バイラルマーケティング。 その5
「とりあえず、この邪魔な金を仕舞え。一体どれだけ用意するつもりじゃ。パーティーメンバーの分だと考えても、多すぎる。ファミリーでも作る気か」
金の出所など聞きたいことはあったが、冒険者相手に不要な詮索はご法度。
なので後半は独り言。
しかし、ボッタクルの声は大きいので、ミッツにはばっちり聞こえていた。
確かに武具を大量に買うなんておかしい。
しかしミッツは、以前大量の武器を運んでいく人を見たことあったので問題ないと思っていたし、姫とマリルにもおかしいと突っ込まれなかったので、指摘されるまでおかしさに気がつかなかった。
ミッツが名の売れた冒険者であればボッタクルもこのような疑問は抱かなかったのだが、それはミッツの知る由ではない。
“ファミリー”という聞き覚えのない言葉も出て来たが、それは後で調べることにして、聞こえなかった振りをしてやり過ごす。
「まぁ、ええ。具体的にはどのクラスのもんが欲しいんじゃ? 身の丈に合わん装備を使うのは、簡単に強くはなれるがあまり勧められん。使う人間のレベルは?」
ボッタクルにはミッツが何者なのか分からないが、客であることは確か。
疑問に蓋をして、商売の話を進めた。
追及されなかったことにミッツは安堵して、質問に答える。
「7くらいです」
現在の【黒髪姫の薔薇のお城】は推奨レベルがLV7。
クエストのように、あまり奮発してしまうと対処できない冒険者が来ることも分かったので、相応のレベルを伝える。
すると、ため息を吐かれた。
「小僧。お前、もの知らねぇってレベルじゃないな。ちゃんと数えてはないが、さっき出された金だったら装備一式40人分は用意できるぞ」
装備一式は、左右武器や防具、頭部、胸部、腰回り、腕、脚、足。それにアクセサリも含めれば、400アイテム以上。
ボッタクルが多すぎると言う意味で零した言葉だが、ミッツは見積もりと捉え、思っていた以上のアイテム数に満足する。
その表情を見て、ボッタクルは呆れ顔だったのが歪む。
「小僧、お前何考えてる?」
この質問に対して、ミッツは正直に答えることができない。
ダンジョンの宝箱に入れるためにアイテムを仕入れに来たなんて、言える訳がない。
武器の大量購入も問題ないと思っていたので、言い訳も用意していない。
――となれば、口から出まかせで乗り切るしかない。
「とあるダンジョンの攻略を進めているのですが、結構一般人の力を借りていまして、その方達にも貸し出し出来ればと思いまして……」
自分が他に行なっている奇行と混ぜ合わせたこの答えは、咄嗟に考え出したものとしては及第点だったのではないだろうか。
その答えを聞いたボッタクルは、険しい顔から怪訝そうなものへと変わり、最後は呆れた表情をしていた。
「変ですか?」
「そりゃあな。意味がわからん。だが、小僧だったのか」
ふむふむと一人得心するボッタクル。
今度はそれにミッツが疑問を浮かべる。
「あいや、すまん、すまん。少し前にな、冒険者でもないのに冒険者用の装備を買いに来た奴らがおっての。優しい冒険者が助けてくれとるという話を聞いていたもんでな」
ボッタクルの言っているのは、ミッツが“大阪さん”と呼ぶ一般人の纏め役のような人とその取り巻き2人のことだろう。
いつからか革でできた胸鎧と腰当て、短剣を装備していた。
ミッツが話を聞いてみたところ、現在は農夫を返上して正式な冒険者に登録しているということらしいが。
とにかく、そのお陰でボッタクルはそれ以上の追及はやめて、武具一式を用意してくれることとなった。
「それと、LV7くらいの冒険者が行くダンジョンで、この装備が出て来たら自慢出来る武器って置いてますか? 2本か3本あればそちらを優先で欲しいのですが」
「なんだ、それは? いや、無いことはないが、値段の割には性能はイマイチだぞ。それだったらもっと強い武器を買った方が……まぁ変な小僧だから気にせんことにするわ」
本命のステルスマーケティング用の魅せるための武器も手に入れ、ミッツは【ボッタクル商店】を後にする。
臭いは最悪だったが、ボッタクルは客のことをよく考え、商品知識も豊富でミッツはとても満足だった。
手に入れた物は、ミッツの常用にもなる〈炎熱の重い大剣〉と、宝箱の目玉になる同じように装飾詞が2つついた武器。それから、4組の装備一式、要は40個のアイテム。
装飾詞とは、ダンジョンで見つかる武具には稀に特殊な能力が追加されたものがあって、その能力を示すもの。
最大で頭に3つ、尻に2つ付く。
〈炎熱の重い大剣〉でいうと、〈大剣〉――鉄の塊と呼んだ方がしっくり来る斬るよりも叩きつけるための両手剣――がベースで〈炎熱の〉と〈重い〉の2つが付いている。
〈炎熱の〉は、攻撃時に炎攻撃を追加する効果、〈重い〉は重量が増加し振り下ろす攻撃は強化されるが扱いづらくなるというマイナス効果つき。
元の〈大剣〉が非常に弱い武器なので、追加効果も微々たるものだが、〈炎熱の〉はミッツにとって嬉しいものだった。
時々赤く輝き火の粉を撒き散らすので、見ただけで特殊な武器だと分かる。
切れ味が良くなる〈切り裂きの〉や、壊れにくくなるという〈頑丈の〉ではそうは行かなかったので、最高の武器を手に入れたといえる。
早速宣伝に行きたいところだが、まずは荷物になるものをダンジョンへと持って行く。
2人で持つには購入した商品の嵩が大きく持ち運びに苦労し、街の外に出て行くときに衛兵に質問された。
持っている装備が4人分だったので、パーティーメンバーのものだと言って納得してもらったが、次回からは対策をしなくてはいけないだろう。
「そういえば、馬車とか見たことないな」
大量の荷物を運ぶことを考えたとき、ふとミッツの頭に馬車が過ぎる。
街を走る中央通りは幅が広くしっかりと舗装されているにもかかわらず、人以外の行き来を見たことがない。
そこまで考えていたわけではないが、全員もれなく徒歩だというのは違和感を感じた。
「馬車ですか? 収穫時期くらいしか使われませんよ」
そもそも、この世界の長距離移動は転移装置がある。
それに、他の国ともダンジョンを経由しての移動となるため、ほとんど交流がない。
国内でも行動は自分の生活圏内だけなので、移動手段はあまり必要とされていない。
辛うじて、門を守る衛兵が馬を常備しているくらいだろう。
ミッツが住んでいたところも、電車がそこら中を走っていたお陰で車を持つ必要がなかった。なので、似たようなものなのかと納得する。
そう考えれば、ミッツはこの世界について何も知らないことを痛感させられる。
今後は、時間を作ってそのあたりも知っていかなければと、心のToDoリストに追記した。




