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悪意再び その5

 教会に入ってすぐの席に、墓石を袋から無雑作に放り出す。

 乱暴な扱いだが、墓石は滅法硬く、傷つくことはない。

 音もそれなりに立っているのだが、これまで一度も妨害が入ったことはないのでミッツに気にした様子はない。

 教会としては、蘇生された冒険者や一般人本人から費用を回収するので、墓石を置いていくことには問題を感じていないのだろう。

 それどころか、金蔓を毎日運んでくるミッツを待っている節がある。

 何故なら、ミッツが墓石を置いて出ていくと、颯爽と神官が裾から出て来て墓石を回収しているのだから。

 声をかけない理由は、なんてことはない。冒険者に感謝の言葉をかけるのが面倒だというだけ。

 放っておいても勝手に墓石を集めてくるのであれば、無駄な時間を割く必要はない。

 奇跡には金貨が必要という即物的な神を讃える教会は、守銭奴たちの集まり。

 知ってか知らずか利用されているミッツも、教会がどのような対応をしようが興味はない。

 これはあくまで、顧客の満足度を上げるアフターフォローサービスなので、結局は自分たちの利益のための行動なのだ。


 ルーチンワークである墓石の返却を終えたミッツは、いつもの通り外へと足を向ける。

 しかし、この日はそのまま出ては行かなかった。


「先輩、少し良いですか?」


 ミッツに一声かけて、マリルは神を象った像の下まで行き跪く。それから、2本の指で額をとんとんと軽く叩き、腰に下げた袋から金貨を取り出し指で弾いた。

 キンッと透き通る音を鳴らしたそれは、放物線を描いて水の張った杯に飛び込む。

 静寂の中に、金貨同士が当った音が静かに沁みる。


「お待たせしました」


 晴れやかな顔で、マリルが振り返る。

 ミッツは何も言えなかった。

 マリルが何を祈っていたか分かったからだ。

 祖母から貰った、大切なペンダント。

 きっと、そのことを考えていたのだろうと。




「このあとはどうするんですか?」

「ちょっと、冒険者組合会館に寄る」


 教会を後にして、マリルの問いかけにミッツが端的に答える。

 その顔は教会に着く前のどこか浮かれた表情とは違い、口は硬く結ばれていた。

 表面的には判りづらいが、怒りを表す表情。ミッツは自分に怒っていた。


 開け放たれている冒険者組合会館の入り口をくぐる。

 中は沢山の人でごった返していた。

 冒険者組合が特に混雑する時間は1日に2度ある。光の時間になる前後と夕食時前後。

 光の時間への変更時に混むのは、クエストの確認と受注のため。今のような夕食時は、クエストの報告のためだ。

 長い3つの列が出来ているので、ミッツは一番内側の館内が見えやすい列に並ぶ。

 待っている間に周囲を見渡すが、件の3人組の誰一人見つけられない。

 しかしミッツに焦りはなく、胸には勝算を秘めていた。


「そんな、まだペンダントが見つからないって言うんですか!?」


 受付でクエストの状況を確認した貰ったミッツは、大きな声で叫んだ。

 受付の眼鏡をかけた細い男性の職員が、申し訳なさそうに頭を下げる。

 それを見てミッツも、申し訳なく思う。

 まるで自分がクレーマーのように感じたからだ。

 この男性が悪くないことは分かっていて、それでも大声で詰め寄っているのだ。

 これをクレーマーと呼ばずに、なんと呼ぶ。


「取り消しした場合、手数料はどうなりますか?!」

「それは……、受付の際に説明されたと思いますが、返却することは出来ません。勿論、報酬にお預かりしているものはお返し致します」


 額の汗を拭きとりながら、懸命に答える受付職員。微かに声も震えている。

 ミッツは体が大きいので、凄い圧迫感を感じているのだ。

 筋肉隆々の冒険者でも身長は160cm前後が多い中に於いて、170cmあるマリルでも大きめ。ましてや2mを超えているミッツに至っては、大男としか表現できない。

 マクスウェルのような冒険者でも抑えつけることが出来そうな受付職員ではない眼鏡の男性職員ならば、こうなっても仕方がないというもの。


「失礼しました。ダンジョンで大切なものを失くした私たちが悪いのに、当たってしまって。まだクエストを掲示して下さる期間は残っていましたよね?」

「え、えぇ勿論です。明日までは今のまま緊急クエストで受けておりますので安心してください」

「ありがとうございます。自分たちでも探しているのですが、中々見つからないもので焦ってしまいました。【黒髪姫の薔薇のお城】で探索中に良いものも見つけたので、追加で資金が必要であれば仰ってください。大切な仲間の(・・・・・・)ペンダントのためなら、これを売って金に変えるのも惜しくありません」


 そう言って、背中の大剣の柄を叩く。

 謂れなき横暴を与えたことに対する謝罪をしながら、しれっとステマを展開。

 列から離れたところで大剣を冒険者に見せ、注目も集めた。

 これは全て、相手の立場に立って考えたミッツの策。


「(見えているか? 俺はまだ金を持っているぞ。こいつは売れば400Gだ。さっさと食いついてこい)」

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