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悪意再び その3

 濡れた足跡と真っ直ぐに引かれた線。

 それらを残しながら、ミッツは【黒髪姫の薔薇のお城】の奥へと進んで行く。

 10歩も離れ闇に呑まれると、瞬く間に薄くなって消えるので道しるべにはなっていない。

 たとえそうだろうと不用心が過ぎる。

 雨で濡れたのだって初めてではない。以前は一般人しかいない引き連れて行っても安全どころか業務の効率化だともいえる状況にも関わらず、大きな犬のように体をぶるぶると振り回し水を切ってから地下に降りる配慮をしていた。

 なので、痕跡が残ることに危険性を感じていない訳ではないはず。

 それほどまでに、マリルにしでかしてしまったことを悔いていたのだ。

 力なく歩く足音は、びしゃりびしゃりと湿り気を帯びていた。


 地下3階への階段前、マリルの待つ場所に到着した。

 雨に濡れていた体はすっかりと乾いていたが、気持ちは何も変わっていない。


「申し訳ない!」


 マリルへのミッツの第一声。

 地面に頭を擦り付けての土下座。

 前回のような、フリではない。心からの謝罪。

 こんなことで許されるはずはない。そんなこと、ミッツ本人だって分かっている。

 それでも……少しでも……ミッツは謝意を伝えたかった。


「いきなりどうしたんですか、先輩!?」


 突然頭を下げられて謝られたのだから、当然の反応。

 ミッツは頭を下げたまま、地面に向かってペンダントの経緯(いきさつ)を語った。


「そうですか……」


 聴き終えたマリルは、ぽつりと呟く。

 淡々と平坦なその声からは、どのようなことを思っているのかミッツには量れなかった。

 分かることは、ショックを受けただろうということくらいだ。


「先輩――」


 ぴくりとミッツの体が強張る。


「――とりあえず、頭を上げて立ってください」


 どんな罵声を浴びせられるかと身構えたミッツに降って来たのは、いつもと変わらない声色の言葉。

 その通り従って立ち上がると、これまたいつも通りの表情のマリル。


「怒ってないのか?」

「えっと……先輩の言っている意味が良く分からないのですが……あっ、怒っていますよ。そのペンダントを持って行った3人のならず者には――」

「――そうではなく、俺の杜撰な計画のせいでペンダントが戻ってこないかもしれないんだぞ」


 全く責められないことに、声を荒げるミッツ。

 いっそ罵ってもらえれば、スッキリと楽になれる。

 しかしマリルは、そうしてくれなかった。


「ペンダントを使ったのは自分の判断です。先輩が何をそんなに思い詰めているのか分かりませんが、力になってくれようとしているなら取り返す方法を一緒に考えてください」


 代わりに、そうにっこりと微笑む。

 それを見た瞬間、ミッツの心臓がどくんと打つ。そして、顔が上気する。


「お、おう」


 たったそれだけを返すだけなのに、吃り、上擦る。

 失敗を優しく受け止められるなんて、ミッツの記憶上そうそうなかった。


「先輩が考えてくれるならば、安心です」


 この笑顔も、ミッツの心に衝撃を与える。

 マリルの顔は元々美しく整っているが、ミッツの目にはさらにきらきらと輝いて見えた。

 このとき、マリルのペンダント奪還が最優先事項になったことは言うまでもない。




 冒険者を探しながら、ペンダントを取り返す方法を考えるミッツ。

 すぐにでも街に行ってあの3人を探したいところだが、目星もなしに行ったって時間の無駄になりかねない。

 今度は見切り発車ではなく、しっかりと算段を立ててから挑みたい。

 失敗などして、マリルを悲しませたくないのだから。

 そんな気もそぞろな状態で、通路の角を曲がったところに冒険者と鉢合わせた。

 相手は一人。片手剣と小さな丸盾を装備したオーソドックスな男戦士。

 男戦士は躊躇することなく、ミッツを斬り付ける。

 為す術なくやられる。ミッツの戦闘技術を知っている者ならば、そう判断せざるをえない状況。

 しかしミッツは、信じられない反応を見せる。

 雑念の入り込む余地がないほどペンダントのことに集中していたことが、瞬間的にミッツに最善手を選択させた。

 向かってくる剣先を左手で外に弾き、背中の〈炎熱の重い大剣〉を抜く動きのまま男戦士に叩きつける。

 今までの〈なまくらの剣〉ならば、間合いが近すぎると力と速度が乗らず攻撃の意味を成さなかった。それに、未熟なミッツは刃を相手に立てることもよく失敗していた。

 だが、〈炎熱の重い大剣〉はそんなことは関係ないといった破壊力を見せる。

 その有り余る重量は、男戦士が突き出した丸盾ごと押し潰す。

 続いて野球のスイングのように振ると、広がった攻撃範囲が態勢を整えようと後ろに退がった男戦士を完全に捉える。

 遠心力が乗った一撃は、男戦士を吹き飛ばす。

 しかしまだとどめを刺してはおらず、男戦士は立ち上がった。それでも、多大なダメージは与えていた証拠に、口から血を流していた。

 その量を見るに、内臓にダメージを受けたことは間違いないだろう。

 とはいえ、ダンジョン内での肉体的ダメージは直ぐにHPにより復元する。

 復調した男戦士は、態勢を整える。

 だが、残念なことに、それはすでに意味がなかった。

 男戦士に影が重なる。

 両手で〈炎熱の重い大剣〉を振りかぶったミッツが、跳んだ影が。

 火花を散らし、振り下ろされる大剣。

 ガンと大きな音を立て、地面を叩く。

 男戦士はというと、体が二つに分かれていた。

 ミッツ、快勝である。

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