ミッツは唾とともに言葉を飲み込む。


「だって……ミッツはいつもわらわを助けてくれる。任せろって言ってくれる」


 ミッツだって言いたい。いつものように安心してくださいと言えたらどれだけ楽になれるだろうか。

 だけれども、言えない。

 今までだって絶対の勝算があって言っていたわけではない。勢いに任せていた部分が大きい。


 だとしても、今は軽々しく言えそうにない。

 なにせ、勝算が一分もないということだけは分かっているのだから。

 身体中をぞわぞわとした気色の悪い何かが這い回り、今すぐ叫んで逃げ出したい。

 そんなミッツを姫はじっと見つめる。


 射竦められたようにじっと動かないミッツ。

 しかし、極僅かだが、目に力が入り、姫と目を合わせようとする。

 辛い。苦しい。切ない。苛立ち。焦り。後悔。恨み。妬み。嫉み。情けなさ。惨め。恐れ。震え。憂い。戦慄。躊躇。失望。嘆き。寂しさ。虚しさ。喪失。

 ありとあらゆる嫌な感情が、内から湧き上がる。

 すると、戻ってきた僅かな力も抜け落ちて、無表情となり視線が床に落ちた。



「ミッツの、バカァーーーーーーーーーー!!」



 どくんとミッツの体の中を衝撃が走る。

 腹を中心に、全身へ広がった。

 姫は叫ぶと同時に、小さな両握りこぶしをミッツの腹に打ち付けていた。

 ミッツの背中を突き抜ける開放感。

 中で燻っていたもの全てが吐き出されるよう。

 ミッツは、すっと身体が冷えるのを感じた。

 先ほどまで感じていたものは、何も感じない。

 びちゃびちゃと濡れたものが打ち付けられる音。

 重くなる身体。


 ミッツは理解した。


「(姫に殺されるのは久しぶりのような気がする……)」


 自身で支えられなくなったミッツは、その場に崩れ落ちる。

 その表情は、満足そうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ