悪意再び その2
サブタイ変更10/25
『人情を優先するか、実利を取るか』→『悪意再び』
「あ!」
「どうした?」
ビギニンガムの街への入場チェックを終えたところで、ミッツが突如声を上げる。
衛兵も何事かと、入場者の確認の手を止めてミッツに向き直す。
「あ、申し訳ございません。忘れていたことを思い出して、つい声を出してしまいました」
「気をつけろ。まぁ、何もなかったのなら良い。それならば、立ち止まらずにさっさといけ。後ろが詰まっているだろう」
迷惑をかけたことと、注目されたのが恥ずかしくて、ミッツは足早にその場を離れる。
「しまったなー。冒険者が来てたからそっちのことばっかり考えていて、宝箱と宝物庫のことを姫にお願いするのを忘れてしまっていた」
事務室にアイテムが纏めて置かれているので、そこまで侵入を許すと纏めて持って行かれてしまう。
しかし、そんな状態であれば、マリルはやられ、姫もやられているだろうから、ダンジョンそのものがなくなってしまう。なので心配するならば、マリルが地下3階への階段を守りきれるかどうかだと思い至り、それならば大丈夫だろうと信じて心配するのをやめる。
心配したところで、ミッツでは何の力にもなれないので妥当な判断だ。
だが、5、6歩歩いたところで立ち止まり、呟く。
「いや、でも……酒場で話しした冒険者が来て、宝箱が無いとなると悪評が立つかもしれない。そうなると、悪い噂は良い噂の何倍も広がりが早いから一気に捏造した噂が掻き消されかねん」
ここまで来たのだからマリルのペンダントを回収してから帰っても間に合うか、それともすぐに戻るべきかと悩む。
この時間が結構無駄なのだが、強迫観念症の気があるのかミッツはなかなか宝箱の件が振り切れない。
結局、ぶつくさと自分に何か言い訳をしながらも冒険者組合会館へと急ぐ。
そこに、ぽつぽつと雨が降って来た。
見上げて見ると、雲の色が濃くなっている。わずかの間で大降りになるのは容易に予想できた。
案の定、ミッツが冒険者組合会館に着く前に本降りとなり、全身びしょびしょに濡れる。
鎧の下も雨が入り込んで、隈無くびっしょり。
会館の中に入ると、同じように雨に打たれ服や鎧が纏わり付いて「うへぇ」と気持ち悪さを零している冒険者で溢れていた。
普段は外の中央広場で待ち合わせをしている人数が、そのまま中に押し込まれているので凄い密度。
早くから居て、ほとんど濡れていないものは待合席を使い、ずぶ濡れで後から来たものは入口の方に固まっている。そのせいで入口付近は異様な湿度となり、嫌な臭いが立ち込める。
へこへこと頭を下げながらミッツはその冒険者たちの間を抜け、クエストが貼り出されているクエストボードへと向かう。
それは大まかに推奨レベル毎に分かれているので、LV13以下の駆け出しでも遂行できるクエスト辺りに目を向ける。
すると、そこにはマリルが依頼者のクエストが、まだ貼り出されていた。
他のクエストよりも目立つ『緊急!』の見出しと一回り大きな紙は、見落とすはずがない。
「(これは、ペンダントが本物かどうかはマリルにしか分からないので、本人が引き取りに来るまで未完了という扱いなのだろうか? そうであれば、暫くこのまま放置しておくのも良いかもしれない)」
そんな考えが過ぎった。
しかし、大切なペンダントが何日も手元から離れているというのはマリルも不安だろうと、ミッツは受付で確認を行うことにした。
放置した方が実利があるのだが、やはり仲間を蔑ろには出来ない気持ちが勝ったのだ。
「(あっ、でも、今晩まではクエストをこのままにしておきたい。マリル本人じゃないから本物かどうか分からないとか言って、夜にもう一度確認に来ると伝えれば良いか)」
カウンター到着の寸前に少しの欲が頭をもたげる。
まったく、格好が付かない。
だが、その考えが実行に移されることはなかった。
「まだ……見つかっていない?」
昨日依頼を受け付けてくれた筋肉質の男、マクスウェルが確認して教えてくれたのは、まだペンダントが見つかったと誰も報告に来ていないという内容。
「どこか他の場所で落としたとか、拠点に置いたままとか、そんなことはないのか? 結構な人数が受けていたので、見落としなんかはないと思うんだが」
「そう、ですね……。しかし、それは……ない、です。間違いなく……」
マクスウェルの確認に答えるミッツは、別のことを考えていたため途切れ途切れになる。
何を考えているかといえば、当然ペンダントを拾った3人組。
あの人相の悪さと、全く隠していない悪意。
良からぬことを考えているのは間違いない。
マリルの話ではペンダント自体は金貨10枚程度――一般の装飾品としてはそれなりではあるが、報酬の金貨150枚を棒にふるほどの価値はない。金貨150枚あれば、もっと豪奢な装飾品を手に入れることが出来る。
であれば――
「(不自然なまでに報酬が高額だったからか、依頼主が並々ならぬ気持ちで取り返したいという風に思われたんだろうな。しまった……)」
受付の際、マクスウェルが報酬を15枚程度にするよう進言していたのも、こういう事態を想定していた。
依頼主が大金を出すのであれば、直接交渉してより報酬を引き上げる。決して珍しいことではない。
注目度とモチベーションを優先するあまり、そのことに意識を回さなかったミッツの責任。
カウンターから離れると、周囲を見渡し例の3人組を探す。
自分から接触するのはおかしいが、マリルへの罪悪感からそんなことに思い至らせる余裕などミッツにはなかった。
必死に探したミッツだが、混み合った会館の中では、目的の人物を見つけることはできなかった。
失意の中、雨に濡れながら【黒髪姫の薔薇のお城】に帰る。
雨足が強くなり打ち付けるように降って来る粒が、ミッツには自分を罰しているような気がした。




