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満を持しての登場 その1

 消滅寸前のダンジョン【黒髪姫の薔薇のお城】に呼び出され、流されるままに働き始めたミッツこと佐藤満博。

 本来であればダンジョンには関わらない一般人をターゲットにするという奇策で、一時は消滅の危機を脱したように見えた。

 しかし、美少女のマリルを仲間にするために、更なる苦境へと身を投じる。

 開店セールを思わせる賑やかしの大盤振る舞いクエスト。背に腹はかえられぬと信条を曲げてのステルスマーケティング。

 2つの策を用い、冒険者に【黒髪姫の薔薇のお城】の存在を認知させ、僅かに時間を稼ぐことには成功した。

 その過程でトラブルが発生はしたものの、無事解決。

 だが、まだ完全に、安定したダンジョンエナジーの回収目処は立っていない。

 目の前に立ちふさがっている問題の解決。

 それをどう解消するか、ミッツは今まさにそれに頭を悩ませていた。



「あの……、ただいま戻りました……」


 マリルのペンダントが戻って来ないというトラブルを解決するために利用した冒険者との酒盛りを終え、【黒髪姫の薔薇のお城】に戻って来たミッツを待っていたのは、腕組みをした姫。

 口を真一文字に固く結び、ふんすと聞こえるような鼻息の荒さ。

 見た瞬間に理解させられる――


「怒って……いらっしゃいますか?」

「怒ってない!」


 嘘だ。

 姫から返って来た言葉は、全く信じられるものではなかった。

 だが、ミッツには心当たりがない。

 唯一姫を怒らせることがあるとすれば食事関係だろうが、出かける前には終わっていた。

 しかも、オムライスを食べていた姫は満足気だったと記憶してる。


「(どうすれば良いんだ?)」


 困ったミッツは、ちらりと隣のマリルに目配せする。

 しかし、マリルも首を小さく振るだけで、役に立ちそうではなかった。


「ほらー!」


 姫の出した大きな声に、ミッツとマリルは体をびくりとさせる。


「ミッツはわらわより、マリルが大事なんでしょ!」


 しばしの空白。

 姫が不機嫌に足を踏みならしているが、その音も聞こえない。

 ミッツは脳をフルに回転させて、言葉の意味を咀嚼しようとしていた。

 そして、一つの結論を導き出す。


「私にとって姫が一番大事なのは、疑いようのない事実です」

「ほんと?」

「その証拠に、姫のためにダンジョンの維持に努めていますし、姫が外に出る方法も検討しております」

「そうなの? だったらいいけど……。早く一緒に出れるようにしてよー」


 しょんぼりはしてしまったが、怒りは鎮まったようだ。


「勿論です、私も早く姫と一緒に色々なところに行きたいです」

「そだね!」


 しかしそれも、ミッツの一言で霧散する。

 ミッツの選択は正しかったようだ。


「(姫はやっぱり見た目通り子供なんだな。寂しくて嫉妬するなんて――なんと可愛らしい!)」

 表情に出さないようにしたつもりだが、全く功を奏せず。

 その顔は、によによとだらけきっていた。

 本心としては別の意味で姫が一番大事なのだが、理性と常識がそれに待ったをかけた。

 自分と姫が相思相愛だなんて、そんな夢は流石に見ていない。

 それに、いくらなんでも見た目の年齢差が半端ではない。

 実際のところは姫の方が少なくとも2世紀程年上。マリルとの一回り差なんて、可愛いらしいものだ。


 ミッツの答えに満足したらしい姫は、ミッツに近づき手を握る。

 その小ささと柔らかさにミッツは昇天しそうになるのだが、なんとか堪えた。

 理想の関係ではないけれど、今もこれからもこれでも十分だと、ミッツは幸せに感謝する。



「そうだ、忘れないうちに。姫、地下3階を改装したいのでいつものを出してもらってよろしいですか?」

「いいよー」


 たたたと玉座に駆け寄った姫は、いつものようにぴょんと座面に飛び乗るかと思ったが、はたと立ち止まり、ミッツの方を向き直して両手を挙げた。


「どうしたんですか?」

「抱っこして座らせて」


 無邪気なお願い。

 これは断ることができない。

 マリルがいる手前、しょうがないなという体を装い歩き出すミッツ。

 しかしその心臓は、ばくばくと激しく鼓動を打っていた。

 姫の脇に手を当て、そっと持ち上げようとする。


「(あったか柔らかい)」


 ガントレットは付けたままだが、モンスターのミッツは、鎧は皮膚と変わらない感度。

 即ち、ダイレクトに感触が伝わって来る。

 歓喜に、かたかたと震える。


「ちょっと、あはは、やめてよミッツ、あは、くすぐったいよー」


 その振動は、姫を悶えさせた。

 慌てて手を引っ込める。


「申し訳ございません」

「くすぐったいのはダメだよー。じゃあミッツが先に座って」


 まなじりに涙を浮かべた姫が、ぽんぽんと座面を叩く。

 有頂天のミッツは、言われるがままに腰掛けた。


「よいしょと」


 するとそこに、ミッツの膝の上に姫がよじ登って来て座った。

 ふとももを通じて伝わって来る、可愛いお尻。

 じんわりと広がる熱は、ミッツの全身を熱くする。

 鼻腔をくすぐる甘いミルクのような香りは、脳を蕩けさせる。


「どうぞ」


 目の前にダンジョンコンソールが広げられたが、阿呆になっているミッツは認識できない。

 姫が許可したと勘違いし、欲望のままに頭を撫でる。


「えへへー」


 姫も嬉しそうだ。

 言うまでもなくミッツは夢心地。

 肺が破裂しそうになるまで、ミッツは香りを吸引する。

 中が満たされると、堪らず「はー」と温泉に浸かったおやじのような声を出す。

 そして、視界を前に向けると――


――マリルと目が合った。

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